• 道具

誰にも内緒で隠密釣行!仕舞寸法25㎝のテンカラ竿。宇崎日新「テンカラ ミニ」

2019.04.19 Fri

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

「必要な瞬間に手元にある」ことは、道具のひとつの機能だ。どんなに高性能で便利な道具でも、使いたい場面で手元になければ意味がない。

 仕事であれ遊びであれ、自然が豊かな場所に出かける前には、道具を前に煩悶する。どれを携え、どれを置いていくべきか。アクセスが難しい場所こそ生命は濃く、見てみたい生物や触りたい生物で溢れている。

 そして、自分が担げる荷物には限りがある。だから道具は、必要な機能を満たせばできるだけ軽くコンパクトなものを選んでいる。

 最近の痛恨の失敗は北海道で起きた。携行できる荷物の量に制限があり、迷いながらテンカラ竿を置いていったら、訪問先の川が渓流魚であふれていたのだ。深い反省の末、渓流がある場所に行くときはテンカラ竿を必携品に加えた。

 しかし、重さはともかくテンカラの竿は細長く折れやすい。「念のため」もっていく道具にしては厄介だ……と思っていたら、宇崎日新からすごい竿が登場していた。

 その名も「テンカラ ミニ」。名前に違わず仕舞寸法はわずか25㎝。それでいて渓流を遊ぶのに十分な3.2mの全長がある。

 ワインディングチェックには「MADE IN JAPAN」と「HYPER TOOL FOR ACTIVE ANGLER」の文字。
 
 イカス。この刻印、洒落か真剣かといえば真剣のほうだ。しかも「マジ」のほうの真剣だ。

「お前はこのハイパーな道具の持ち主に足り得る人間か?」宇崎日新の開発陣の問いかけが聞こえてくる。

〜〜〜〜〜ここから妄想〜〜〜〜〜

上司「このワインディングチェックの刻印、必要?」
開発担当「もちろんです」
上司「刻印を無くして尻栓をメッキしたらコスト下げつつ高級感も出るのに」
開発担当「ユーザーへのメッセージなので省けません」
上司「そうか、それなら仕方ない」

〜〜〜〜〜〜妄想終了〜〜〜〜〜〜

 きっとそんな会議があったのだろう。これはもう、手に入れるっきゃない。

 渓流に持ち出すべく、レベルライン、ハリス、ピルケースに入れた毛鉤をセット。ひと通り川を遊べる道具が82.5gに収まった。短いのでそのままザックの雨蓋に入れても折れる心配がない。

 竿のキャップを外すと、現れるのはタケノコのようなパーツ。それもそのはず、継数はなんと18。パーツを短く、肉を薄くすることで25㎝という仕舞い寸法を実現している。

 トップから順番に引き出して、へビ口にラインを結ぶ。正直なところ、この継数からして調子はスポイルされていても仕方がない。手軽に持ち出せることにこそ、この道具の価値がある。

 ……と思いつつ振ってみて驚いた。レベルラインもテーパーラインも振れる7:3調子というが、意識しなくてもレベルラインがスーッと伸びていく。

 硬い竿、柔らかい竿ではその竿なりの振り方をしないとラインが伸びないことが多いが、テンカラ ミニはクセがなく、ただ振るだけでも糸が飛んでいく。

 少しずつラインをのばしてゆき、3.5号、4.5mのレベルラインに1号のハリスを80㎝、先端に抵抗が大きめの毛鉤という条件でも振ってみた。この条件でもきれいにターンさせることができ、無理なく毛鉤から着水させられる。

 振ったときのヌケもよく、腕に負担なく振れて、ラインの速度も速い。少々の風のなかでも狙った場所に毛鉤を撃ち込める。

 全長3.2m前後の竿が活躍するのは、ある程度枝が被った渓流域。4.5mのラインが飛ばせれば、テンカラ竿としての性能は十分だ。一般的な渓流域なら、サブどころかメインの竿として十分活躍する実力がある。

 使い始めたばかりなので、強度だけはまだレビューできない。メーカーに問い合わせたところ「30㎝までの魚を想定している」とのこと。

 そして、この紹介記事を起こすべくメーカーサイトを見て驚いた。テンカラ ミニを紹介するただ1点の写真とそのキャプションは次のようなものだったのだ。

「目立つことなく車や鞄、その上ポケットにまで忍ばせて持ち運びを行なうことが出来る」

 宇崎日新よ、ちょっと待った。フォーカスするのはそこなのか。「目立つことなく」とは、どんな用途を想定しているのか。開発陣が刻んだ「FOR ACTIVE ANGLER」は人の目を盗んででも竿を出すという意味でアクティブだったのか?

〜〜〜〜〜〜再び妄想〜〜〜〜〜〜

 場所は山に近い得意先。出張には同僚も同行しているが、できれば得意先の前を流れる川に毛鉤を流してみたい。5分とは言わない。1投でいい。気になるあのポイントに、毛鉤を撃ち込んでみたい。この機会を逃せば当分竿は出せない。妻は、釣りに行くことを許してくれないだろう。同僚は、離れた場所で休憩している……。

 そこでビジネスバッグから登場するのが、テンカラ ミニ。

〜〜〜〜〜〜妄想終了〜〜〜〜〜〜

 どうやらテンカラ ミニはそんな釣りキチ営業マンに捧げられた道具だったようだ。

 ……冗談はさておき、使う場所が未開の大自然にせよ、出張先での休憩時間にせよ、人には竿を出せねばならない瞬間がある。テンカラ ミニは「その瞬間に立ち会う」という道具としていちばん大切な機能と、実釣できる力を持っている。
■宇崎日新/テンカラ ミニ
希望本体価格:¥22,500
全長:3,25m
継数:18
仕舞寸法:25㎝
自重:55g
http://www.u-nissin.co.jp/item/9029


<テンカラ ミニその後 2020.5.25追記> 数度目の釣行中、竿を振っているとポキリと破断。見れば15番目のジョイント部分が割れていた。この釣りまではぶつけたりしておらず、なにより振り出しの重なりの内側にくる部分が割れていたことからすると、肉の薄さに原因がある模様。日常の釣りではなく、軽さや携行性が必要なこの一番で使うのが正しい遊び方かもしれない。

Latest Posts

Pickup Writer

ホーボージュン 全天候型アウトドアライター

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ

森山憲一 登山ライター

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター

森山伸也 アウトドアライター

村石太郎 アウトドアライター/フォトグラファー

森 勝 低山小道具研究家

A-suke BASE CAMP 店長

中島英摩 アウトドアライター

麻生弘毅 ライター

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

宮川 哲 編集者

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

渡辺信吾 アウトドア系野良ライター

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

Ranking

Recommended Posts

# キーワードタグ一覧

Akimama公式ソーシャルアカウント