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カスケードデザインを支える2人のアメリカ人がやって来た!!! その②

2016.11.07 Mon

宮川 哲

宮川 哲 アウトドアライター、編集者

 Chris Lowe(クリス・ロー)、Thomas Threlkeld(トーマス・スレルケルド)。ともに、カスケードデザイン社の要職を務めるふたりがサーマレストとMSRのこれからを語ってくれた。キーワードはKAIZEN!?

カスケードデザインを支える2人のアメリカ人がシアトルからやって来た!!! その①

   
いまや、MSRなしでは語れないカスケードデザイン

A……脱線へのおつきあい、ありがとうございました。先ほどの買収話の続きですが、カスケードデザインは2001年にMSRを買収しています。テント市場に介入するというのは、とても大きなことだったと思いますが、そもそもなぜMSRを?

C……MSRの前身の段階の話で。81年にREIがMSRのオーナーのラリー・ペンバシーからブランドを買収。当時はあのMOSSテントだったんだけど。

A……モスのファンは日本にもたくさんいます。すごくいいテント。
T……だよね。そのREIがあのタイミングで売りに出したがっていたんだよね。
C……両社ともシアトルに本社があって。結局、いまはカスケードの敷地になっているけど、たった2ブロックしか離れていないところにMSRの本社があった。

T……また、会社の境遇もよく似ていたんだ。カスケード側から見れば、サーマレストがあって、シールラインにパックタオル、プラティパスを持っていたんだけど、社としてはもっとセレクションを広げていく必要があった。MSRのほうには、テントはもちろん、ストーブもあるしコッヘルもあるし、浄水器もある。

C……同じシアトルだったことも大きい。そして話がまとまって。でも、MSRを買収したおかげで、カスケードデザインとしても勢いが出て、本当によかったと思う。いまのカスケードはMSRなしでは考えられない。

A……この先は? ほぼ、ウェア以外を扱う大きなカンパニーとなっているが。
T……Good question. 

C……カスケードデザインは、MSRの買収で完成したわけではない。ここ4年ほどの間でも、小さなところではいくつかの買収は試している。たとえば、このコットもラグジュアリーライトという会社から買収をして、サーマレストの名前にして販売をしている。
ラグジュアリーライトもいまではサーマレストブランドに。来春には、より軽く快適なニューモデルも発表される

T……大きなブランドを買って、持ってくるというのもアリだけど、小さなブランドをサーマレストの名前で再販する方法もあり。一般のお客さんもラグジュアリーライトという名前では買わなくとも、サーマレストとなれば買ってくれる可能性が上がる。認知度が上がるから。これもKAIZENのひとつ。いいものをつくっているならなおさらで、より大きな流通が生まれる。

C……このラグジュアリーライト、かつて日本で流通していたこともあるんだよ。小売りのODBOXで扱っていた。

T……トモは知ってるか?
A……ODBOXのトモといえば、土屋智哉さんのことですよね。
T……トモはトモダチ。ORでよく会うよ。

A……お、意外と身近に仲間がいましたね。

※トモダチのトモとは、元ODBOX、現、三鷹のハイカーズデポを主催する土屋智哉さんのこと。いまや用具界の重鎮のひとり。カスケードデザインのトーマスさんと土屋さんは、OR(=Outdoor Retailer/アメリカ最大のアウトドア展示会)で知り合い、以来のお友だちでした。

企業としての社会的、地球的な貢献も

A……では、アウトドアジャンルを充実させていく、という意味ではいまは過渡期に? 10年先のカスケードは?
C……5つブランドがあるので、どのブランドかにもよって答えがちがうのだけど。じゃ、会社として。まず、アメリカでの製造は必ず続けていく。

T……これには、ジョン・バローズの哲学もあって。Made in UASにこだわるにはいくつかの理由がある。国内のマーケットを盛り上げる。シアトルでは雇用が生まれ、そして経済が発展する。国のことを考えれば当たり前なのだけど。

C……たとえば、他社では他の国で製造させたりという率は高いと思う。でも、現体制のままでは、自分たちの目の行き届いたものがつくれなくなる可能性があるなと。ゴミ処理の問題もあるし、どんな環境で従業員が雇われているのかもわからない。ならば、目の届く範囲で、地球のこと、従業員のことを考える会社として、アメリカでつくる。それがいまの考え方。

T……もうひとつ言うなら、設備もエンジニアも全部アメリカでつくることは、製品クオリティの保持にもつながっている。また、製品を出したあとのメンテナンスについても、体制が整っているのですぐに対応ができるから。

A……なるほど、まさに地球規模での考え方ですね。では、人に対してはどうですか? 具体的にブランドとして社会に対して取り組んでいることなどはある?

C……サーマレストに関していえば、「寝心地がいい」というキーワードをベースにして、家庭用のベッドのほか、病院のベッドにも使われている技術がある。サーマレストが培ってきたテクノロジーを適用させれば、アウトドア以外のジャンルでも活躍できる場は多い。
T……飛行機のシートもやってるんだよ。そのほか、乗馬用のシートとか。マットレスというところでは、いわゆる難民が地ベタで寝なくともいいようにとリリーフベッドを送っている。気持ちよく眠れるようにと。

C……日本の東日本大震災のときにもたくさんのマットレスを使ってもらった。細々としたところでは、そんな活動も続けている。

T……あと別の話としては、カスケードデザインが社として取り組んでいることのひとつに、「きれいな水を供給する」というテーマがある。
C……安全な水は、人間が最低限必要とするもの。生きる上で。それは、アフリカでも軍事の面でも。

