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君は落ち葉の発酵熱でぬくぬくビバークをしたことはあるか
2019.03.05 Tue
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
日本の(一部の)ブッシュクラフトが迷走している。もったいないと思う。
素朴で本質的な野外活動が流行り始めたな、と思えたのはつかの間。本来一体であるはずの「技術の目的」と「お作法」と「道具」が離れ離れになり、お作法と道具だけがあさっての方向へとつき進んでしまった。
枯れ草がある場所でフェザースティックを削り、
小枝がふんだんにある場所で、ナイフで大きい薪を割る。
たったひと夜を過ごすために、生木で小屋掛けをして、大きな焚き火をおこす。
背負って行動できないほどの荷物を持ち込み、車のすぐ横で泊まる。
そもそも、それっぽい道具をたくさん用意しなくてはいけないのなら「ブッシュクラフト」とはいったい何なのか?
オートキャンプを楽しむ人には「その遊びは本質的じゃない」だなんて口出ししないけれど、ブッシュクラフトまでたどり着いた人には、あと一歩、技術を深めてほしいと思う。多くの道具を携えて消費者の感覚で野山に入るのは、自分を楽しませてくれるはずの自然の濫費につながる。
ときに自然を過剰に利用する最近のブッシュクラフトと好対照なのが、一部のハイカーが行なっているステルスキャンプだ。
野営地でない場所に泊まるステルスキャンプの実践者は、目立つことをしない。焚き火も燃やさず、持ち込んだ幕と寝袋で密かに泊まり、そっと立ち去る。何も痕跡が残らず、あとから通る人は、そこに誰かが宿ったことに気づかない。
さて、どちらが無理のない野営だろうか。より自然に近づいたのはどちらのスタイルだろう? どのみち便利な道具を都市から持ち込むのだ。負荷の小さい利用法のほうが美しいのではないだろうか。
「そんなこと言われても、何かそれっぽい、ワイルドなことがしたいのよ!」
というブッシュクラフト愛好家におすすめしたいのが、今日紹介する「落ち葉ビバーク」である。必要なのは我が身とシュラフカバーひとつ。シンプルかつワイルドなのに、自然をいためつけない野営方法だ。ちっともスタイリッシュじゃないところも、いい。
めざすのはこんな落ち葉だまり。落葉広葉樹の葉がうず高く積もった場所を探そう。
落ち葉だまりを見つけたら、表面の落ち葉を数十cm搔きわける。
気温が12℃ちょっとだったこの日も……。
発酵した落ち葉の温度は約40℃! その差は30℃近い。
さて、こんな場所を見つけたら……
落ち葉を掘り下げてシュラフカバーをファサァ……
シュラフカバーに潜り込み、周囲の落ち葉をかけていく。
かけていく……
最後は片腕でかけて……
シュラフカバーを引きしぼる。 こんな場所に妻子ある不惑間際の男が埋もれているだなんて、お釈迦様もお巡りさんも気づきますまい。最高にステルス。
潜り込んでしばらくすると、背中から暖気が立ち上ってくる。程よい落ち葉の圧力も心地いい。5分もすれば、背中が汗ばむほどシュラフカバーのなかに暖気がこもる。温度と圧をマイルドにした砂風呂のような感覚だ。
森の木々が太陽とともに一年かけて作り出したオーガニックで混じりっけなし、何も足さず何もひかない寝床……つまり落ち葉、に潜り込んだ父を見届けると、息子はブレブレの写真を撮って帰っていった。
夜半、外気は10℃前後まで下がったが、落ち葉のなかはポッカポカ。
暖かいのはよいのだが、シュラフカバーのチョイスが悪かった。防水透湿素材のカバーを選んだので、より高温で多湿な落ち葉から内部へと水蒸気が伝わってくる。「これはこれで蒸し風呂のような効果があるはずだ」と自分に言い聞かせたが、透湿性がないカバーを使うのが正解だったかもしれない。
生き物の気配のうすい冬の里山だが、静かにしていると小動物がカサコソと駆け回るのが聞こえてくる。目の前を飛び交う蛾はフユシャクの仲間か。思った以上に、賑やかなものだな、と思っているうちに眠ってしまった。
おはようございます
明け方、小雨に頬を叩かれたのでそこで撤収した(上の画像はイメージ)。
撤収後の元寝床。見ての通り、ただの落ち葉のまま。ローインパクト!
<まとめ>
発酵した落ち葉はかなり暖かく、その上で眠るのは心地いい(ムレるけど)。誰にも知られない場所で、かなりワイルドっぽいことをした満足感も得られる。落ち葉ビバークは、ブッシュクラフトとステルスキャンプをつなぐ自然にやさしい野営方法である。しかし、自分にはやさしくない。分解に伴い落ち葉の中は酸素が薄くなっている。酸欠には注意したい。また、こんな場所は温度が高いので、野生動物のいる地域では冬場でも吸血生物にたかられるだろう。ヒルやダニ、それらが媒介する病気のことも忘れずに。
そして、全身がカブトムシくさくなるぞ!
※3月6日追記
投稿したとたん、ブッシュクラフト界隈からSNSなどで「上から目線!」「楽しみ方は自由だ!」「自分に酔ってる」「那………是棄屍吧?(これは……捨てられた死体?)」などのごコメント続々。まだ死んでないし、よく読んでほしい。ブッシュクラフト自体をくさすつもりはない。私もブッシュクラフト的な技術を使うし、「シュラフカバーで落ち葉の中で眠る」のはとてもブッシュクラフト的だ。指摘したのは、技術の使い方だ。自然の利用やブッシュクラフトについては、こんなことも考えている。
<書評>野外活動の本質を読み解く。『ブッシュクラフト 大人の野遊びマニュアル』&『グランドファーザー』
<書評>現代人はどこまで自然と調和できるのか!?『ぼくは原始人になった』
<書評>素敵な道のはずれ方。堀田貴之『一人を楽しむソロキャンプのすすめ』