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【ホーボージュン書き下ろしエッセイ】クールなパックとアフリカの太鼓 グレゴリー「Zulu35」

(2019.05.09)

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ズールーといえばアフリカの戦士
勇猛果敢なことで知られている

「Zulu」という名前を聞いて僕がまっさきに思い浮かべたのは、南アフリカで会ったズールー族のことだった。牛革を張った巨大な盾を持ち、大きく派手な羽根飾りをつけたその姿は、アフリカに数多く存在する黒人部族のなかでも猛々しさが際立っていた。

 ズールー族は19世紀の南アフリカ東海岸に王国を築き、その強大な軍事力でほかの民族を次々と駆逐した戦闘的部族だ。南アの中央部には「レソト王国」という飛び地のような国がいまも存在するが、この国はズールー族の迫害を受けたソト族が高山の奥地へ逃げ込んで作った国だ。

 じつは僕は昔このレソト王国を旅したことがあるのだが、もう何百年も昔の話だというのに、いまだ国民がズールーの野蛮さと恐ろしさを語るのに驚いた。じっさい当時のズールー戦士の強さは凄まじく、1897年のイギリスとの戦いでは、近代兵器で武装した大英帝国歩兵連隊の6個師団を槍と盾だけ(!)で壊滅させるほど獰猛かつ戦術的だった。

 その後、僕は南アのダーバンという街で伝統的なズールーダンスを見る機会があったのだが、筋骨隆々とした若者が鳴り渡る太鼓に合わせて棍棒を振り回し、キックボクサーのハイキックのように高く足を蹴り上げながら踊り狂う姿にビビりまくった。なんちゅーか、動物としての身体能力のレベルが違う。こんな奴らと戦争したらボコボコにされるに決まってる。

 もちろん現代のズールーたちはみなピースフルで、ダーバン周辺にはサーフィン好きのゆるーい感じの若者もたくさんいるんだけど、元々のポテンシャルが高すぎる。僕の中ではズールーはやはり勇猛さの象徴なのだ。

グレゴリーのZuluたちは
とてもハイテクで未来的だ

 そんなイメージとは裏腹にグレゴリーのZuluはとてもスマートで未来的だ。30、35、40ℓという小屋泊まり登山やデイハイキングにちょうどいいサイズ展開で、細部までよく考えられた使い勝手のいいパックに仕上がっている。

 最大の特長は背面がフルメッシュのオープンエア構造になっていることだ。背負ったときにパック本体が背中から完全に浮き上がっているから換気性能が高く、真夏の低山で使っても背中が汗だくになることがない。

 じっさいに山で使ってみて感心したのは「フリーフロートサスペンション」という独自の背面構造だ。背中をグルッと一周する金属フレームは身体のネジレに追従してしなやかにツイストし、トランポリンのようにピンピンに張られたメッシュパネルと相まってショックをよく吸収する。また「3Dクレードル(ゆりかご)」と名付けられたヒップベルトは腰回りをフワッと包み込み、荷重を柔らかに分散。まさにゆりかごのような気持ちよさなのだ。

 そしてビックリしたのがこんなに凝ったフローティングシステムを搭載しながらも、ちゃんとトルソー(背面長)調整ができるようになっていること。パックのフィッティングに徹底してこだわり、「パックは背負うものではない。着るものだ」と公言する同社の真摯さの表れである。もちろん男女の骨格の違いを考慮して設計された女性専用モデル『Jade』も用意されている。このあたりはさすがグレゴリーである。

内部アクセスの早さは
ほかの追従を許さない

 ほかにもZuluには魅力が多いが、僕が一番気に入っているのが開口部の使いやすさだ。ループを引っ張るだけでスッと開き、コードを引くだけでパッと絞れる。トップローディングはパネルローディングに比べ内部へのアクセスがめんどうなものが多いのだが、コイツはそれをまったく感じさせない。

 また外部ポケットの使い勝手も良好だ。正面のメッシュポケットは大きくストレッチするので脱いだウェアや雨具を簡単に入れておけるし、サイドポケットはサーモスや折り畳み式のトレッキングポールの収納にちょうどいい。さらにヒップベルトの左右にも容量たっぷりのポケットが付いていて、ここは行動食やスマホの収納に便利だった。こういったオントレイルでの使い勝手は、グレゴリーならではのものだろう。

 いっぽうで個人的な不満もある。それはジッパーで逆U字型に大きく開くフロントパネルだ。これはちょっとしたモノの出し入れや荷物の整理に便利だから世間的には好評なのだが、僕からすれば完全にオーバースペック。僕はこのクラスの中型パックはなるべくシンプルに作ってそのぶん軽量化して欲しいと思う。……とはいえ、Zuluは35ℓで自重1.31kgとじゅうぶん軽量なんだけどね。

なぜズールー族なのか
その名前の由来を訊いてみた

 先日グレゴリーの日本オフィスを訪ねた時に、僕はこれまでずーっと気になっていた質問を担当者にぶつけてみた。それは「なんでまたZuluなんていう名前を付けたんですか?」ということだ。こんなにハイテクなバックパックにアフリカの半裸の戦士は似つかわしくない。

