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【ユーさんの72年_5】中川祐二、72年目のアウトドアノート~モノにまつわる4つのショート・ストーリー
2020.08.24 Mon
中川祐二 物書き・フォトグラファー
中川祐二、72年目のアウトドアノート。第5回目は、いままでと少しだけ趣を変え、ユーさんが長年連れ親しんできた「モノ」を通して、アウトドアの過去と未来をつないでみたい。懐かしきギア、定番のギア、なるほどというアイデアも含め、ユーさんならではの視点で「モノ」にまつわる4つのショート・ストーリー。最初に登場するのは……リフレクターオーブン!
第何次であるのかよくわからないが、いま、キャンプブームであるらしい。そのブームのさなか、人気キャンプ場に行く機会があった。○×スキーキャンプミーティングという集まりだったが、キャンプをするわけではなく、むかしのスキー仲間がキャンプ場で会い、酒を飲み食事をし、大いに昔話をしてむかしを懐かしむという、あまり前向きな集まりでもない楽しい会だった。
集会場のキッチンを借り、ふつうあまりキャンプには似つかわしくない「とんかつ」を揚げ、誰かが持ち込んでくれたモツ煮込み、チャ-シュウサラダという居酒屋メニューでたらふく酒を飲んだ。
僕たちは、もちろんテントなど張らず、ベッドまで付いた大きな部屋に泊まった。窓の外では大小、色とりどりのテントでキャンプを楽しんでいるひとたちでいっぱいだった。赤い炎がちらちらと見え、美しい光景だった。
このキャンプ場は、建築端材のような薪を大量に売っている。キャンパーはこれを手に入れようと並んでいた。そう焚き火をするためなのだ。焚き火をするといっても料理の熱源として使うわけではない。もちろん料理に使うこともあるだろうが、あくまで炎を愛で焚き火を楽しむのがいまふうらしい。
最近のキャンプ場は、直火を禁じている場所が多いという。つまり地面で焚き火をしてはいかん、それではどうするかというと炎を持ち上げる焚き火台なる製品があり、ここで焚き火をすれば地面を焦がさずに済むという。
そういえば僕がキャンプに凝っていた2、30年前、キャンプをした跡を残すまいと石を組みその上にBBQ用の鉄板を置き、その上で焚き火をしていたことを思い出した。そうしたやり方をテレビの番組で紹介したことがあった。「自然にやさしく、跡を残さない焚き火の楽しみ方」です、とかなんとか言っちゃって。
当時、焚き火台なる製品は世の中にはなかった、いや、なかったはずである。ん? 何を言いたいかというと、きっとどこぞのメーカーがこれを見てもっと便利で使いやすい製品を作って売り始めたに違いないと思っている。ちょっと儲けそこなったかなとも思うが、僕のアイデアがキャンプ場のシステム(大げさにすぎる)を変えたと思えば鼻が高い。
ところで、この焚き火の熱を有効利用できる機器があるのをご存じだろうか。いままで通り鍋をかければ煤で真っ黒になり、薪の火で食材を焼けば外は焦げてしまっているのに中まで火が通っていないなんてよくあること。まあ、薪ではなく炭を使えば解決するのだが。
そこで登場するのが「リフレクターオーブン(*1)」だ。最近の製品ではない。3、40年前に入手したが、そのときはそのシステムに驚き、たいそう共感したが、それほど熱心に使ったわけではない。まあ、世の中であまり流行らなかったのだからどこかに不都合な点があるのだろうが、考え方としては非常にいいものだと思う。
(*1)リフレクターオーブン=“reflector”とは反射板のこと。つまり、リフレクターオーブンとは焚き火の熱を利用して、輻射熱のみで調理をするアイデア器具。本文にもあるように、焦げ付き知らずで中までじっくりと火を通すことができ、焚き火料理の幅を大きく広げてくれるギアである。現在、エイアンドエフでも同様の商品が扱われている。
40cm角、厚さ1cm。コンパクトで軽量。まあ、つくりとか強度には問題があるが、機能的には十分。この当時、この製品は自動車関係のアクセサリーをつくっていた会社のもので、いまは他社でもっとしっかりしたものが販売されているという。機能、原理は同じなのでこれでいい。
