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【mabanuaインタビュー】いつまでも古くならない音を追い求めた時間。

2018.08.28 Tue

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ

Ovallのドラマー&トラックメイカーとしてだけではなく、数多くのアーティストのプロデューサーとして日本のみならず海外からも絶大な支持と注目を集めているmabanua。6年ぶりとなる新作を発表。そして朝霧JAMのステージにバンドセットで立つ。

●6年ぶりのソロアルバムに込められた音。

–––– 6年ぶりのソロアルバム『Blurred』がリリースされました。

 気がづいたらそのくらい空いてしまったというのが、今の本当の気持ちなんです。作ってはみるものの、なんかもうひとつ自分ではおもしろくないというか満足できない状態が続いて。賞味期限として長くないものができてしまっているような感じがしたんです。一回できたものを作り直したりして、それを繰り返していたら6年経っていたという感じです。最近気がついたんですけど、自分に対してすごく厳しいらしいんですよ。そう人から言われる。だから他の人が「いいじゃん」と言ってくれていても、自分のなかでは納得いっていないということが多いんです。

–––– 自分の音に対して問いかけが常にあるからこそ、聞こえて方も違ってくるのではないですか。

 最初は衝動的に作って「あ、いいのできたじゃん」って思えても、半年経つとまったく違ったものに聞こえてきたりするんです。その時に、一体どっちの感情が正しいのかと考えてしまう。はじめて聞く人にとって、自分が衝動的にバッと作った時と同じ心境になるのかなって思えばそれがありなんだと思えるし。逆に時間が経ってなんか違うなって思ったら、一般的に聞いている人がそう感じるのかなって思ったり。どっちなんだろうっていうのがずっとあって。今回、日本語で歌っていることも大きいんでしょうけど。

–––– 日本語の曲ははじめてですよね。

 客演とかでちょこっと歌ったりしたことはあったんですけど、自分の作品でははじめてです。いわばお洒落に聞こえるサウンドに英語を乗せるって、ある部分では簡単なことでもあるんです。それってどうなんだろうなって思うようになって。前にはカフェミュージックというようなコンピレーションに入っていたりすることがけっこうあって、もうちょっと違うところに行きたいなっていう思いがずっとあったんですね。それを追い求めていた6年だったのかもしれないですね。

–––– この6年の間にOvallは活動を休止し、そして復活しました。

  Ovallを休止していても、忙しいくらいにいろんなことをやっていたんですよ。Ovallを休止したから、じゃあ自分のことに集中できたかっていうとそうでもなくて(笑)。

–––– 最初にソロを作ったのはいつだったのですか。

 リリースしたのが2008年でした。

–––– その第1作はどんなことをコンセプトに作られたのですか。

 世の中的にヒップホップが流行っていた時期なんです。しかももうちょっと生楽器よりのヒップホップが流行っていて、セールス的にはジャジーヒップホップとか当時は言っていましたね。今、ヒップホップが流行っていてそれが第二次だとしたら、第一次で流行っていた時。この間にはEDMとか、もうちょっとテンポの速かった時代があるんですけど。その第一次ブームの時にある程度形式があったんです。90から90中盤までのBPMで、ための効いたビートでローズピアノが鳴っていてサンプリングビートもあって。その上にR&Bっぽい歌やラップが乗っているというような。そんな形式があって、2006年2007年頃まではそれに沿ってやると売れやすいっていう時代でした。その波が終わりかけた頃にアルバムを出しちゃったんで、ブームの良さも感じながらも、ブームの冷たさみたいなものも感じたりしていたのが最初のアルバムでしたね。コンセプトはあるようで、周りの状況に合わせていたような部分もあったかもしれないです。

–––– 今またヒップホップが注目を集めています。ヒップホップって言っていいのかどうか悩むものも多いけど。

 2008年のことを考えると、もしかしたらあと1年か2年したらこのブームも終わっちゃうのかなとも思う。バンドとかインスト問わずですけど、現在ではブラックミュージックがいろんな音楽に入り込んでいるので、自分がすごくやりやすい環境ではあるんです。それがもし1年か2年で終わるっていう仮定をした時に、自分はどうすべきかっていうことを考えたら、5年10年という時間で残っていく作品をアルバムとして作っていかなくっちゃいけないなって思うようになって。今みんなが何をやっているのかとか、何が受け入れられやすいかっていうことは、あまり考えない方がいいんじゃないかって思って。

–––– 演奏もプロデュースも、ほぼ一人で作っているわけですよね。音とどう向かっているのですか。俯瞰して聞いているのですか?それとも執着している?

