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北極冒険家の荻田泰永さんがオープンした「冒険研究所書店」が楽しすぎる

2021.06.03 Thu

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

北極点単独無補給徒歩到達をめざす北極冒険家の荻田泰永さんが5月24日、神奈川県大和市に「本と冒険」をテーマにした書店をオープンした。無類の読書家でもあり、2019年3月に刊行した、著作『考える脚』(KADOKAWA刊)は、第9回「梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞するなど、書き手としても広大無辺な極地行を重ねながら、深い思索の旅を続けてきた。

書店の一画には南極で使用した装備を身につけた等身大の荻田さんの抜け殻?やパネルなども展示されている
「冒険研究所書店」という書店名からもわかるように、そもそもここは、荻田さんの極地行の装備や資料などを保管する事務所であり、19年に「冒険研究所」として開設して以来、ここでトークイベントや勉強会を行なったりと、野心あふれる若い冒険家や旅人たちが集まる場所でもあった。

「探検とは、知的情熱の身体的発露である」

「本屋風情」がすっかり板についてきた荻田さん。「本屋風情」といえば、文化人類学者として登山や民俗学の専門書店、梓書房を興した岡茂雄、岡正雄兄弟を彷彿とさせる。岡正雄は北極エスキモーの研究者としても知られる。

とは、20世紀初頭、ノルウェーのアムンゼンとの南極点到達争いに敗れ、その帰路、極寒の大地で全員が死亡した英国のスコット隊の悲劇的な探検行を「世界最悪の旅」として綴ったスコット隊の数少ない生存者チェリー・ガラードの言葉だ。

「冒険研究所書店」とイラストロゴが入った栞(しおり)に記されているこの一文を読むだけで、冒険家が書店を開設した理由は、もはや説明不要だろう。これまでの荻田さんの極地行は、緻密な極地の研究と訓練を重ねたプロの冒険行である。荻田さんの冒険をこれまで支えていたのは、まさに知的探究心にほかならない。地球上から人跡未到の地図の空白部が無くなった現在でも、人類の未知なるものへの限りない情熱はとどまることを知らない。

「やっぱり、研究所というと、少し敷居が高くなってしまうんですよね。それが書店というだけで、こうやっていろいろな人が気軽に立寄ることができるんですよ」
少年が毎日のように来て熟読している本を見てみると、コアなアウトドアファン絶賛の「アウトドアファブリック大全」! かなり将来有望な少年と見た 
と、話す荻田さんの横には、床にサーマレストZライトを広げて座り、熱心に本を読む小学生の男の子がいる。聞けば常連の小学生男子で、この子が冒険研究所書店開設のきっかけにもなったレジェンドだという。昨年3月、コロナ禍による緊急事態宣言により、学校が一斉休校なったとき、荻田さんは自分の事務所を子どもたちの居場所として開放。これまで、子どもたちと歩いて日本を旅するチャレンジ企画「100マイルアドベンチャー」などを通し、子どもたちとの関わりに未来や希望を感じてもいた。この子はそれ以来、ここが気にいって、まるで児童図書館のように毎日通ってくるという。

冒険を通して文化的な活動や社会的な活動にもコミットメントしたい、と言うように、書店はまさにカルチャーの発信基地でもある。人が本に出会い、人と人が出会い、ここからまた新たな冒険や旅が始まる場所になったらいい、と自ら書店をオープンした思いを語る。
八寸近い檜の無垢材を使った書棚は、ちょっとやそっとの地震なんかじゃ絶対に倒れない! という正真正銘の地震作! よく見ると本は、著者別でもなく、カテゴリー別でもなくランダムに並ぶ。書棚の端から端まで、丹念にすべて見ていくことで新しい本との出会いがある 
書棚には荻田さん自らの選書による古本と新刊が約3000冊並ぶ。書店をオープンするにあたり、クラウドファウンディングを募り、300人以上から約340万円もの資金が集まった。これを本の仕入れと事務所の改装費に充てたというが、開店間もない訪れたこの日もまだ、奥では書棚の造作が続けられていた。見れば、荻田さんと極地行を共にしたネイチャーフォトグラファーの柏倉陽介さんが、カメラをインパクトに持ち替えて大工仕事に精を出していた。まさに「冒険研究所書店」に可能性を見出した人と人の出会い、そして、誰もやってないことを自分たちの力で切り拓く冒険家のパイオニアワークを垣間見た気がした。

◉冒険研究所書店◉

所在地:〒242-0024
神奈川県大和市福田5521番地7 桜ヶ丘小澤ビル2階
営業時間:午前10時〜午後7時
定休日:毎週月曜日
TEL:046・269・2370

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌や書籍編集に携わった後、独立し、現在に至る。日本山岳会会員。コンサベーション・アライアンス・ジャパン事務局長。

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