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【低山ガイド】西のよい山ひくい山——おんせん県、大分の低山「涌蓋山」で、日本の原風景に出会う。

(2019.03.18)

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古来よりの日本の風景とはなにか? 
多くの現代人が忘れたその答えは、豊かに湯の涌く山に。

涌蓋山(1499m) 大分県九重町
みそこぶし山を越えると、駆け出したくなる草原になった。霞のなかに涌蓋山が。

 東には九州最高峰と日本百名山を有する九重連山。そのせいか地元民以外あまり訪れることのない低山ですが、涌蓋山はまちがいなく名峰であります。なぜならそこに日本の原風景があるからです。
涌蓋山雌岳からの涌蓋山(雄岳)。

 じつは現在の、おもに西日本の低山で見られる代表的な風景、「雑木や植林で覆われた山並み」というのは高度経済成長期から増えたもの。それ以前は「草原、林、集落が点在」で、明治時代までは国土の約3割が草原だったとか。昔は燃料を木に頼っていたし、焼き畑農業もしていたので、山の一部は草原化していました。
草原の向こうは九重連山。とにかく見晴らしのいいトレイルだ。

 しかし便利な時代になり、人の暮らしと自然との結びつきが弱くなるにつれて草原は激減。いまでは国土の1%以下だといいます。
牛の放牧地であったり、野焼きの風習が残っていたりで、九重連山周辺には草原の山肌が多い。一目山から涌蓋山にかけての稜線はその代表格。

 なので、そこに巨木も原生林もないけれど、涌蓋山は日本の原風景に出会える貴重な山並みなのです。ルートを選べば登山口から山頂までほぼ草原。しかも尾根は雄大でたおやか。低山で、これほど見晴らしがよくて、思わず駆けだしたくなる長いトレール(今回紹介したのは往復約16㎞)はめずらしい。
涌蓋山への取りつきでは道が一部不明瞭で、天候次第では火山灰土がぬかるむ箇所も。しかし少し登ればふたたび草原に。5月にはミヤマキリシマの花がうつくしい山肌だ。

 けれども、ランドマークになる木や岩、難所がないから、書くことはあまりないのが草原の山。誰も多くを語らない(語れない?)けど登りに行く価値はあり、とくに温泉好きにはたまりません。「涌」の字に偽りなく、涌蓋山の麓は名湯だらけなのです。
いたるところから蒸気が噴き出す岳の湯集落。

 おすすめは涌蓋山の西面にある岳の湯。山肌の穴から、棚田の畔の割れ目から、民家の石垣の隙間から、とにかく集落のあちこちから蒸気が噴出していて、かなりインスタ映えする山里です。ここで湯浴みして、マグマの熱で蒸された料理をいただけば、地球パワーで元気満タンになることまちがいなし!


地図製作=オゾングラフィックス

■涌蓋山(1499m)
 阿蘇、九重連山、由布岳などに囲まれているし、「わいた」なんていかにもな山名だが、活火山ではない。山容は円錐形で、大分県側では玖珠富士、熊本県側では小国富士と呼ばれる。日本三百名山。頂上は360度の大展望で、条件がよければ祖母山(大分・宮崎県)や雲仙岳(長崎県)まで見渡せる。

■山行コースガイド
〈歩行計=4時間35分〉八丁原登山口(1時間20分)→みそこぶし山(1時間15分)→涌蓋山(2時間)→八丁原登山口

 このルートで涌蓋山をめざす場合、一目山にも登る人が多い。しかし、温泉も満喫したい場合は、一目山抜きのほうが余裕のある登山に。涌蓋山周辺は九州を代表する温泉地で、筋湯や黒川温泉など名湯ぞろい。温泉宿に泊まって朝湯と朝食を満喫して出発となれば、登山開始が10時過ぎになるからだ。登山口にもルート上にもトイレや水場はない。

(文・写真=大村嘉正)

 
 
ライター
大村嘉正

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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