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中島英摩が行く! 初マウンテンバイクで長野県伊那市の最高すぎるトレイル、走ってきました。

2021.04.14 Wed

中島英摩 アウトドアライター

南アルプスと中央アルプスに囲まれた長野県南部の街・伊那市。
ここが今、さまざまな“自転車アクティビティ”に
力を入れる街としてひそかに話題になっています。
アウトドアライター中島英摩が1泊2日でその実情を探りに現地へ!
第1回に引き続き、第2回でも取って出しの情報をお届けします。

▶第1回「中島英摩が行く! 長野県伊那市で自転車×旅アクティビティ“チャリップ”体験してきました
 

 グラベルロードバイク旅「チャリップ」を体験した1日目。温泉に浸かってすっかり身体もほぐれ、2日目にチャレンジするのは、初体験のマウンテンバイク! わたし、いままでいろんなアクティビティを体験してきて、ときには空まで飛んだけど、じつはマウンテンバイク経験ゼロ。なんとなく怖いなぁというイメージがあり、誘われても敬遠してきた。走るだけでもビビる山の下りをバイクで走るとは、なんてエクストリームなんだ!と。

 そんなわたしにマウンテンバイクの楽しみを教えてくれるのは、南アルプスの山麓でマウンテンバイクトレイルツアーを運営している「TRAIL CUTTER」。今はコロナ禍で海外からの旅行客はいないけれど、国内外のマウンテンバイク好きに人気を集める業界では有名なツアー会社だ。出迎えてくれたのは、優しい笑顔の名取さん。
マウンテンバイクのガイドツアー運営と持続可能なマウンテンバイクトレイルビルド技術の提供を行なう伊那市のTRAIL CUTTERには、1グループ1ツアーで行うプライベートツアーのほか、日程とプログラム内容を告知して開催されるオープンツアーなど、各種プランが用意される。ホームページにはコース説明も!
<Data>TRAIL CUTTER 住所:長野県伊那市長谷非持1185 電話:0265-98-2882 https://trail-cutter.com

 マウンテンバイクの魅力に取りつかれて27年、ひたすらマウンテンバイクと森と土と向き合ってきたのだとか。名取さんはツアーガイドだけでなく、「トレイルビルド」といって、マウンテンバイクが走れる環境作りから手掛けている人。今までに作成にかかわったマウンテンバイクトレイルは150㎞以上!

「さて、まずは今日乗っていただくマウンテンバイク選びからですね」

 見るからに高そうなカッコイイバイクが目の前にずらり。え~っと、どれにしようかな~。小さめサイズの鮮やかなカラーのフレームが目に入る。
「これにしようかな?」
「おっ、それはうちで用意しているマウンテンバイクのなかも女性のモデルでもっとももいいバイクですよ! サイズもちょうどよさそうですね」
「これにします!」
 イチバン高いバイクと聞いてルンルン。地面からの衝撃を吸収するサスペンションが前後輪についている、いわゆる“フルサス”、登りと下りに応じてハンドルそばの手元のレバーでサドルの高さを調整できる“ドロッパーシートポスト”の機能付き。レンタルでこんな上位モデルに乗らせてもらえるなんて贅沢~!

 さっそくバイクにまたがって、まずは平らなところでマウンテンバイクの基本レクチャーから。初歩的だけど案外聞かないとわからない、乗り方、降り方、ブレーキのかけ方。同じ自転車でもママチャリ、クロスバイク、グラベルバイク、いままで乗ってきたものとも違う。山の中の不整地で乗るから、使い方をしっかり覚える。
 次に、登り下りでのポジション。これが結構むずかしい。どうやってトレイルの凸凹に対応するのか、ブレーキをかける時に前へ転ばないようにする方法など、このポジションこそがマウンテンバイクではめちゃくちゃ大事だということを後から思い知るとはこのときは想像もできず……。
 さて、それぞれのマウンテンバイクを車に積み込んで出発! 今日のマウンテンバイク体験は、名取さんが最初から最後まで一緒に案内してくれるガイドツアー。長~い峠道は車でズンズン、スタート地点まで連れていってもらえるのだ。麓から漕いで、山の中に入る前にクタクタなんてこともなし!
 最初はフラットな道なので安心してくださいね、と言われツアーがスタート。
 ダート道っぽいところをゆるゆる走りながら、このバイク乗り心地最高ですね~! あ、木漏れ日がきれいですね~! なんて言って、余裕ぶっこいていた。

「さて、ここからですよ。おおいに叫んでくださいね。」
「……? (結構なだらかなもんだな~)」
「ゆっくり行くのでついてきてくださいね! はい、ここ曲がりますよ!」
「え!? ここ!?」
 ギュインと曲がってトラバースして見えてきたのは岩混じりの長い尾根! ……やばい、想像以上に岩が大きい! これ、一体どこを通るの!?

「ギャ~! こわぁぁぁぁあああああ!」

 習ったポジションはどこへやら。下りの勢いにびっくりしてブレーキギューギュー、全身ガッチガチ! 隣の隣の山くらいまで聞こえんじゃないかっていうくらいの大声で叫び倒し、テクニカルな岩のある部分はほんの少しだったけど、トレイルを必死の形相で越える。めちゃめちゃ小さい石っころも、小指くらいの枝も、想像以上にタイヤを取られるので、とにかくスリル満点!

