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お肉といっしょにたっぷり食べたい「春のガッツリ系野草レシピ」

2021.04.21 Wed

渕上健太 林業従事者、ライター

身近にはえるヤブカンゾウ&クレソンを使いたおそう
 例年になく季節のめぐりが早い今春。日当たりがいい野山や河原では、山菜や野草たちが急ぎ足で成長を続けている。

 今回取り上げるのは身近な場所でかんたんに採れる「ヤブカンゾウ」と「クレソン」をお肉といっしょに調理するボリューム重視の「春のガッツリ系野草レシピ」。ヤブカンゾウもクレソンも見た目は地味だが、野菜感覚で手軽に使えて、アウトドアでも気軽につくれるメイン料理に大変身する。野草料理というとなんとなく物足りないと感じるアウトドア男子もきっと大満足するコスパ抜群のイチ押しレシピだ。


雑草扱い? のヤブカンゾウ
 ヤブカンゾウはまだ冬枯れの景色が広がる春先、真っ先に新芽を出す多年草。畑のあぜや道路脇の斜面、小川の堤など、陽当たりがいい場所に黄緑の新芽が続々と顔を出す。多摩川や山手線の土手など都内でもふつうに見られるほど身近な野草だ。互いに抱き合うように互生する葉の姿は愛らしく、見ているだけでどこかやさしい気持ちになる。

 ただ身近な場所に群生しすぎているせいか、積極的に採っているひとはほとんど見かけない。「山菜フリーク」の友人や知人に尋ねても「ヤブカンゾウ? 名前は知っているけど採らないな」という答えがほとんど。タラノメやコシアブラといった「木の芽系」と比べると、かんたんに大量に採れるため、格下の扱いをされているように感じてしまう。

 しかし「ハーブ王子」の異名を持ち、テレビ出演などで活躍する野草研究家の山下智道氏は著書で、春のいちばんおいしい野草を聞かれた際に「即答でヤブカンゾウの芽生えと答える」と紹介している。ヤブカンゾウは野草界の隠れた実力者なのだ。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギ駐車場脇の斜面に群生するヤブカンゾウ。

 ヤブカンゾウは新芽や若芽のほかに、地中部分の白くて太い茎もやわらかくておいしく食べられる。ナイフや鎌を土の中に深く差し込んで、掘り切るようにして採るのがコツだ。アクが少ないため、下ごしらえは軽く湯がくだけで十分。火を通すと少しぬめりが出て、ほんのりとした甘みが口中にひろがる。ほっこりとした外観同様に、春らしいやさしい味わいだ。

 若くて小さい株ほどやわらかくて甘みが強いが、たくさん採るには根気が必要。代表的な食べ方の酢みそ和えや天ぷらの場合は小さめ、炒め物の場合は大きめの株を使ってボリューム感を出してもよいだろう。

 ヤブカンゾウの仲間のノカンゾウも同様に食用になる。ヤブカンゾウの花は八重咲き、ノカンゾウは一重咲きだが若芽のうちは見分けるのがむずかしい。味や食感もほぼ変わりないようなので、とくに意識せずに採取して調理している。両者とも、夏に咲く花やつぼみも天ぷらや酢の物などに料理でき、新芽よりおいしいというひともいる。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギ鎌やナイフを使って掘り取るのがコツ。


お肉と炒めると意外なおいしさ!
 アクが少なく、シャキシャキとした歯触りのヤブカンゾウ。野山では地味な存在だが、シンプルな味付けでお肉と炒めると、見た目もさわやかな春の主役料理に変身する意外性を隠れ持つ。

 合わせる食材でとくにおすすめなのがお肉のなかでは比較的、淡泊な味わいの鶏肉。今回は特売で買った砂肝が冷蔵庫にあったため、調理師の妻のアドバイスで粗びきの黒こしょうを使った「ニンニク黒こしょう炒め」をつくってみた。

 調理方法はかんたん。最初にヤブカンゾウを歯触りが残る程度に軽く湯がいてから3~4センチのざく切りにする。フライパンに油をひいて、スライスしたニンニクを入れて香りを出したら、薄切りにした砂肝を投入。砂肝に十分に火が通ったらヤブカンゾウを加えてざっと炒め、仕上げに塩で味付けし、ひきたての黒こしょうを多めに振ったら完成。どことなく下仁田ネギを思い起こさせるヤブカンゾウの甘みとジューシーな食感に、砂肝のこりこりとした歯触りがベストマッチ! ビールやハイボールと相性抜群だ。

 砂肝のほかに鶏もも肉などといっしょに炒めても、もちろんおいしく仕上がる。 採取のかんたんさと野菜感覚で料理に使える手軽さが、野草のなかでも群を抜いているヤブカンゾウ。湯がいたり、炒めたりするとかさが減るため、たくさん採ってたっぷりと使うのがおすすめ。

 葉から土の中に隠れた白い茎の部分まで全体を使うことができるが、成長が進むと葉は硬くなり甘みも落ちる。同じ時期でも生えている場所の標高や日当たりなどで成長具合が変わるため、食べごろサイズの群落を見つけたい。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギアウトドアでも手軽につくれる「ヤブカンゾウと砂肝の炒め物」。