 作りはじめの頃は近くで見ていて、終わりに向かって俯瞰に移っていくという感じです。今回はミックスも自分でやっているんですけど、ミックスの時は俯瞰してひとつの作品と、向き合っているという感じです。

–––– 他のミュージシャンのプロデュースをしている時も同じようなスタンスなのですか。

 他のミュージシャンをプロデュースしている時は、ほぼ俯瞰で見ていますね。自分に入り込むっていうことはないです。Ovallでは俯瞰で見ていることが半分、没頭しているのが半分。それがずっと続いているような感じですね。

–––– アルバムやCDに対するこだわりは強いですか。

 作った先品を、ものとしてせめて紙ジャケットのアルバムかアナログのどっちかで残したいと思っていますね。それは今だけではなく、これから先もずっと自分が死ぬまで。ただアルバム収録12〜13曲というフルアルバムの尺でずっと続いて欲しいかって聞かれると、必ずしもそうじゃなくていいのかなって思う。EPの5〜6曲くらいのサイズ感っていうか、あのサイズ感が最近の自分のなかでは好きだったりするんですよ。

–––– EPは確かに聴きやすいかもしれない。集中できる時間というか。

 ストーリーを考えて13曲目にすごいいい曲を持ってきても、配信ではみんな13曲目までたどり着いてくれているのかなって、ちょっと不安な部分もあります。6曲くらいなら最後まで聞けて、適度な密度があって「もう終わっちゃったの?もう一回聞きたい」ってなる曲数かなって思って。

–––– 20代のミュージシャンに聞くとリリースの形にあまりこだわっていないという返答も少なくないのですが。

 自分の若い時もそうでしたけど、昔の良さを気にしないみたいことがいいとされる風潮があるかもしれないんですよね。例えばCDであれば12〜13曲をフルサイズで入れるとか、自分の先輩がやってきたことや昔から続いてきているリリースの仕方みたいなものを、僕はすごくリスペクトしたいと思っています。音楽の作り方もそうですけど、残すべきものとそうじゃないものを見極める視点の確かさは持っていたいと思います。

●日本語の歌詞に託すストーリー。

––––  ゲストボーカルとしてCHARAさんやアジカンのGotchさんに迎え入れた理由は?

 アルバムを作ろうと思った時から日本語で歌おうということは決めていたんです。それは弾き語りでライブをすることもけっこうあって、1時間くらいでお願いしますって言われた時に、ネイティブじゃない自分が弾き語りで、目の前の10人くらいのお客さんにずっと英語で歌っているのは、なかなかハードルが高いなっていう思いがあって。もちろんバンドサウンドも含めてガーンと出せれば、パフォーマンスも含めて濃いものができるんですけど、自分の言葉が英語だっていうことだけでいくと、日本語の良さっていうものをその時に強く感じてしまって。そういうミニマルな編成になった時に、芯があるようなライブはっていうことを考えたら、日本語にチャレンジしてみようと思ったんです。Gotchさんに関してはその逆で、今までずっと日本語で歌ってきた。日本語でずっと歌ってきた人が、この前の自分のソロで初めて英語で歌い出したんですね。Gotchさんだったら、日本語の良さと英語の良さを、それぞれのデメリットも含めてわかってくれるんじゃないかって思って、Gotchさんに頼んだんです。CHARAさんは、チャラさんの歌詞自体が昔からすごく好きで、読んでもそんなに意味はわからないんですけど、具体的なストーリーがあるようでない、ないようであるみたいな、曖昧な日本語の感じがすごく好きなんです。日本語で書くと、英語と違って聞いているだけでストーリーが完璧に出来上がっていくみたいになっちゃうじゃないですか。そうじゃない書き方みたいなものをCHARAさんは昔からしているような気がして。だから言っている意味がわからなくとも、なんか不思議な気持ち、いいなあっていう気持ちにさせてくたり、切ない気持ちになったりとか。ああいうことをやってみたいなっていうことを作りはじめた頃から持っていました。

–––– 言葉から生まれていくイメージを大きくしたいということですか。

 雰囲気ものとして捉えているのだったら英語で歌ってほしいと思うかもしれないですけど、メッセージとして音楽を聴きたいと思っている人は、なんで日本語で歌わないのっていうことが絶対に出てくると思います。どっちに合わせるっていうことはまったくないんですけど、自分としては英語で散々やってきたから、日本語で歌ってみてもいいかなっていう思いが生まれて。

–––– 出来上がったものを自分で聞いてみて、どう感じていますか?

 今まで作ってきたなかで、音質もパフォーマンスも一番満足しています。事務所から「もういい加減に出せ」とも言われなかったので、突き詰めるところまで突き詰めたっていうこともあって(笑)。だから今自分ができる最大限のことはできたかなって思います。

–––– 曲はどうやって作られていくことが多いのですか。

 かつてははトラックメイカーっぽく、ビートから作っていくっていうことが多かったんです。オケを作ってから後でメロディを乗せていく。今はコードとメロディから先に作って、それでいいものができたと思えば、それにドラムをつけていく。そこでいいと思わなければ、お蔵入りにしちゃうんですよね。曲の芯になるものから作っていった感じですね。

–––– その手法にした理由は?

