• 道具

LA SPORTIVA「サイクロン」 〜ハイスピードハイキングシューズとしてのポテンシャルを探る〜

2021.10.07 Thu

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

パックウェイト10Kg程度のハイキングで快適なシューズを探し続けている。今の所の最適解はトレイルランニングシューズの採用だが、モデルによってはもう少し、ソールに硬さがほしいと思うことがあった。

 そこで目をつけたのがスポルティバ(LA SPORTIVA)のサイクロン(CYKLON)だ。
厚いソールもあってか、トレランシューズとしては重めの両足602g(26.5cm 実測)。重量感はあるが「重い」というよりも「しっかりしている」とった印象。

 ミッド〜ロングディスタンスを見据えた作りはやや厚めのソールを備えており、装備も充実。流行りのミニマルなトレランシューズとは一線を画している。が、だからこそ長く歩くシーンで光るのではないか。そう考えて夏の間に富良野岳、旭岳、黒岳、アポイ岳などでの日帰りハイクに連れ出し、その他近所の低山でのランにも使ってみた。北海道では夏山シーズンも終盤となってきたので、ひと夏使ってみた雑感を振り返っておこうと思う。

 

【総合的には素晴らしい!の一言】

1. 快適なフィット感
 最初に感動するのは、サイクロンが備えている柔らかなフィット感だ。足全体をソフトに包み込み、どこにも圧迫を感じない、まったくストレスのかからない穏やかなホールド性は、ちょっとしたソファを思わせる極上クォリティだ。

 この快適さに大きく貢献しているのがアッパーにレイアウトされた、伸縮性のあるメッシュ素材。さらに履き口にはネオプレーン素材を配して、シューズの中に小石が入り込むことを防いでいるが、こうした素材がそれぞれの部位で適度な締めつけを発揮し、全体として質の高い履き心地を生み出している。

 足を入れただけで、フィット感はじゅうぶん。のんびり歩くだけなら、シューレースを締める必要はないほどだ。
アッパーのメッシュ素材は適度なハリを備えており、足全体を面でホールド。サイクロンのうっとりするような履き心地はここから生み出されているといってもいい。もちろん通気性にも優れており、夏場のハイキングにもムレを感じることはなかった。

 
2. 安心感に溢れたグリップ感
 歩き始めて最初に感じるのは、「ぎゅっ」と粘るような強いグリップ感だ。足を置くだけで地面を確実に捉える。その感触が、足裏全体に伝わってきて安心感は抜群。
粘りのある硬質ゴムのような質感のアウトソール。ラグの間隔が広いことでドロづまりもなく、5mmもの深さでしっかりと土を掴んでくれる。

 それは湿った土だけでなく、ザレた登山道、乾いてざらついた岩、濡れた平滑な岩、そして残雪まで変わらない。さまざまな路面で不安のないグリップを発揮してくれる。
ドロ、石、草。何を踏んでも危なげない。どこを歩いてもギュギュギュっと地面を捕まえる安心感にあふれている。

 また、かかとのクッション性と土踏まずから先のフレックスのバランスがよく、くるくるまわるように軽く足が出る。なるほど、ハイスピードを求めるランシューズだけあって、この軽快さはスピードハイクでも発揮されるのだ。純粋に、速いペースで歩くこと自体が楽しくなる。その意味でサイクロンは、今までにない山の楽しみ方のトビラを開けてくれたと言える。
初夏の富良野岳から十勝岳を目指す。歩き慣れた縦走路だが、いつもよりもハイペースで進むことが楽しかった。
深いラグのおかげで、残雪の上でもこの通り。雪にドロ汚れが残っていないことから、アウトソールのドロはけのよさもうかがえる。

 
3. パフォーマンスを上げるためのBOA
 このサイクロンには「BOAフィットシステム」が採用されている。BOAはダイヤルでシューレースを巻き取って、締め具合を調整する機構だ。力を入れなくてもシューレースをしっかり締め付けることができるため、スノーボード用ブーツやサイクルシューズ、ゴルフシューズなどで多く使われている。

BOA操作用のダイヤルはくるぶしの下辺り。ダイヤル自体も薄型なので、歩行の際にもじゃまになることがない。またシューレースはポリエチレンとポリエステルを混撚した特殊繊維を使用。水分を含まないために水濡れに強く、巻きグセもつきにくい。こうして素材を工夫することで、使い勝手と履き心地を向上させている。

