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【書評】東野圭吾の最新刊「雪煙チェイス」を読んでみた。映像化される前に読もう!
2016.12.13 Tue
渡辺信吾 アウトドア系野良ライター
本日現在、東野圭吾原作の映画「疾風ロンド」が公開中だ。ドラマ化された「白銀ジャック」に続く雪山シリーズの2作めとなる。両作品ともに映像のほうは観ていないが、小説は発行直後に読んでいる。そして3作め「雪煙チェイス」が先日発売されたので早速読んでみた。
正直なところ、私は東野圭吾作品の熱烈なファンという訳ではない。「秘密」や「レイクサイド」など代表作は読んでいるし「容疑者Xの献身」などは嗚咽しながら読んだ記憶があるのだが、だいたい読むのは映画化やドラマ化など話題になってからだった。しかし、この雪山シリーズは、出ると即買って読んでいる。まぁ実業之日本社の“いきなり文庫”というシリーズなので買いやすいというのも大きな理由のひとつなのだが。
「雪煙チェイス」の表紙はカメラマン板原健介さんの写真、被写体はプロスノーボーダ藤田一茂のライディングというのもそそられる。家中探してみたが「白銀ジャック」が見つからなかった。誰かに貸したままかな?
この雪山シリーズは、ご存知の通り舞台は雪山。もちろん山岳ではなくスキー場。特に「疾風ロンド」と「雪煙チェイス」は架空のスキー場を舞台にしてはいるが、明らかに野沢温泉スキー場とわかる(小説中では「里沢温泉」)。野沢温泉スキー場のゲレンデやサイドカントリー(自己責任エリア)を知っている人なら,小説を読みながら「これってあのバーンだな」「ここあそこのショートカットでしょう」とニヤニヤしてしまうことだろう。小説のなかの風景は、得てして読み手のイマジネーション次第ではあるが、フィクションとはいえ実在のスキー場を下敷きにしてあれば、鮮明な映像として脳に浮かび上がってくる。
東野圭吾作品の特徴として、スノーボードに関する表現が非常に違和感がないのも読みたくなる理由のひとつだ。作家さんが文中で描く専門的な表現は、いくら優秀な校閲ガールがいたとしても、熟知していないことをモチーフにした場合、その違和感を消し去ることはなかなか難しい。しかし、東野圭吾作品にはその違和感がない。それは東野氏が正真正銘のスノーボーダーだからだろう。
2004年に実業之日本社から発行された「ちゃれんじ?」という東野氏のエッセイ集がある(現在は角川文庫版)。発行当時このエッセイを読んで、四十路の東野氏がスノーボードにハマっていく姿が微笑ましかった。同時にスノーボードにハマり始めの頃の気持ちを思い出し共感した。こんな有名作家さんがスノーボードに真剣に取り組んでいるということも、いちスノーボーダーとしてうれしくもあった。もちろん、当時から実業之日本社で刊行していたスノーボーダー誌編集部の影響も大きかったのだろう。かくして、スノーボーダーであり超有名大物作家東野圭吾が出来上がり、その後の作品に大きな影響を与えることとなっているわけだ。
さて、今回の「雪煙チェイス」。「疾風ロンド」の登場人物や「白銀ジャック」の舞台となったスキー場も登場しており、続けて読んでいる人には続編として読める。もちろん初めて読む人にも充分楽しめる内容だ。
あらすじとしては、ひょんなことから殺人容疑をかけられた大学生が、唯一アリバイを証明できる女性スノーボーダーを探して、雪山で奮闘するというストーリー。前2作ほどの緊迫感はないので、多少の物足りなさはあるが、ページをめくる手が止まらない、一気読みせずにはいられないという展開や疾走感溢れる筆致は、さすが東野圭吾だ。それにも増して、とりわけ今作は、小説を通して東野氏と読者の自分が同じ“シーン”や同じ“絵”を共有しているような不思議な感覚があった。勘違いなのかもしれないし、思い込みかもしれないが……。
十中八九、今作もいずれ映像化されるだろう。しかしまずは文章で読んでほしい。イマジネーションは映像より鮮明だから。