line_box_head

【低山ガイド】西のよい山ひくい山〜赤兎山で家庭円満!?

(2018.08.22)

登山のTOP

icon

「家庭か登山か」に悩む、とくに夏休み期間中は深く悩むという山人間に朗報です。福井県には、家族も自分も満足できる低山&観光地があるのです。

赤兎山(1629m)―― 福井県大野市

 幸福な家庭 ―― 夏休みにそれは、どんなバックパックよりヘビー。「どこかに連れていけ」という家族の期待を振りきり、あなたは山へ向かえるのか? なにかよい手は……それを、名峰白山の近くに見つけました。

赤兎山はブナの森と高層湿原が美しい山だ。

 夏休み、それは家庭と登山の両立が危ういとき。家族の喜ぶ顔を見たいけれど、山に興味はないらしい。でも自分の、夏山での心の洗濯も重要。皆さんはどうしてますか?

 観光地みたいな山(例えば高尾山)ならついて来るだろう。でも妥協はしたくない。その山にはすばらしい森があり、森林限界を越える稜線も欲しい。なにかめずらしい自然が残っていればなおよし。そして、別行動の家族は麓で思い出をつくれる ―― そんな願望をほぼ満たす低山が赤兎山なのです。

1629mと低山ながら、奥深くて雄大な大自然を満喫できる赤兎山。

 その西の麓は、国内有数の恐竜化石の産地である勝山市。この町の福井県立恐竜博物館や野外恐竜博物館は子どもたちに人気の観光スポットです。また、周辺は芦原温泉(福井市)や白峰温泉(白山市)など名湯ぞろい。温泉旅館でパートナーのご機嫌もとれるという塩梅であります。

赤兎山登山の宿泊地は、個人的には白峰温泉がおすすめ。ここの町並みは国の重要伝統的建造物群保存地区になっていて、日本屈指の豪雪地帯における独自の建築様式に出会える。勝山市にある恐竜博物館へも車で約40分だ。

 作戦はこう。赤兎山へのルートは一番気軽な小原峠コースをセレクト。登山口に至る小原集落の林道ゲートは朝の7時に開くので、それにあわせて早朝に出発。温泉旅館に残したパートナーや子どもには、朝食や温泉街の散策をのんびりと楽しんでもらう。赤兎山登山は約3時間。昼食前には家族と再合流できるはずです。

 登山口への林道は夕方5時~朝7時まで通行止めで、野生度が高い。取材日には、5頭の子を連れた巨大イノシシ夫婦がのんびりと林道を歩いていました。登山口からは比較的若いブナの谷を登っていき、小原峠へ。ここまでの登山道は勝山市と白峰村(白山の麓)を結ぶ古道で、かつては生活物資の運搬や白山詣でで賑わっていたそうです。

左上)登山口から小原峠までの山道は、白山信仰の人々が行き来した越前禅定道。その歴史は平安時代前期から。右上)小原峠から赤兎山頂へはブナに守られた尾根を辿っていく。左下)落差の大きな箇所にはロープが設置されている。右下)奥のピークが赤兎山。

 小原峠からはブナに歓迎されながら尾根を登り、まもなく赤兎山の頂上へ。しかしこの山のハイライトはさらに先、頂上から避難小屋までのトレイル。灌木や草に覆われた眺めのよい尾根がゆるやかに続き、標高約1600mだけど北アルプスの稜線を歩いているよう。高層湿原や池塘まであるのです。

赤兎山の高層湿原・赤池。ちなみに高層=高所ではなく、周囲よりも高く盛り上がった湿原という意味。

 赤兎山は白山連峰の展望地なのですが、この日は渦巻く雲と霧に覆われていました。それでも、次々と湧きながら稜線を越える雲霧は見飽きない光景。雲や霧は風に姿を与えます。普段は「在る」ことを意識させない大気ですが、いつだって、龍のように空を駆けているのだなあ。

左上)赤池の高層湿原には、小さく白い花をつけるイワショウブ(写真の白い花)、モウセンゴケ(食虫植物)などが生えている。湿原は立ち入り禁止なので、草花をよく見るには双眼鏡が欲しいところ。7月にはササユリやニッコウキスゲなどの花畑となる赤兎山だが、取材した8月下旬でもアキノキリンソウ(右上)やオヤマリンドウ(左下)、ムシカリ(右下)が山を彩っていた。

 湿原をなでていく雲霧は、眩しさの濃淡を変えながら、小さな花を風でくるみました。小指の爪ぐらいの甲虫の、つややかな背に触れた霧は、水の粒になっていきました。

 麓の森のツキノワグマも、その黒い毛並みに霧を集めるのだろうか。途中で見かけたイノシシの家族はご飯にありつけたかな……。そこは、家族と共有したい物語に出会う山でもありました。

赤池の近くには避難小屋があり、15人ほどが利用可。トイレ有。避難小屋の奥に行けば、晴れていれば白山の絶景が広がっている。
 


赤兎山(1629m)
 兎のような丸みのなだらかな姿が山名の由来とされている。加越国境に位置する両白山地にあり、その山域は白山国立公園。山頂は白山(2702m:日本百名山)の展望地。山頂の東の赤兎平には福井県唯一の高層湿原・赤池や池塘があり、モウセンゴケ、イワショウブ、ヤチスゲなど湿性植物も多い。

■山行コースガイド
〈歩行計=3時間10分〉小原林道終点登山口(40分)小原峠(50分)赤兎山(20分)赤池・避難小屋(20分)赤兎山(1時間)小原林道終点登山口

 登山口がある小原地域は私有地。入山には地域環境保護協力金(大人300円、小学生以下100円)が必要で、登山口への林道ゲート(開放時間は7:00~17:00)で徴収される。また、家庭用ペットの持ち込みは禁止。登山口には乗用車数十台駐車可の広場と簡易トイレあり。該当の1/25,000国土地理院地図は「願教寺山」。
 
(文・写真=大村嘉正 地図製作=オゾングラフィックス)

 

※この記事は『GUDDÉI research』の記事を再編集し掲載しています。

 
 
ライター
大村嘉正

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

line_box_foot