どんなものかというと,アルファベットのEの字の真ん中の横棒の上に調理したいものを皿に乗せ置く。これを焚き火に近づける。すると焚き火からの輻射熱がEの上と下の横棒にあたり、反射して中央の食材をあたためるという仕組み。これだと焦げず、中まで調理できるというすぐれものなのである。
僕の持っているものはアルミ製でごくごく簡単な構造、折りたたみもできる。これと同じ原理のものをある英国アンティークショップで見つけた。それはもう少し大がかりなもので、半円筒形の金属筒の中にトリ1羽を入れ。焚き火の近くでくるくるとまわしながら反射熱で焼くロースターのようなもの。その店のあるじと本当に焼けるのか実験してみようということになり「実験骨董学」と称してやってみた。
はたして余分な油を絞り落とした鶏肉はこんがりときつね色に焼きあがった。暖炉が熱源だった時代、ダッヂオーブンもこのリフレクターオーブンも調理器具の主役だったのだろうと感心しながらビールをいただいた。
英国で小さな車にキャンプ道具を積み旅をしていた時期があった。ローバーメトロやフィアットプント、ときどきレンタカー会社が気を利かせたつもりなのだろう、アップグレードと称して日産車などを用意されるとがっかりしてしまう。せっかく欧州車に乗り、あのサイズにぴったりな狭い石畳の道を走れると思ったのに至れり尽くせりの日本車である。
至れり尽せりとはいえ英国での日本車はマニュアルシフトでエアコンは付いていない。英国は湿度が低く、気温もそれほど高くないので自動車もだが、住宅でもエアコンが付いている家は少ない。
モンベルのテント、ムーンライトにEPIのガスストーブとクッカー、ダクロンのシュラフとライナー、エアーマット。これだけあれば楽に旅はできる。これらを積んで旅をしていた。
英国は意外にアウトドア王国である。方々にキャンプ場があり、ほとんどのところは予約なしで泊まれる。設備の整ったところもあれば、さっきまで羊を放牧していましたというような個人経営のキャンプ場もある。きっと羊に草を食べさせ、適当に草が少なくなったところを見計らいキャンパーを入れるのだろう、そうに違いない。なぜなら草の間に羊の落し物がたくさんあるからだ。水道は石組の塀のところに蛇口が1本だけ、流しがあるわけではない。トイレは塀を乗り越え村の共同トイレを使えというところもあった。それはそれで気が楽でいい。
早い時間にキャンプ地に到着するとまずテントを張りいつでも寝られるようにして遊びに行く。村でコンサートでもあれば聴きに行き、ミュージアムでお勉強をすることもある。夕飯のメニューを考えながらマーケットへ行き、アウトドアショップがあればのぞいてくる。
あるとき、小さなアウトドアショップへ入るとコンパクトなクッカーのセットが置いてあった。それはスウェーデン製のトランギアだった。この製品のことは知ってはいたが、熱源にアルコールを使っていることがちょっと気に入らなかった。
このときはどうしたことだろう、手に取り組みたててみるとなかなか合理的なシステムだ。今回の旅で使うにはちょうどいい大きさだった。ということもあるが、きっとそのときは円高ポンド安で買いやすかったのだと思う。
早速購入しその晩から使ってみた。クッカー、トングなど7つのアルミ製パーツとアルコールバーナーからなるストームクッカーSという製品だった。ゴトクにウィンドシールドを乗せ、クッカーとやかんはウィンドシールドの中に落とし込むような構造になっている。クッカーをホールドするフックをあげるとフライパンのホルダーになる。フライパンはしまうときのふたになる機能も持っている。
トランギア・ストームクッカーS。五徳になるベース、ウインドシールド、微妙に大きさの違う鍋2個、フライパン、やかん、グリップ、これに本来はアルコールバーナーがセットされているが、僕はガスに変えてしまっている。写真で分かるように僕は金属加工が苦手だ。ウインドシールドに穴をあけたのだが、あまりうまいあけ方とは思えない仕上がりになってしまった。しかし、このガスストーブアタッチメントがやかんの中に収まってしまうのはありがたい。偶然かな?
