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“青春×京都×自転車”の三位一体! 映画『神さまの轍(わだち)』の作道 雄監督インタビュー

2018.05.09 Wed

柳澤智子 ライター、編集者

現在、上映中の『神さまの轍-checkpoint of the life-』。
自転車レースにまつわる青春映画ですが、
そのレースシーンのリアルさがすごい!
制作裏話を作道 雄(さくどう ゆう)監督にうかがいました。

<あらすじ>京都府井手町にある中学校に通う勇利と洋介は、ふとしたきっかけでロードバイクに熱中していく。数年後、勇利はプロのロードレーサーになるが、社会人となった洋介はロードバイクに乗ることさえやめてしまっていた。掴んだ夢に挫折してしまう勇利と、自分の夢を見つけることが出来なかった洋介の人生とが、思い出の地、井手町で開催されるロードレース“ツールドKYOTO 2019”で交錯する。総勢100名を越えるエキストラが走るシーンは、3日かけて撮影された。ほぼ全員が地元である京都南部在住のレーサーで、このエキストラの存在、協力なしに映画はできなかった、と作道監督。



 待ち合わせは、「Y's Road 川崎」。国内最大級のスポーツサイクル専門店で、自転車映画の監修・協力でもおなじみですね。この『神さまの轍』の宣伝にも一役買っています。
 待ち合わせの時間ぴったりに、さっそうと現れた作道監督。まだ27歳という若さながら数々のドラマやCMを手がけ、滋賀県を舞台にした映画『マザーレイク』(2017年公開)では、脚本を担当。商業映画は今作がデビューという注目の若手監督です。
作道 雄(さくどうゆう)●1990年大阪府茨木市生まれ。京都大学法学部卒︎。株式会社クリエイティブスタジオ ゲツクロ代表取締役。大学時代に、演劇活動と自主映画の制作をきっかけに創作活動を開始。大学卒業と同時に独立、KBS京都での連続ドラマやテレビCMを制作する。2017年、脚本を担当した『マザーレイク』が全国公開。今春から、拠点を東京に移す。好きな街は、西新宿。 撮影/花田龍之介

高橋(以下 ) 今作は京都府井手町を舞台にされていますが、その理由ってなんだったんですか?

作道監督(以下 ) 私自身、中学のときから京都に暮らして15年。大学時代も京都で過ごし、思い入れのある場所なんです。この映画のそもそもの始まりは、京都産業大学の理事である大西辰彦さんが声をかけてくれたことでした。「地域活性化の一環で井手町を舞台にした映像を撮らないか?」って。

 映画で地域活性化をする取り組みは、今多いですね。

 最初は短編を数本撮って、ウェブドラマにするくらいの規模だったんですよ。町が地方自治体に下りてくる補助金を小額ながら獲得していたので。でも、それだと規模が小さくなってしまうので、ちょっと背伸びをして長編を撮ろう、と決めたんです。琵琶湖を舞台にした『マザーレイク』の脚本に関わったときに、ウェブにはない映画の力の大きさを感じたんです。地元の方々にボランティアやエキストラとして関わっていただいて、イオンシネマで上映をみんなで見て。DVDとなって残りますし。地域に密着して作る映画のよさを感じました。

 井手町はいかがでしたか?

 井手町って、京都駅から新快速で30分くらいの便利な場所にあるんですよ。大阪、滋賀、奈良にもアクセスがよくて、通行の要所でもある。でも、今、人口が減っていて7500人くらいなんですね。

 映画のパンフレットには、役場の方が発した「人が通過していく町」という自虐的な言葉にストーリーのヒントを得た、と書いてありましたね。映画のサブタイトルでもあり、主題でもある-checkpoint of the life-(人生の通過点)を思いついたとか。

 そうなんです。井手町がある京都府南部は、自転車レースの人口が多いんですね。井手町近くの京田辺町と精華町が2016年に「ツアー・オブ・ジャパン」というレースのコースに立候補したことが影響しているみたいなんですが。井手町を舞台に自転車レースの話にしよう、となったわけです。