T……シアトルに、自社のウォーターラボがある。そこでは、浄水器の開発やら試験をするための設備を整えているのだけれど、微生物関連のバイオロジストが常時7名働いている。水に関わるラボとして、他社製品を密かにテストしてみたり(笑)、第三者機関に使ってもらうこともある。
シアトルにあるウォーターラボ。このラボでの日々の研究が、MSRやプラティパスの浄水器やボトル誕生につながっている

C……いまのMSRとプラティパスの浄水器があるのは、このラボのおかげ。ガーディアンのテクノロジーなどは、ここで生まれたもの。
T……ガーディアンはいま、世界中の市場で出ている浄水器のなかでも最良のモデルだと思うよ。2.5ℓの水を1分間で浄水できる。これこそ、まさに「きれいな水を供給する」ことにつながっていることだよね。
ガーディアンはMSRを代表する浄水器。トーマス曰く、世界ナンバー1の名品。1分間に約2.5ℓもの水を浄水できるので、アウトドアはもちろんのこと災害時にも非常に役に立つアイテムだ


ネバダ州のリノに新しい工場が完成

A……新しい工場ができたと聞きました。
C……リノの工場のことだよね。16年だから、今年の1月に完成。倉庫だけは、その前の年にできていたんだけどね。

A……そこではなにをつくっているのですか?
T……いまは、プラティパス、シールライン、サーマレストの簡単なやつだけ。
A……簡単というと?

T……自動膨張じゃなくって、クローズドセルのほう。Zライトとか。あと、来年の話になるけど、MSRのスノーシューを持っていくように考えている。規模が大きくなってきたので、その対応の意味があるよね。工場の新設は。

C……このほか、他の自社工場内には低温測定ラボなんかもある。浄水器と同じで、マットやスリーピングバッグのほうも、ちゃんと数値化して開発とチェックを繰り返している。R値なんかも、ここで測った値が表示の根拠となっている。

※R値とは、マットレスやスリーピングバッグのあたたかさを示す数値のこと
カスケードデザインにあるコールドチェンバー(低温測定ラボ)。マットレスやスリーピングバッグなど、ひとつひとつの製品のテストが繰り返される。信頼のおけるギアが生まれる背景には、なくてはならない施設だ
A……マットレスの数値という考えは、いつごろ生まれたもの? 72年当初にはなかったですよね。
T……う~ん、わからん。

C……でも、さっきの13年前のパフォーマンスモデルのときには、ちゃんと測定されていたみたいだよ。たぶん、コールドチェンバーができたのが15年くらい前だったと思う。

A……では、それ以降はすべてのモデルでチェックされているんですね。
C……そうだね、全モデル。本国ではスリーピングバッグも展開しているから、ラボは大忙しだよ(笑)。

 

続々と生まれる期待のニューモデル

 クリスとトーマスは、来春の新モデルを持参して来てくれていた。スピードバルブのついたマットレスのほか、ウルトラライトのコットにフェス向きのテント、サーマレストの新作チェアにMSRテントの最新モデル。いよいよ発表されたMSRのオールシーズンおよびアタックテントは注目の的となることまちがいなし。そして、18年にはあの人気モデル(!?)もリモデルされるとか、されないとか……。と、せっかくなので、テントのニューモデルに関する話も少し。

C……来春の話だけれど、MSRから山岳用とオールシーズンが出るよ。
T……アドバンスプロ。究極の山岳用で、スペースが限られていたり、風が強いときでも簡単に立てられる。スピードクライミングなんかにいいよね。

A……日本の場合は雪山ですね。
C……じつはデザインをしたのは、あのウーリー・シュテックなんだよね。
T……デザインというか、共同開発だよね。

A……ウーリー・シュテックといえば、スイスのスピードマシーンですよね。世界に名高いクライマーの。
C……そうそう、スピードクライミングの彼。

※ウーリー・シュテックはスイスの登山家で、アイガー、マッターホルン、グランド・ジョラスのアルプス3大北壁の最速登頂の記録を持つ。

T……イーストンの新しいポールで、サイクロンポールを使っている。飛行機にも使われているコンポジット素材で、アルミのように折れることもないし、カーボンのように爆ぜてしまうこともない。

C……ポールの構造が、上から雪が積もっても潰れない構造になっていて、押されても跳ね返る仕組み。
T……あと、特徴的なのはテントの側面に直接取り付けられたガイラインのポイント。
C……まったく新しい技術で、MSRのオリジナル。

A……単純構造な上に、風にも雪にも強い。まさにプロ仕様のテントですね。
T……だって、ウーリーが関わってくれているからね。フィールドテストもシアトルの地元、レーニア山でやったんだ。ちゃんと雪のある場所でね。

T……アドバンスプロは究極のクライマー用だけど、一般向けにもいいテントが発表されるんだ。
C……アクセスは、誰でも使えるテントだね。これもサイクロンポールを使っていて、風に強くてかつ軽くて、丈夫なテントができたと思う。

T……強風の吹き荒れる山の稜線とかでなければ、オールシーズン使えるモデル。ポールが側面にも入っているから、雪の重みにも十分に耐えられる。
A……オールシーズンなんですね。サイズ展開も3つあるし、これはかなり注目されそうですね。

C&T……Yes!! そう願っているよ。
来春、2017年のSPRING & SUMMER WORKBOOKには、すでに新モデルの情報が掲載されている。いいテント、出ますねー!!!(嬉)
T……最後に少し付け加えていいかな? 
A……もちろんです。カスケードデザインの大切な部分、教えてください。
T……どんなに大きくなってもカスケードデザインのコアな軸足は、アウトドアに置いておきたいと思う。だって、アウトドアの時間をひとりでも多くの人が体験できれば、そのぶん、幸せが増えるということでしょ。
C……それこそが、大切な仕事。だから、使いやすい信頼の置けるギアをつくり続けますよ、ぼくらは。
A……ありがとうございました! これからも、たくさんワクワクする商品をつくり出してくださいネ。

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