- 旅
縦・横断サイクリングならこの回り道── Route 4 「しまなみサイクリングで回り道/その2」
2025.08.23 Sat
大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー
「その地域ならでは」を体感し、ロングサイクリングに達成感以上をもたらす「回り道」をご紹介。一直線に走るしまなみ海道にはない船旅と、海の参勤交代の宿場町へ。
■海にまつわる瀬戸内文化への寄り道(愛媛県今治市・広島県呉市)
もうひとつの島わたりの道もよい
大小7つの島を渡るとびしま海道。
しまなみ海道と同じくらい注目されてもいいのが「とびしま海道」。本州の広島県呉市川尻町から7つの橋が島々をつなぐ約30㎞のルートで、見るべき訪れるべき場所は多いがしまなみ海道ほど人気観光地ではない、という旅行先としては理想的状況にある。そしてこのとびしま海道、しまなみ海道のサイクリングから寄り道ができる。
旅の起点はしまなみ海道半ばの大三島。その南西部にある宗方港からフェリー(大三島ブルーライン)に乗れば、約23分でとびしま海道の東の端・岡村島だ。ここまで来るサイクリストはまだ少なく、観光客向けのものはなく、そこにある景観は普段着の瀬戸内。時がさらにゆったりと流れていく。
大崎下島の御手洗(左)と大長(右奥)。
岡村港から西方面へ海沿いを走り始めると、まもなく対岸に山がちな大崎下島と、その海岸をなぞるような町並みが見えてくる。小さな無人島伝いに橋を三つ渡れば大崎下島だ。
瀬戸内海のさまざまな原風景に出合う
まずは、岡村島から見えていた「大長」と「御手洗」の町並みへ。瀬戸内の島の町といえば港町・漁師町をイメージするだろうが、かつて大長の港を埋めていたのは漁船ならぬ「農船」。大崎下島や周辺の島々で栽培されたみかんを運搬した木造船で、豊市民センター内にはその一隻が展示されている。また、港を見渡せば、かつては農船だったかな、という船をみかけることも。この地区名産の「大長みかん」はたいへん美味しいので、旬の時期(10月下旬~12月下旬)に訪れたらぜひ味わいたい。
御手洗の町並み。
御手洗は大長のすぐ隣で、江戸時代には潮待ち港として栄え、参勤交代に利用される海の本陣もおかれた。同じ瀬戸内海で歴史的町並みといえば「鞆の浦」が人気だが、御手洗にも時代を閉じ込めたような古民家が残っている。歴史と伝統ある建築物群として特に価値のある「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている。
江戸~昭和レトロな建物が残る御手洗。
暮らしと海の近さが、瀬戸内の原風景。
大崎下島から西へ、次の島は豊島(とよしま)だ。大崎下島にあったのは農船だが、豊島といえば「家船」。その名のごとしの船で、畳の間に家具、神棚、台所などを完備し、五島列島(長崎県)など遠くの海域へ1週間~10日間ぐらいの漁に出ていたらしい。最盛期には約400隻もあった豊島の家船だが、現在はほとんど残っていない。
豊島・小野浦の町並み。
家船と同じく、ほぼ失われた豊島の伝統文化がアビ漁。魚の動きが鈍くなる冬の漁で、アビという水鳥の群れと共に伝馬船を進め、アビはイカナゴを獲り、漁師はタイやスズキを一本釣りする。アビに追われたイカナゴが海の深場に逃げることで、海の底でじっとしていたタイなどが「食い物が来た!」と活性化、それを人が釣り上げるという算段だ。人と野鳥が一体となって行う珍しい漁法である。アビ飛来数の激減のため衰退したが、豊島の「豊浜まちづくりセンター」内の「あび資料展示室」には詳しい展示がある。
小野浦の町並み。
家船もアビ漁も昔話だが、豊島には現役の伝統も。それが、ほぼ限界まで民家が密集した漁師町の姿。それが小野浦という地区で、肩寄せ合うような民家の路地はまさに迷路だ。観光客が物見遊山で歩いていいのだろうか、という雰囲気だが、「小野浦迷路探検マップ」なるものが用意されている。人気スポットになって「観光客おことわり」になる前に訪れるべきだろう。
豊島から西へ。美しい渚がある上蒲刈島を経て下蒲刈島への橋をわたると三ノ瀬。ここも御手洗と同じく、参勤交代の船や朝鮮通信使の船が停泊した潮待ち・風待ち港で、当時をしのばせる家並みが出迎えてくれる。
小野浦の町並み。
船旅で島をつなぎ、しまなみ海道へ戻る
下蒲刈島からさらに橋を渡れば本州だが、しまなみ海道に戻りたいならおすすめは大崎上島経由だ。御手洗がある大崎下島まで戻り、小長港からフェリー(土生商船・しまなみ海運 )で大崎上島の明石港へ。ここから東方面へ海岸沿いに走り、木江港が近くなったら路地に入ると、古びた3階建ての木造建築が並ぶ「木江の町並み」がある。ここにはかつて遊郭があり、当時の建物が残る貴重な町並みなのだが、老朽化した家も多い。今のうちの町並みである。
町並みを抜けたら木江港。ここから大三島の宗方港へのフェリー(大三島ブルーライン)が出ている。瀬戸内海ゆえに生まれた文化や伝統に出会うサイクリング、これにて完結。