アルコールバーナーはどうも化学実験室のイメージが抜けず過小評価していた。実際に使ってみるとはじめはチョロチョロで頼りないのだが、次第に強くなりゴーっという音とともにたくましい火力になってくる。ウィンドシールドの効果とともにあっという間にお湯が沸く。
では冬はどうかというと、これがまたなかなかのパワーなのである。超低温の強風化ではつらいだろうが、ぼくみたいななんちゃってキャンパーならば十分に味方になるシステムだと気に入っている。
そんなキャンプを何度かしているうちにまた小さなアウトドアショップで気になるものを見つけてしまった。ちょっと汚いビニール袋の中にオレンジ色のビニールパイプと何やらEPIの文字が見えた。手に取ってみるとその形状はトランギアのアルコールバーナーと同じような径を持った器具だった。説明書などはなくバーナー部とガスタンクに接合する部分をオレンジ色のパイプでつないだものだけが入っていた。
思い切って買った。
テントに戻ってトランギアにセットしてみた。アルコールバーナーをセットする穴にぴたりとおさまった。バーナー部はおさまったのだが、ガスパイプを通す穴がなかった。
日本へ帰りゴトクの部分にタンクとの接合部が通るよう大きな穴をあけた。EPIガスをセットし使ってみた。十分に使える。これでひとつのクッカーでふたつの熱源が使えることになった。
しかし、これはぼくがアッセンブルしたもの。トランギアは日本ではI・Pという会社が販売し、EPIはU・Tという会社の扱いとなっている。となると、この組み合わせのクッカーはもしかしたら僕だけが持っているものなのかもしれない。
僕はこのセットを出すたびにニヤッとしているのだが、まだ誰も気が付いてくれた人はいない(*2)。
(*2)=この稿を書くにあたり調べてみたところ、C国の製品で同じようなガスバーナーを見つけたことを報告しておく。
僕がキャンプを始めた45年ほど前、製品としてのタープというものはなかったと思う。タープとは“Tarp”であり、“Tarpaulin(*3)”の略で防水された布地のこと。
(*3)Tarpaulin=ターポリンとは、タールなどを塗った防水布のことをさす。タープとはここから派生した言葉で、いまではアウトドアでの用具名としても主要なものに。
1枚の防水布を数本のポールで立てる雨除け、日除けのための簡易テントともなる。日本独特のものであまり海外で見かけたことはない。きっとこのシステムは僕が考えだしたと思っているが、そう思っている人がたくさんいることも知っている。
それは当時、コールマンのコットン製家型テントを使ったときのことだった。テントの中まで土足で入れ、中のキッチンで料理をしキャンプコットで寝る。なかなかアメリカンなスタイルで使い勝手はいい。しかし、設営に時間がかかり長期滞在ならばいいとしても1泊や2泊では設営に手間がかかりすぎ、たたんでもかさばりあまり日本向きではなかった。
そのとき、これで屋根だけであったらどうだろうと考えた。あるテントメーカーの三角テントのフライだけを使えばできそうだった。長短6本のポールを調達し、スリングとペグで張ってみた。見事、きれいな切妻型の屋根状のものができ上がった。キッチンとダイニングをつくれば快適なキャンプができる、と考えた。
しかし、雨が降ったり風が吹くとあまり強いものではないということが分かった。張り綱を2本ずつにし強度を上げた。また、ポールを6本使うことでどうしても生地にたるみができ、雨水が溜まってしまう。ポールをセンターの長い2本だけにすると水は溜まらずうまく流れた。これがウイング型の始まりだ。
いま、この原稿をキャンプ場を見下ろす高台にある宿舎で書いている。窓の外は、毎日いろいろなテント、タープが張られ、日替わりメニューのように観察することができる。みなさんタープは使っているのだが、僕ほど大きなものを使っている人はあまりいない。僕はタープは大きいほどいいと思っている。タープが大きくても実際に使える面積は意外と狭い。とくに雨や風のとき、有効面積はすごく小さくなる。少人数のキャンプでも僕は大きいタープを好んで使っている。2本ポールのウイング型が好きだ。
友人のS君は地方の○×少年自然の家の職員だった。彼の企画で僕がアウトドアに関する講演をすることになった。
いつものパターンで講演の後、懇親会なるものでざっくばらんな話をしていた。その中でこのような施設ではテントや寝具などは5年経過したものは廃棄処分をするという話を聞いた。
「えっ、もったいない。まだまだ使えるでしょ?」
「はい十分に」
「じゃあ、その三角テントのフライシートとポールをちょうだいよ、問題なければ」