脇役のクレソンも主役級に!
 季節外れの陽気でヤブカンゾウの新芽を採り逃したひとにおすすめのガッツリ系野草レシピの二品目が、お肉料理の付け合わせで定番のクレソンを使う「春のクレソンすき焼き」。クレソンは水辺に群落をつくり、生命力が強いため通年で採取できるが、やはりこれからの時期に成長するやわらかな葉をたっぷりと食べたい。クレソンの和名はオランダガラシ。独自の辛味とシャキシャキとした食感が、熱を加えることで全体的にマイルドになり、甘辛い味付けの和食の定番料理と意外なマッチングをみせる。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギ身近な水辺に群落をつくって自生するクレソン。

 これもつくり方はかんたんで、通常のすき焼きに入れるシュンギクの代わりにクレソンを使うだけ。クレソンはよく洗って根を取り除き、株立ちしていたら手でちぎり分けて食べやすい大きさにする。鍋の真んなかにクレソンをどーんと天盛りすると、見た目が豪快でおいしさもアップする。

 さっと鍋にくぐらせて歯触りを残したり、たれやお肉の味を染み込ませてクタクタにしたりと、味や食感を変化させるのも楽しい。クレソンの辛味とほのかな苦みがこってりとしたすき焼きの味付けと相性抜群。生のままだと少ししか食べられないが、すき焼きに入れると次々にはしが伸びて、たくさん採ってきたつもりでも足りなくなるかもしれない。給料日前でたっぷりの牛肉を買えない場合でも、いつの間にかクレソンが主役になり、お肉が少なくても満足感を得られること請け合い。

 野菜とお肉の双方がメインになり、飽きずに食べ続けられるという点で、コマツナなどの青菜と豚肉をサッと煮てポン酢で食べる「常夜鍋」に近いスタイルともいえそうだ。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギクレソンを使ったすき焼き。少し薄めの味付けにしても春らしくておいしい。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギこのくらいの量なら意外とあっという間に完食してしまう。

 お肉の値段はさておき、すき焼きは材料を切ったり、お肉をお皿に並べたりするだけで準備が済むかんたん料理。キャンプサイトへの道中でクレソンの群落を見つけたら、ちょっと奮発して牛肉を買ってすき焼きを楽しんでもおもしろそうだ。新鮮なクレソンはすき焼き以外にもサラダやおひたし、天ぷらなどの料理でもおいしい。


節度を忘れず末永く採取
 地域によってはなかば「雑草扱い」のヤブカンゾウ、そして身近な水辺に生えていることが多いクレソン。どちらも比較的見つけやすい野草の代表格だが、採取する際は田畑など私有地に無断で立ち入らないように注意したい。

 またヤブカンゾウ、クレソンともに繁殖力は強いが、同じ場所で採りつくしてしまうと、再び群落をつくるまでには長い年月が必要になる場合がある。山菜や野草採取に詳しい市民グループ「渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える」代表の田口康夫氏は「クレソンの場合、株が根こそぎ引き抜かれて群落がなくなった場所もある。長く楽しむには山菜を含めて節度ある採り方が大切だ」と話す。また「農地に近い場所では、除草剤が散布されている場合もあるため、十分な注意が必要」とアドバイスする。

 今回紹介したヤブカンゾウやクレソンは、形態が似ている有毒植物と誤食するケースは少ないとみられるものの、不安があれば詳しいひとに聞いたり、図鑑やネットで特徴を調べてみたりすることも大切。最初は少量ずつ食べるほうが安心といえる。採取するときは、根こそぎではなく、茎をはさみで切ってやるなど、末永く同じ場所で採ることができるように配慮したい。

 今回の取材では、クレソンを採りに出かけた近所の水辺の近くで、同行していた妻がおどろいたような声を上げた。

「これもしかしてウコギ?」

 見ると高さ3メートルほどの見たこともないような立派なウコギの木が道の脇に生えている。タラノメやコシアブラと同じ仲間で、さっと湯がいた新芽をご飯に混ぜて食べると風味が格別な山菜だ。ウコギを採るのがはじめての妻は興奮した様子で新芽を摘み採っていた。

おなかも心も大満足「春のガッツリ系野草レシピ」 ヤブカンゾウ クレソン ウコギ取材の帰り道に偶然採ったウコギの若芽。

 野草に限らず山菜やキノコ採り、渓流釣りを含めてこうしたビギナーズラックは珍しくない。うろ覚えでもいいので、いろいろな種類の野草や山菜などの名前や姿を頭に入れ、引き出しを増やしておくと、思わぬ副産物に出会えることがある。コロナ渦に伴う三密回避の流れを受けてアウトドアでの遊びの人気は急上昇中。一部のフィールドは混み合っているが、自分だけの遊び場を見つける楽しみはまだまだ残されている。これから本格的なグリーンシーズン。山野や渓流を歩けば、きっと新たな食材との出会いが待っている。

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