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【低山ガイド】西のよい山ひくい山〜道後山 ━━ 龍の背のごとき石塁の山。

(2018.06.19)

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山登りにいい季節となりました。でもまだまだ標高の高い山には、残雪もいっぱい。夏前のこの季節、低山に登るにはいい時期ですよね。そこで、突然ですが、「西の」よい山のガイド記事をひとつ。なんで西なのかって? それは「西の」山々だって、日本アルプスに負けず劣らずすばらしいからです! 題して「西のよいやま、ひくい山」。


道後山(1268m) 広島県庄原市

そこにあるのは、独特の地形と、兵どもが夢の跡。
そして、大自然が自らを癒すプロセス。
夏の白い雲を追いかけて駆けだしたくなるような、中国山地の名峰へ。

道後山は日本三百名山。登山口から山頂までの標高差が少なく、コースタイムは短めなので、夏のファミリー登山にもおすすめです。

 夏空を泳でいるようだ……という気分になる山にやってきました。

 草原のトレイルはゆるやかな放物線を描き、その行く先は、綿雲浮かぶ明るい青へと消えていきます。まもなく、山というより丘が点在する景色になりました。いちばん大きな丘が道後山らしい。

 このあたりは、穏やかな山並みの中国山地でも、もっともなだらかな山域です。一説によると、大昔に平原状の大地が隆起し、その後、あまり浸食されていないとのこと。この先、人類の存続が危ぶまれるぐらいの未来には、深い谷に刻まれた山らしい山になり、さらにときが過ぎれば、もっと浸食されて丘と平原に戻っていくのでしょう。地形の輪廻転生であります。

道後山に延びる、牛を囲うための石塁。大きな岩をどうやって積み上げたのか? まるで遺跡のようでもあります。

 道後山は、人の暮らしと深くかかわってきました。昭和30年ごろまでは山域一帯が牧場で、牛を囲うため、登山口あたりから山頂まで長大な石塁が築かれました。

 江戸~明治時代初頭にかけては、道後山の麓で砂鉄の採取と、それを原料にしたタタラ製鉄が隆盛を極めていました。そして、この山の原生の森は、製鉄の燃料として伐採されたらしく、また、土砂と砂鉄の分離に必要な水流を確保するために貯水池や水路も山肌に造成されました。道後山のトレイルを歩けばいまでもその痕跡に出会えます。

 ここは、人の暮らしによって元の姿を失った山。しかしいまでは、牛を囲んでいた石塁は草原の藪に馴染み、龍の背のごとく連なる低い岩稜に、つまり大自然の気まぐれで生まれた造形物にしか見えません。貯水池にしても、そこはまるで高層湿原のようです。

鉄穴流し(かんなながし:砂鉄の採取方法)のための水を確保するために造られた大池。道後山南側のトレイルにあります。まるで自然にできた湿原のよう。

 かつての人の暮らしや喜怒哀楽を草木が覆い、色とりどりの花を咲かせ、蝶や蜂を誘っていました。

 山肌をなでる夏の風は、過去の記憶を告げることも、未来を予感させることもなく、いまを生きる草の香りを運ぶばかりでした。

 道後山に記されているのは、どんな人生であれ、どんな夢を描こうとも、最期は無になっていくという物語。でも、私がこの山で感じたのは無常ではなく希望でした。私たちが世界から去っても、道後山のようなうつくしい自然は残っていく。そんなことを考えながら流す夏の汗は、いつもよりしょっぱい気がしました。

春から夏にかけて多くの山野草に出会える道後山。取材した2017年7月14日には、ユウスゲをはじめ、ウツボグサやカワラナデシコ、オカトラノオ、オオバギボウシなどたくさんの花が迎えてくれました。

■道後山(1268m)
道後山は中国山地中部に属し、広島県と鳥取県の県境に位置する。日本三百名山に数えられ、山頂では360度の眺望がすばらしく、北東に伯耆大山、北に日本海が望めます。放牧の名残の石塁があり、まるで万里の長城のように山頂まで続いています。「新・花の百名山」に選ばれるほど植物が豊富で見応えあり。今回紹介した、道後山スキー場の上部にある月見ヶ丘駐車場からのコースは、中国山地の広葉樹林や草原、鉄穴(かんな)流しの遺構など、この山の多様な自然と歴史に出会えるのでおすすめです。

■山行コースガイド
〈歩行計=2時間15分〉月見ヶ丘駐車場(40分)岩樋山(25分)道後山(40分)両国牧場跡分岐(30分)月見ヶ丘駐車場
この山行での標高差は196mなので、家族連れにもおすすめ。月見ヶ丘駐車場(約30台)にはトイレはあるが、水は飲料不可。その近くの道後山キャンプ場は無料のサイト。岩樋山から道後山にかけての稜線は日影がないため、夏の登山では熱射病や雷に注意。下山後の観光やグルメは、少し足を伸ばして県境を越え、鳥取県の奥出雲町がおすすめ。すばらしい里山の景観や、おいしい出雲そばの店がいくつもあります。該当1/25,000地形図は「道後山」。

 
(文・写真=大村嘉正 地図製作=オゾングラフィックス)
 
 
※好日山荘発行の『グッデイ・リサーチ』で連載していた「西のよい山ひくい山」が、Akimamaにお引越し。季節ごとに「わざわざ遠方から訪れる価値のある」西日本の低山を紹介していきます。

 
 
ライター
大村嘉正

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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