 難所を超えればほっとひと息。穏やかなトレイルは超気持ちいい。わたしはハイキングもトレイルランニングもするけど、そのどれとも違った景色。視点も違えば疾走感も違うから、見えてくる森の雰囲気も全然違う。ちょっとした段差や植生の変化にも敏感になる。歩くよりもずっとスピードが速いから、視線は先へ先へ見通すようになり、なんだがうんと視野も広くなる。
「この道、すっごくいい!」

 波打つトレイルに身を任せると、まるでジェットコースターのような浮遊感。手がつりそうなほど握っていたブレーキもいくぶんかゆるめて、緩急を楽しめるようになってきた! TRAIL CUTTERがガイドするエリアは、なんとほとんどの道を「手」で切削して整備しているのだとか。手……で? 手とは!?

「例えば大雨で水が流れてトレイルが削れてしまわないように、わざと波打つように緩急をつけているんです。それでいて谷側にやや傾斜をつけてあって、水が滞留しないように工夫しています。こういう細やかさは手でやるしかないんですよね。みんなで道具を持って山に入って整備しているんですよ」
 伊那エリアで、かつて麓の人々が山に入るために使用した古道を整備再生し、独自のアレンジを加えたコース。初級者から上級者まで幅広く楽しめるバリエーション豊かなトレイルは、総距離80kmという壮大さ! 伊那でマウンテンバイクのツアーをはじめてもう12年になるという。それだけの長い間、森を整備して安全に楽しめるようにみなさんが汗を流しているという話を聞くと、安心感と信頼感がグッと増す。

「つ、ついていきます・・・!」

 とは言ったものの、ゆ~っくり走ってくれているはずの名取さんにまったく追いつけない……! そう、じつはわたし、とんでもなくビビりなのである。そんなわたしに、次にやってきた試練はカーブ。

「曲がる時は、怖くても崖の方を見ないようにしましょう! バイクは視線の方向に進むと思ってください。崖に目をやると身体もバイクもそっちへ向いてしまいます。進行方向を見るようにしてくださいね!」
「はい! わかりました!」

 返事だけはやたらでっかいヤツって必ずクラスに1人はいる。『腕を突っ張らず、肘を曲げて、姿勢を低くする』というレクチャー通りにしているつもりの図がこれだ。
 全力で突っ張っている。気持ちは腕を曲げているつもりなんだ……! そしてすぐ足を着くわたし。

「足を着くことも、いいことなんですよ。そのほうが安全で、自分でちゃんとコントロールできているということですからね」

 なんて優しいんだ! こんなヘタレなわたしでも、全部褒めてくれる。いくつものカーブが続く九十九折れを繰り返しているうちに、3回に1回くらいはなんとなく上手く曲がれるようになってきた。褒められて伸びる子。できた~!と思わず声が出る。丁寧に教わりながら進むから、これなら怖くないかも!
 しばらく乗ったら、ひと休み。また乗って、ひと休み。夢中になっていると自分でも気付けなかったけどバイクを置いた瞬間、す~っと力が抜けて行く。初心者はめいっぱい力が入ってしまうから、名取さんがちょうどよいタイミングで休憩を入れてくれる。
 この先ちょっと深いから勢いで行っちゃいましょう、と言われて、スーッと走っていく名取さんの後をこれまでどおりルンルン漕いでいると……。な、なんだこりゃ!?

 漕いで!漕いで!と言われたのにアッサリ足を着くわたし。そして下りる。そして押す。なんと、膝下まで埋まる枯葉の膝パウ! どうやって行ったのか謎すぎる! 本当はマウンテンバイクならこのくらいの枯葉がホイールにはさまったところでまったく問題なし。ガンガン行けちゃうのだ。めちゃくちゃよいバイクを借りているんだから思い切っていけばよかった!(本来なら整備で枯葉は避けているけれど、この日はマウンテンバイクツアーのシーズン前に取材させてもらったのでいつもより増してアドベンチャーだったらしい)
 後半になるにつれてバイクの操作にも慣れてきて、スピードにも乗り、カーブのコツもつかんできた! ヨシヨシ、マウンテンバイクの楽しさがわかってきたぞ!と、いうところで今回のツアーは終了。夢中になりすぎて、あっという間! う~ん、もっと乗りたい! 散々ビビって手を出さずに生きてきたのに、そんなのは、ものの数時間でこれっぽっちもなくなってしまった。しまいには、マウンテンバイクも欲しくなっちゃうなぁなんて言い出すんだから、名取さんの術中にいとも簡単にハマってしまった。参りました! こりゃあ、楽しいわ! マウンテンバイク最高!
 最後に、山好きなわたしにとっておきのご褒美もあった。

「見えますか? あれ、東駒ですよ」
「カイコマ!」
 長野県伊那市と山梨県北杜市にまたがる日本百名山のひとつ、甲斐駒ケ岳。地元の人は、甲斐駒ケ岳のことを通称、“東駒”と呼ぶ。何度も登っている東駒。きっと山頂からこちら側も眺めていたはずだ。まさか遠くから見ていた麓の森のずっと奥にこんな楽しいフィールドと遊びがあったなんて。またひとつ、伊那に来る理由が増えた。

(文=中島英摩、写真=佐々木健太、編集=福瀧智子)

////

 南アルプスと中央アルプスに囲まれた長野県南部の街・伊那市。次回第3回では、フィールドが間近に迫る街での暮らしぶり、そしてその魅力をたっぷりとお聞きした座談会形式でご紹介します。また伊那市民が「立ち寄りマスト」と絶賛する名店も合わせてご覧いただきます!

 第3回は4月16日(金)公開予定!

中島英摩 アウトドアライター

ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。特技は走りながら取材すること。

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