 すると担当者は「うーん……」と少し考えたあと、「たぶんそんなに深い理由はないと思います。雰囲気じゃないですかね?」と言うのだ。

 というのはもともとグレゴリーのベンチレーションパックには「Z-pack」(男性用)と「J-pack」(女性用)という名前が付けられていた。「Z35」とか「J28」とか。どちらも人気の高いモデルだったので、今回大規模なモデルチェンジを行った際にもその名前に「Z」と「J」の頭文字を残しかったらしいのだ。

 そこで女性用のJのほうは「Jade(翡翠)」と名付けたが、男性用のZは(Zだけに)適当な名詞がなく「じゃあZuluでいいじゃん!」みたいな感じになったんだろうということだ。

 それを聞いて「へえ~」と僕は納得した。いや、納得しなかった。ぜんぜん。だってZで始まればいいんなら「ゼブラ」でも「ゾンビ」でも「ジグザグ」でもいいじゃんか……! なんなら「ゼファー」とか「ゼン」とか「ゾディアック」みたいなクールな名前だってあるぞ! なんで「ズールー族」なんだよ……!

「今度アメリカ本国の担当デザイナーに由来を訊いてみますね」

 執拗に食い下がる僕を見て担当者はそう約束してくれたが、まだ回答はなく、真実は霧の中だ。そしてそれはまるでサバンナに立ち込める濃霧のように僕の視界を遮っている。

 おかげでこんなにクールなパックを背負っているというのに、いまだ僕の頭の中にはアフリカの太鼓の音がドンドコと鳴り響き、獰猛な半裸の戦士たちがグルグルと踊りまくっているのである。

【後日談】

 じつはこのエッセイを書き上げたあと、グレゴリー本社からZuluの名前の由来について回答がきた。それによると「NATO Phonetic Alphabet(ふりがなアルファベット=音声コード)でZを表す言葉がZuluだったから」ということだった。

 知っている人もいると思うが、軍隊、警察、航空、船舶などでは無線でアルファベットを伝達する際に、聞き取りやすさと正確さを期すため「A」を「アルファ」、「B」を「ブラボー」、「C」を「チャーリー」などと読み上げる。こういった符丁は世界中にあるが、NATO軍が定め、いまでは民間航空機にも広く使われるようになった共通ルールがNATO音声コードなのだ。

 その全アルファベット26文字はこんな感じだ。

 Alfa Bravo Charlie Delta Echo Foxtrot Golf Hotel India Juliett Kilo Lima Mike November Oscar Papa Quebec Romeo Sierra Tango Uniform Victor Whisky X-ray Yankee Zulu
 
 それにしてもなぜZが「ズールー族」なんだ……? 気になった僕は音声コードについていろいろ調べてみた。するとITU(万国通信連合)が1927年に制定した世界初の音声コードでは次のようになっていた。

 Amsterdam Baltimore Casablanca Denmark Edison Florida Gallipoli Havana Italia Jerusalem Kilogramme Liverpool Madagascar New_York Oslo Paris Quebec Roma Santiago Tripoli Upsala Valencia Washington Xanthippe Yokohama Zurich

 初期は世界の都市名で表していたのである。Zは「チューリッヒ」だ。しかしこれだと実際の港名や空港名と混乱しやすい。そこで船舶や航空機では一般名詞を主としたコードを使うようになっていった。たとえば第二次世界大戦で連合国軍が共同作戦遂行用に使ったコードは次のようなモノだ。

 Able Baker Charlie Dog Easy Fox George How Item Jig King Love Mike Nan Oboe Peter Queen Roger Sugar Tare Uncle Victor William X-ray Yoke Zebra

 これは「エイブル・ベイカー式」と呼ばれ広く普及したが、Zは「ゼブラ」になっている。じつにまっとうな“ふりがな”だと僕は思う。少なくともチューリッヒよりぜんぜんいい。ちなみにゼブラ読みは世界的にはかなりポピュラーで、現在もEUではZはゼブラ、海上無線でもZはゼブラ、カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール隊でもZはゼブラと読むそうである。なのに……。

 NATO軍よ! なぜZがズールー族なのだ!

 ドンドコ、ドンドコ、ドン!

(写真・文=ホーボージュン)
 

グレゴリー/Zulu35
サイズ:SM/MD、MD/LG
容量:33L(SM/MD)、35L(MD/LG)
重量:1.29kg(SM/MD)、1.31L(MD/LG)
最大積載量:16kg
カラー:ファイアリーレッド(写真)、エンパイアブルー、オゾンブラック
定価:¥22,000+税

 
 
ライター
ホーボージュン

全天候型フリーライター。6,000mの高所登山からシーカヤックの外洋航海まで、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。『山と渓谷』『ビーパル』『PEAKS』『Field Life』などアウトドア各誌で連載中。公式Twitterアカウントは「@hobojun

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