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【低山ガイド】西のよい山ひくい山 —— 龍馬が歩いたかも!? の古道から、太平洋の大展望へ

2021.05.18 Tue

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

 偉人ゆかりの「道」は数々あれど、なかでもロマンをかきたてるのが「坂本龍馬脱藩の道」。その有力候補の古道を経て、「山」を意味する「森」をめざします。


蟠蛇森(ばんだがもり/769.8m) 高知県佐川町・須崎市

 高知県人にとって坂本龍馬といえば郷土の誇りであり観光の目玉。しかし、おおらかな高知県人、龍馬が故郷を捨てたことはあまり気にしていない(笑)。薩長同盟など教科書に載る龍馬の活躍は、「高知にいてはなにもできん」と藩を捨て素浪人になる「脱藩」以降のこと。地元に残る龍馬の足跡といえば、彼が脱藩のときに歩いた古道ぐらいなのです。

 今回はこの坂本龍馬脱藩の道から太平洋の展望地をめざすルートを紹介しましょう。
龍馬もこんな感じで脱藩!?
 ところで脱藩の道ですが、龍馬自身による記録はなし。旅立ちの高知城下と、県境の山里・梼原(高知県高岡郡梼原町)、瀬戸内海に面した肘川河口の長浜(愛媛県)には立ち寄ったようですが、この3つの町をどのように結んだかは諸説ありなのです。
以前、私が雑誌の取材で歩いた脱藩ルート。
 そのなかで、ある程度の説得力を持つのが、「ふつうに街道を歩いた」説。武士にとって脱藩は藩の許しを得ない違法行為ですが、藩内を歩いているときは「脱藩」してないわけで、堂々としていればよい。また、当時の龍馬は下級武士で、藩の武家社会では無名。モブキャラ相手に、殿様は他藩まで追っ手を出さないのではないか……。

 そんな見立てによって有力視されている脱藩ルートが、佐川町の南西部にある朽木峠越えの古道。ここは明治初期まで主要な交通路で、いまも昔ながらの街道の風情を残しています。
朽木峠への古道は、この画像の奥、右に分かれている舗装路を登っていく。左の道路の奥約300mに車十数台分の駐車スペースあり。朽木峠への古道。
 古道歩きのよさは、いろんな気づきがあること。昔の人は山道をワラジで、しかもかなり長距離を歩いていたのだなあ、とか。それって200年も前のことだけど、世代で考えると、せいぜい私の曾爺さんが子どもだったころなのか、とか。小説や大河ドラマで坂本龍馬の人生はドラマチックに綴られるけど、じつのところ退屈で地味な移動時間が多くを占めたのだろうな~と、脚色されていない龍馬をイメージできるのも古道歩きならでは。
関所を越えて脱藩気分。蟠蛇森は、関所の手前で左の尾根を登る。蟠蛇森の山頂まで見晴らしはない。森の雰囲気は、巨樹はないけど屋久島の照葉樹林をほうふつとさせる。
 朽木峠にはそれっぽく再現された関所が。ここから南の尾根道に入り、蟠蛇森へ。ちなみに「森」は森でなく「山」を意味します。高知県ではバーガ森(いの町)や天狗森(馬路村)など「○○森」という山がけっこう多い。
朽木峠から蟠蛇森へは登山道が不明瞭なところもある。道しるべはあまりなく、木立にまかれたテープがたより。山頂付近には、オンツツジの木が(左下)。開花は例年5月中ごろで、木立の全体が濃いピンク色に染まる。蟠蛇森山頂の見晴らしはすばらしい(右下)。
 蟠蛇森は整備されすぎていない低山なので、落ち葉が積もる平坦地では道を見失いやすいことも。植林地のなか、南国らしい照葉樹林が比較的残っていて、東日本の人にはめずらしい森の景観が続きます。
蟠蛇森山頂展望台からの眺め。高知県は海岸近くまで山また山だ。
 山頂は開けていて、しかも立派な展望台があり、太平洋の眺めは抜群です。ここまでは麓から細い舗装路が延びているので車でもアクセス可。でも、脱藩の道経由で歩いたほうが、心に刻まれるものはずっと多いことでしょう。
 

蟠蛇森 山行DATA
■蟠蛇森(ばんだがもり/769.8m)

 山頂周辺が県立自然公園になっている蟠蛇森。山頂からは、北に西日本最高峰の石鎚山系を、南にリアス式海岸の横浪三里と太平洋をと、ザ・高知県の展望が広がる。蟠蛇森の東側の麓には弘法大師由来の桑田山温泉(源泉かけ流し、日帰り入浴大人700円)がある。
地図制作=オゾングラフィックス
歩行時間計 2時間10分
坂本龍馬脱藩の道(朽木峠への古道)入口(30分)朽木峠(45分)蟠蛇森(35分)朽木峠(20分)坂本龍馬脱藩の道(朽木峠への古道)入口
山行アドバイス 坂本龍馬脱藩の道(朽木峠への古道)入口からさらに車道を約300m行くと車十数台分の駐車スペースあり。公共交通機関利用なら、JR土讃線斗賀野駅から徒歩約1時間50分で坂本龍馬脱藩の道(朽木峠への古道)入口。
 公衆トイレはJR土讃線斗賀野駅、朽木峠(仮設トイレでとトイレットペーパーなし)、蟠蛇森山頂から電波塔方面へ少し下った場所(トイレ自体は壊れかけ)にある。水場はない。地図は、国土地理院1/25,000地形図「佐川」または、国土地理院のサイトから印刷したものを利用。
朽木峠にある案内板。
 オプションプランとして、朽木峠から国道197号方面へさらに脱藩の道を歩いてもいい。石積みの段々畑が印象的な三間川集落で山道は終わり、ここから約3㎞で国道197号へ。「新土居」停留所から路線バスに乗ればJR土讃線須崎駅へ行ける。バスの本数は午後3本しかないので事前に時刻表(高知高陵交通:須崎~梼原線)でチェックを。

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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