 私があまり自転車に詳しくないのですが、レースシーンがリアルだ、と話題でした。俳優さんたちもずいぶん練習をされたそうですね。

 クランクインの1ヶ月前から主演の荒井敦史さん、岡山天音さん、望月歩くん、吉沢太陽くんには練習をしてもらいました。二子玉川の河川敷で、法政大学の自転車競技部の部員の方に指導いただいて。

プロのレーサーとなる勇利役の荒井敦史さん。身体能力が高く自転車の経験も多少あったため、現場ではみんなをひっぱる存在だったとか。ちなみに、武田鉄矢さん主演の『水戸黄門』の格さんです。

パンフレットに個性的なルックスと書かれている(!)洋介役の岡山天音さん。朝ドラ『ひよっこ』では、藤子不二雄をめざす漫画家・新田啓輔役でしたね。ロードバイクになかなか慣れず、本人も周囲も日を追うごとに「やばい……」と冷や汗が。猛練習を重ねた結果の上達具合はぜひスクリーンで。

勇利の中学時代を演じた望月 歩さん。『ソロモンの偽証』で謎の転落死する柏木卓也役、ドラマ『アンナチュラル』第7話の白井役など難役の怪演っぷりに将来が楽しみな俳優。

洋介の中学時代は、吉沢太陽さん。進路に悩む思春期の少年らしい不安定さが好演でした。朝ドラ『花子とアン』でデビュー。映画『HiGH&LOW THE MOVIE 特別版 from THE RED RAIN』では、雨宮広斗(登坂広臣)の少年時代を演じています。

みんな大好き♥︎六角精児さん。レースに参加しているわけではありませんが重要な役割です。

 京都での撮影が始まったら、指導は京都産業大学の自転車競技部の皆さんや、社会人の競技団チームにバトンタッチされたんですよね。そのかいあって、レースシーンのグリップの握り方、ペダルをまわす速度、体の倒し方など相当な練習量が主演の二人からは見て取れます。ウケウリですけど(笑)。自転車のロードレースにおいて何がリアル、何が正しいという判断はどうされたんですか?

 僕も自転車に詳しくなくて判断が難しいから、毎回現場で自転車のプロの方にチェックをしていただきました。撮ったものをモニターで見てカメラマンはいいと思う、僕もいいと思う、自転車的にはどうですか?ってチェックしてもらって、そういうリズムで本番にいく、と。様々な方に関わっていただいたんですけど、なかでも堀田さんという方がいて。エキストラのオーディションに来てくださったんです。堀田さんは、自転車乗りであり、デザイナーであり、趣味として俳優をしてらっしゃる。つまり、僕にとっては完璧なんですよ。自転車のこともわかる、役者の気持ちもわかる、デザイナーさんだからものづくりの現場がどれくらいばたばたするかもわかっている、と。

 いやー、いろんな出会いがあって、いろんな方の力が合わさっているんですね!

 100人を超えるレーサーのエキストラの皆さんも協力的で。撮影のために走った道をぞろぞろと、100人で何度も戻るわけです。危ないのでせかすわけにもいかなし、かといってのんびりもしてられない。でも、3日間のしんどい撮影を文句も言わずつきあってくださって、チームワークもすごい。助監督に「これはレースが始まってどれくらい時間が経った設定ですか?」とか代表の方が聞きに来てくださるんですよ。助監督が「え、1時間くらいですかね」と返事をすると「じゃあ、レース開始前半だから、ギアはこれくらいだな」「調子に乗って前に出てくるやつがいるから、お前それやれ」とかいって、創作に参加してくださったりとか。ロードバイクを愛する気持ちが伝わってきましたね。

レースを観戦するエキストラや勇利の父親役、不良少年の母親役など、地元の方々もキャストとして登場した。レース撮影は11月の寒さが厳しい時期。キャスト、スタッフがロケ弁を食べ飽きた頃を見計らって、地元町民のボランティアによりおでんや牛丼の炊き出し差し入れも。地域に応援されてできた映画なのだ。