 このイベントではバンドを入れられないので一人でやってくださいって言われた時に、一人でもできる曲になるというか。トラックの質感ありきで作っていくのもおもしろいんですけど、音響的にハンデがあったり、オケを流しているだけじゃんって言われかねないような環境がけっこうあるんです。自分はミュージシャンでもあるので、もうちょっとフィジカルな声と演奏というところにもっと比重を置きたいということもありました。そうすると、そういう作り方が一番今は理にかなっているのかなって思います。

–––– ヒップホップのライブでは、バックに流れているのはオケということも強いことが多いから。

 だからなのかバンドでやりたいというラッパーが増えてきていますよね。そんなラッパーに聞くとトラックもいいけど、トラックにない質感、生演奏の質感をもっと出していきたいという。フジロックに出ていたN.E.R.D.もケンドリック・ラマーも、生バンドを従えてきていたし。世界的にもそういう流れなのかなって思います。

●mabanuaとしてのライブ。

–––– 朝霧JAMに出演が発表されています。何年ぶりの出演になるのですか。

 mabanuaとしては4年か5年ぶりですね。

–––– 朝霧JAMにはどんなイメージを持っていますか。

 フジロックと同等くらいに、出ることのステータスがすごく高いフェスっていうのがイメージですかね。朝霧には音楽をちゃんと聞いてくれるファンが集っている感じもしています。緊張感もありつつ、逆に安心感もすごくあるフェスでもあるっていうか。わかりやすいことをしなければいけないっていうこともないし、かといって下手なこともできない、かっこいいことをしなくちゃとも思うし。そう思わせてくれるのが朝霧とフジロックなんですよね。

–––– 今年の夏、 久しぶりにOvallとしてフジロックに出演しました。

 やっぱりフジロックは大好きですね。1日しかいられなかったのが、本当に残念というかもったいないというか。帰り際にすごく寂しくなるんです。子どもが遊園地に行って、「まだ帰りたくない」って駄々をこねている感じ。その時の気持ちにすごく近くて。いやー、まだ開催が続いているのに帰りたくはないですよね (笑)。そういう気持ちになるくらい、ずっといたいフェスだなって。

–––– Ovallとして出たのは何年ぶりだったのですか。

 2010年だから8年前ですね。フランク・ザッパの息子が出ていた年です。その後もサポートやら関口シンゴのライブやらでちょこちょこ出てはいたので、2年に一回はアーティストとして行っていましたね。Ovallは休止しちゃっていたし自分のアルバムを出していないし、出たくても出るものがないという状態でした。

–––– 朝霧JAMの出演が決まって、どんな思いを持ちましたか。

 アルバムを6年も出していなかったのに、出られるなんて思っていなかったんですね。びっくりしている反面、すごくうれしいです。だから楽しんでやりたいなと思っています。

–––– リリースツアーは考えているのですか。

 ツアーっていうほどのものでもないのかもしれないですけどちょっと考えていて。いつも自分が思っているのは、Ovallというのはライブに寄っているプロジェクト。こだわって音源を作っているんですけど、どちらかといえばライブをいっぱいしていきたいねって話しています。一方mabanuaは、どちらかといえば録音物をこだわっているプロジェクトなんです。だからそれほど多くのライブをやりたいとは思っていないんです。都市でいえば大都市になるんだろうし、フェスでは朝霧JAMのような出たいフェス。それぐらいでライブはいいんじゃないかと思っていて。一回一回を濃くやりたいと思っています。

–––– Ovallとmabanuaでは、やっている時に意識の持ち方は変わるのですか。

 プロジェクトとはいえ、バンドとソロなので違いますよ。バンドをやっている人に対して失礼かもしれないんですけど、バンドって心のどこかで楽さを持っているんです。Ovallはトリオですから責任が三分割されるっていうのと、プレイしていてもステージ上では3人のオーラがボーンと出ている。けれどソロでは、自分がどうしたいかですべてが決まる。リハーサルのディレクションも含めてですけど、自分がそれでオーケーなのかダメなのか判断しないと、ことが進まないじゃないですか。そういう意味でも気持ちは全然違いますね。

–––– 最後に今度のアルバムはどう聞いてもらいたいですか。

 前は塊として聞いてもらいたいと言っていましたけど、今回は歌詞や歌もこだわったの、歌もちゃんと聞いてもらいたいし、それと同等くらいにオケも合わせて。それぞれ聞いて欲しいですね。

–––– アルバムとライブとは違うものになりますね。

 当然そうなりますね。生バンドで再現することは大変なので、ライブは違うものになると思って来てもらったほうがいいと思います。CDは音源でしか聞けない質感のものって思ってもらえれば。

(Text=Takashi Kikuchi/Photo=北村勇祐)

mabanua
日本人ドラマー、プロデューサー、シンガー。ブラック・ミュージックのフィルターを通しながらもジャンルに捉われないアプローチですべての楽器を自ら演奏し、国内外のアーティストとコラボして作り上げたアルバムが世界各国で話題に。また、プロデューサーとして100曲以上の楽曲を手がけ、多数のCM楽曲や映画、ドラマ、アニメの劇伴も担当。またToro y Moi、Chet Faker、Madlib、Thundercatなど海外アーティストとも多数共演。さらに、Shingo Suzuki、関口シンゴとのバンド "Ovall" としても活動し、大型フェスの常連となる。ソロとして第三作となる『Blurred』が8月29日にリリース。

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