- 山と雪
危険な断崖絶壁につくられた「下ノ廊下」の紅葉を見に行こう。
2018.10.16 Tue
北アルプスで紅葉の名所といえば、いちばんに思い浮かぶのは涸沢ではないだろうか。高所だと見ごろは9月末〜10月初めあたりだろうか。最盛期になると、涸沢のテント場には1,000張り以上という信じられない数のテントが張られる。
だが北アルプスで楽しめる紅葉の絶景は涸沢だけではない。ちょっと危険だが、目の前一面に広がる紅葉、さらに自然のうつくしさ、人がつくり上げた造形美も楽しめるオススメの場所がある。それは黒部ダムから仙人谷ダムまでの旧日電歩道と、仙人谷ダムからトロッコ電車が走る黒部峡谷鉄道の欅平駅までの水平歩道、全体を総称して「下ノ廊下」と呼ばれる道だ。例年10月の3週目〜4週目あたりが紅葉のピークとなるので、ちょうどこれからが見ごろになる。
赤、オレンジ、黄色、緑……山肌を色鮮やかなグラデーションが染める。
この道は、道幅がもっとも狭いところで約50cm、いちばん高いところでは川面から数百mにもなる上級者向けのコースだ。1920年に水平歩道が開通し、1929年に旧日電歩道が開通。なんと約100年も前に水力発電やダム建設のためにひらかれた道なのである。現在は黒部ダムを管理している関西電力が管理・整備をしてくれていて、残雪によって異なるが、毎年9月末に開通し、降雪や凍結の影響で11月ごろには通行できなくなってしまうので、実質通して通過できるのは1〜2ヶ月ほどとなる。
下ノ廊下の大部分が切り立った崖につくられた道を歩く。よくこんなところに道を通したものだと感心してしまう。
黒部ダムから欅平駅まで全長約24km、山と高原地図のコースタイムだと12時間40分の道のりだ。阿曽原温泉小屋で宿泊する1泊2日の行程が一般的。車が交通手段だと、ピストンでの山行を選んでしまいがちだが、下ノ廊下は通過してこそ意味があると思う。車なら、多少お金がかかってしまうがマイカーの回送を行なっている会社があるし、時間に余裕があれば、欅平から扇沢まで電車で戻ることもできる。ぜひ通しで歩き、先人たちの努力や、すばらしい景観を堪能してほしい。
下ノ廊下の真ん中にある阿曽原温泉小屋。源泉掛け流しの露天温泉がある。時間で男女入れ替わるので、女性も気兼ねなく入浴できる。
少し話は変わるが、そんな水平歩道、下ノ廊下に魅せられ、6年連続で通い続け、ついにはステッカーをつくってしまった人がいる。福岡で、冒険心をくすぐるデザインのステッカーやTシャツを作成しているTRAIL MARKSだ。
なんでも「裏劔ルートや下ノ廊下を通り、水平歩道を完歩した人たちは、欅平駅にたどり着いた瞬間、尋常ではない達成感を高揚感がある」という思いからだそう。このステッカーは完歩した証明として、ヘルメットや水筒に貼れる。強粘着、耐水性なので剥がれにくいのが特徴だ。下ノ廊下の山バッジは売っていたが、スッテカーのほうがお気に入りの山道具に貼り、常に持ち歩けるので人気がでそうだ。
(左)水平歩道のステッカー。阿曽原温泉小屋にて販売している。400円。(右)九重山のステッカーもあります。こちらは長者原ビジターセンター、牧の戸峠レストハウス、レゾネイトクラブくじゅう、レストハウスやまなみにて販売中。400円。
先に書いたが、下ノ廊下は上級者向けのコースである。すれ違うのがギリギリな崖をくり抜いた道で、山側には転落防止用のワイヤーが貼ってあるが、崖側には手すりなどない。岩場の歩行に十分慣れてからチャレンジしよう。努力したものだけが見ることのできる、まさに秘境と呼ぶのにふさわしい絶景が待っている。
■山行アドバイス
下ノ廊下は危険な道が続くため、毎年滑落者がたえない。通過するときは細心の注意を払ってほしい。
○落石、滑落の危険があるため、ヘルメット必須。天井が低く、頭を打ちそうになる場所もある。
○すれ違うのも大変な個所が多数あり。すれ違うときは対向者とゆずりあい、無理に進まない。必ず立ち止まる人は山側へ。
○ザックのひっかけにも気をつけたい。振り向くときには山側から。すれ違う対向者への配慮も忘れずに。道具の外付けも危険!
○写真を撮るとき、飲食するとき、など道から視線が外れるときは必ず立ち止まるように。
○灯りのない長いトンネルを歩くので、ヘッドライトも必須。
○危険な道でなにがあるかわからないので、小屋泊だとしてもビバーク装備を持つように。
○初めての人だけでは危険なので、必ず経験者と行きましょう。