道をゆずる相手はヒグマやカリブー。デナリ国立公園でワイルドなサイクリングを

2023.06.30 Fri

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

 円安や実質賃金低下でハードルが高くなった海外旅行。しかし、アウトドア的旅行なら敷居は低くなる。なかでも自転車移動+キャンプを選べば、費用は現地までの交通費+キャンプ場代+自炊代ぐらいだろう。
デナリ(旧マッキンリー、右奥)。約110㎞離れた地点からの展望。
 そんな海外自転車旅行でおすすめなのが米国アラスカ州のデナリ国立公園だ。北米最高峰デナリ(6,190m)を有し、面積は24,464平方㎞。日本列島で例えれば、四国の1.3倍以上の広さである。
見渡す限りウイルダネスのデナリ国立公園。
 国際空港があるアンカレッジからデナリ国立公園までは約380㎞。アンカレッジからアラスカ鉄道(自転車はそのまま積載可)に乗れば、公園入口のデナリ駅まで約7時間半である。私の場合は寄り道しながらマウンテンバイクを漕いで6日で到着した。

ウイルダネスを貫くサイクリングルート

 デナリ国立公園東端の入口・ライリークリークキャンプ場からは、公園内部へと92mile(148㎞)のデナリパークロードがのびている。夏の間この道には規制があり、一般の自動車が行けるのは15mile(24km)まで。その先の通行が許可されているのは、公園が運行するバス、キャンプ場で泊まる車、公園内の私有地を往復する車だけだ。
デナリパークロードでは奥地へ進むにつれ公園バスが減り、原野の風景を独占できる。
 しかし、自転車は自由。国立公園の入園料を払えば、92mile先のワンダーレークまで何の制限もなくパークロードを漕いで行ける。
パークロードの入口から15mileより先は未舗装路。夏のアラスカといえばファイヤーウィード(ヤナギラン)。デナリパークロードには大小8つの峠がある。累積で約3330m登り、約3320m降りる。 デナリ国立公園の原野では、気に入った場所でキャンプしていい(ルールあり)。
 夏のパークロードは公園バスの往来が多いが、それでも日本の国立公園より野生度は高い。カリブーやムース、グリズリー(ハイイログマ)、オオカミなど、アラスカを代表する哺乳類に、ときにはかなり近い距離で遭遇する。おそらく世界で最もワイルドかつアクセスも利用もしやすいサイクリングルートだろう。
ホッキョクジリスは道路のそばでもたくさん見かける。カリブーにもこんな近距離で。パークロードの土手の下にいたグリズリー。パークロードを歩いていることも。セーブルパス(標高約1200m)。グリズリーが多い地区だが、視界が開けているから少し安心。それでも、自転車のスピードは抑えた。

デナリパークロードのサイクリング

 パークロードを自転車で走るにあたっての注意・必要事項は、デナリ国立公園のサイトのサイクリングページに詳しい。いくつか紹介しよう。
ストーニーヒルにて。長い登り坂が待ち構える。写真家の星野道夫さんは、昔この辺りの原野でオオカミにカメラを盗まれた。
・パークロードを走るにはデナリ国立公園の入園料が必要。
・パークロードに路肩は少なく見通しの悪い箇所も多い。自動車とのすれ違いやグリズリーとの鉢合わせに注意。
パークロードのバス。追い抜くときはスピードを落とすが、砂埃が舞う。デナリ国立公園を訪れる人のほとんどは、このバスに乗って自然ウォッチングを楽しむ。
・パークロード沿いのキャンプ場は5ヶ所。予約と利用料が必要。キャンプ場には、クマなどから食料を守る倉庫(Food Storage Lockers)あり。
イグルークリークキャンプ場。この写真を撮ったあと、レンジャーがすっ飛んできて、「直ちに食料をフードロッカーに入れよ。ベアカントリーだぞ」ときつい口調で言った。
・原野(バックカントリー)でもキャンプ可能だが、バックカントリーパーミット(無料)の取得や対クマ用プラスチックコンテナー(Bear Resistant Food Containers)の持参など、いくつか条件あり。
漕げども漕げどもウイルダネス。
・デナリ国立公園がパークロードで運行するバス(有料)には自転車を乗せられる(台数は限られるので予約推奨)。
※2023年6月時点、土砂崩れのためデナリパークロードは43mile地点で通行止め。復旧は2026年夏ごろ。河原や原野を通過して土砂崩れ区間を迂回し、奥に進んだサイクリストもいる。デナリ国立公園ではパークロードを外れての自転車走行を認めていないが……公園入口のBackcountry Information Centerで要相談ということらしい。
私たちの場合は、キャンプ道具を積んだマウンテンバイクで1泊2日かけて走破した。復路は自転車と共にバスに乗った。
 アラスカに魅せられた写真家・星野道夫さんはデナリ国立公園をいくども訪れ、印象深い写真や文章を残した。彼の作品を知る人なら、デナリパークロードでのサイクリングは格別な体験になるだろう。星野さんが見て聞いて感じたものを共有し、さらに自分だけの物語も手にするに違いない。

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