 このサイクロンもランシューズのカテゴリーに入るだけに、確実な締め付けのためにBOAが採用されていると思っていた。が、歩いてみるとそれ以外にも、サイクロンらしい非常に大きな特徴が見えてきたのだ。

 前述したようにサイクロンはソフトなホールド感と優れたグリップ性が特徴だ。柔らかな履き心地は快適だが、場合によってはもうちょっとだけレスポンスがほしいと思うことがある。同時に、柔らかなフィット感だからこそ少し緩めで気楽に履きたい、と思うこともある。

「Dynamic Cage」と名付けられた、横方向に伸びるタン。真ん中の黄色い部分と、その上下の黒い部分、計3枚のタンが足の甲を包み込むようにレイアウトされている。これらがBOAと組み合わさることで足の甲から土踏まずにかけて、ぐるりと足にフィット。左右方向の安定感を向上させながら、面でホールドする心地よい圧迫感を叶えている。もちろん締め付けの不快感とは無縁な上、指先には一切ストレスがかからない。

 だからこそのBOAだ。サイクロンのように元からホールドがいいシューズには、過度な締め付けは不要だ。それよりも路面状況やハイクのスピードにあわせて的確で確実なフィット感を実現することがシューズの特性を引き出すカギになってくる。

 つまり登りか下りか、歩くペースはどうなのか、荷物の重さやバランス、足の疲れ具合といった、さまざまな状況変化に合わせてフィット感を調整することができれば最高だ。そしてBOAならヒモのように締めて、確かめて、また締め直して、といった遠回りをする必要がない。ダイヤルを回して1クリックずつ、ダイレクトに締め心地を確かめながら調整することができる。さらに、開放の際もダイヤルを引き上げるだけ。シューレースは一発でリリースされて、元の非常にリラックスした履き心地が戻ってくる。

 歩きながらもスッと締め、コンディションに沿ってサッと緩める。行動中でもレスポンス良くフィット感をコントロールできるようになったという意味で、BOAの採用はサイクロンの長所を大きく打ち出すことにつながっている。

しっかりしたソールは、こんな使い方をしてもじゅうぶんに足を守ってくれる。また状況に応じて適切なフィット感に調整しておくことで、足運びの軽さが向上したように思えた。

 簡単にタイトに締めあげることができるという点に注目されがちなBOAだが、このサイクロンに搭載することで「絶妙のフィット感を一発で探り当てることができる」という長所を実現することに成功している。

 

【全方位的に不満なし】
 それではこのサイクロンに不満はないのかと聞かれれば、これがないのだ。ハイスピードハイキングシューズとして考えた場合、本当に死角がない。

 あえて言うなら、アッパーに防水性がないことくらいだろうか。しかし、もともとトレランシューズなのだから、防水性よりも通気性を重視するのは当然。むしろ、夏場はその通気性がありがたかったのも事実だ。

 つまりサイクロンは開発コンセプトにあるミッド〜ロングのマウンテンランニングはもちろんだが、好天前提の少しスピードにのせたハイクにも十分に対応可能。というか、そうしたハイクを、これまで以上にアクテイブに楽しませてくれるシューズとして位置づけておくのが正解と感じた次第だ。

盛夏のアポイ岳。稜線の先に太平洋が広がるという好眺望を、速いペースで歩いて楽しんだ。

 
 
La Sportiva/サイクロン

https://www.sportivajapan.com/product-trailrun/cyklon/
サイズ:38(24.3cm)〜47(29.7cm)
カラー:ブラック×イエロー
価格:19,800円(税込)

Latest Posts

Pickup Writer

ホーボージュン 全天候型アウトドアライター

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ

森山憲一 登山ライター

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター

森山伸也 アウトドアライター

村石太郎 アウトドアライター/フォトグラファー

森 勝 低山小道具研究家

A-suke BASE CAMP 店長

中島英摩 アウトドアライター

麻生弘毅 ライター

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

宮川 哲 編集者

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

渡辺信吾 アウトドア系野良ライター

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

Ranking

Recommended Posts

# キーワードタグ一覧

Akimama公式ソーシャルアカウント