「いいですよ、何張り分いりますか?」
そのテントは僕がタープとして使っていたテントメーカーのものだった。僕は梁の部分がついたポールとフライを10張り分ゲットして仲間みんなに配った。
そのとき同時に貰った毛布はいまだに冬の僕の体をあたためてくれている。もう30年も前の話だ。
その後タープはどんどん進化し、せっかく取り払った壁面にメッシュをつけたり、簡単に自立できるタイプなど、キャンプの必需品となっている。
タープならば、どんなときでも張ればいいというものでもない。春、雪の中でするキャンプは静かでとても好きなのだがこんな光景を見た。雪の中でタープを張っているのである。せっかくあたたかい光を投げかけてくれるのに、わざわざ陽の光をさえぎっている。非常にもったいない話だ。
僕たちの春キャンプのタープはむしろ風除けとして使う。屋根の部分は大雪が降らない限りいらない。まるで陣幕のように北側の木立などを利用してつくれば、北風の寒さを防げる。と、ここでネットで調べてみると陣幕なるものが製品化されているではないか。恐れ入りました。
さらにタープの使い方としてこんな方法もよくやっていた。まずはタープをしっかり立てる。キッチンやリビングをセッティングする。張り綱やペグはそのままにタープをたたみ、一方に寄せておく。もしも天気が悪くなったらすぐにタープが立てられるようにしておく。天気のいい間はオープンエアーを楽しみ、夜は星空を眺めながらの食事ができる。春、秋はこのほうが気持ちがいい。
タープは、構造が簡単なだけにいろいろなバリエーションがある。風の強いときは低くセット。あるいは片方だけ張り綱を使わず直接地面に打ち込み防風とするなど、工夫次第で快適なキャンプになるはずだ。
「もったいない」という言葉を最近の人たち忘れてしまったらしい、いやはなから知らないのかもしれない。
「勿体無い(*4)」とは物の本来あるべき姿がなくなるのを惜しみ、嘆く気持ちである。現在では「物の価値を十分生かしきれておらず無駄になっている状態や、そのような状態にしてしまう行為」とある。
(*4)勿体無い=岩波書店の広辞苑第五版によれば、「①神仏・貴人などに対して不都合である。不行き届きである。②過分のことで畏れ多い。かたじけない。ありがたい。③そのものの値打ちが生かされず無駄になるのが惜しい」となる。①にもあるようにもともとは仏教用語のひとつ。その「勿体無い」は「もったいない」となり、いまでは「MOTTAINAI」と国際的な環境用語にもなっている。
あるキャンプ場の仕事をしていたとき、そこのゴミ捨て場にまだまだ使えそうなものがたくさん捨てられているのを発見した。多いのはキャンプ用の椅子だ。ほかは何ともないのだが、ひじ掛けの布がほつれているだけのもの。普通に使えるコールマンのツーバーナー、ホヤが割れてしまっただけのガソリンランタン。ポールが折れてしまったテントやタープ。どれもメーカーで修理できるはずなのである。もったいない!
また別のキャンプ場では焚き火台、さらにその下に敷くガラス繊維のマット、バーベキューグリルは今回初めて使ったというようなものもよくあるという。まあ、ここのキャンプ場はバーベキューだけで利用する人もいて、みんなで割り勘で払うと使ったグリルの管理はしたくない。そこで捨てていくことになるらしい。
ここにあるものは、本当に僕がキャンプ場のゴミ捨て場で拾い集めたものです。別になくてもいいものではあるが、じいさんたちのキャンプ集会などで、「これね、みんなキャンプ場で拾ったものなんだ」という話のタネになるかと思って積んである。ここでネタをばらしてしまったので新鮮さがなくなってしまった。次の「何か」を探さなくては。
そんな話を聞いてから、僕はキャンプ場へ行くとゴミ箱に目が走る癖が付いてしまった。もちろんよく知っているキャンプ場だけである。ゴミ箱に何かを見つけると、きっと僕の眼はらんらんと輝いているに違いない。
一応係の人に断りは入れる。するとみな嬉しそうな顔をして「どうぞどうぞ」と言ってくれる。
ゴミを捨てる手間が省けるからだろう。
おかげで僕はこの方法でいろいろな物を手に入れた。いま僕の車は小さいのでいくらいいものでも大きいものには手を出さない。荷室の空いているスペースと物欲度を天秤にかけてセレクトしている。
だいたい気楽に捨てて行くのだからあまり一流メーカーのものはない。二流、三流も少ない。名もないメーカーのものばかりだ。
バーベキューグリル、これにあうサイズの金網、鉄板、焚き火台、耐火マット、カヌー用の椅子など、修理し、きれいに掃除をし便利に使わせてもらっています。
「あー、もったいない、もったいない」