 そういったこともあってリアルなんですね。劇中、主人公の勇利が参戦するプロのレースのシーンでも、レース好きならニヤリとしてしまう方を実況に呼ばれたとか。

 そうなんです。「ツアー・オブ・ジャパン」ディレクターの栗村修さん、スポーツナビゲーターの白戸太朗さん、アナウンサーの芦田千里さんに実況していただいています。栗村さんの声を聞くとほっとするわけですよ。阪神戦の中継で、川藤さんがしゃべっているみたいな感じです(笑)。

 す、すみません〜。全然わかりません(汗)

 (笑)。自転車って人が乗るものだから、迫力は欲しくてもメカメカしく撮らないように心がけたんです。生き物を扱うように撮りたいな、と思って。海外の競馬のドラマなんか見て研究しましたね。馬を操っているときって独特の迫力があるんですよ。

 カメラマンさんはどうやってレースの撮影をしたんですか?

 カメラマンは、基本軽トラに乗って並走するんです。あとOSMOっていう手ぶれしにくい小型カメラを持って、カメラマンも全力疾走したりとか。音声は別に収録して、ペダルをこぐ音やタイヤのこすれる音などとてもリアルに仕上がりました。

 あの紅葉の美しい下り道をレーサーたちが駆け下りてくるシーン、気持ちが良さそうで、私も自転車乗りたいなと思いました。映画を見て、井手町に自転車で訪れる人が増えているんですってね。

 ありがたいことに、サイクリングやドライブでロケ地巡りをしてくださる方がいるんですよ。キーとなるシーンの展望台に自転車を置いて、映画と同じアングルで撮った写真をインスタにあげてくれたりとか。

万灯呂山展望台。京都タワーや生駒丘陵がよく見えます。

 本来の目的だった、地域活性化を見事に果たしていますね。ところで、もしアウトドアをテーマに映画を撮るならなにを選びます?

 うーん、なんだろう、アウトドアってどんなジャンルがあるんだろう。僕、スキー場のコマーシャルを何本か撮っているんですよ。スキーは興味ありますね。あと、キャンプ!「STAND BY ME」みたいな。僕自身、蛇が苦手なんですがそれをクリアできたら、キャンプは夢があっていいですね。

 キャンプをテーマにした映画、いいですね!ぜひ作ってください。楽しみにしています。



インタビュー場所はこちら→「Y's Road 川崎」 神奈川県川崎市川崎区砂子2丁目10−2 ☎︎044-221-1531 月〜金 12:00-20:00、土・日・祝 11:00-19:00、定休日なし



『神さまの轍』、まだまだ上映しています。

5月19日(土)〜5月25日(金)
☆京都シネマ
17時00分〜
☆横浜シネマジャック&べティ
20時10分〜

5月19日(土),20日(日)
☆鹿児島ガーデンズシネマ

【神さまの轍】
荒井敦史  岡山天音
望月歩   吉沢太陽
阿部進之介  津田寛治  六角精児
企画・脚本・監督  作道雄   音楽 宮内優里/中村佳穂
主題歌 フレデリック「たりないeye」(A-Sketch)
制作プロダクション  クリエイティブスタジオゲツクロ
配給  エレファントハウス
後援  京都府・井手町・京都産業大学・京都府自転車競技連盟・日本自転車普及協会
Ⓒ2018映画『神さまの轍』製作委員会 
映画公式サイト:「神さまの轍」公式サイト 映画公式Facebook:「神さまの轍 Facebook」 映画公式Twitter:「神さまの轍 Twitter」

柳澤智子 ライター、編集者

フリーランス編集者・ライター。食・住・自然・手仕事を主なテーマに、雑誌、書籍を手がける。アウトドアのいろはは、akimamaの運営母体である「キャンプよろず相談所」に所属したことで鍛えてもらいました。出版ユニットnoyamaの編集担当としても活動。著書『住まいと暮らしのサイズダウン』(マイナビ出版)が発売中。

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