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<書評>素敵な道のはずれ方。堀田貴之『一人を楽しむソロキャンプのすすめ』

2017.04.26 Wed

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 堀田貴之は、そそのかす人である。

 いつでも何かを企んでいて、周囲の人をそそのかしては面白い遊びを繰り広げる。それはブールスを奏でるユニットであったり、またあるときは外遊びがテーマのZINEを作るチームだったりする。

 大人気になったマルチ・ホットサンドメーカームササビウイングもそうやって実現したのだろう。

 そんな堀田さんが、ここのところ静かにしているなと思っていたら、一冊の本が届いた。タイトルは『一人を楽しむソロキャンプのすすめ』。

 なんということか。堀田さんは周囲の人をそそのかすだけでは収まらず、著書を通じて世の中をそそのかそうとしていた!

 ページをめくってまた驚いた。「ソロキャンプのすすめ」と題した本なのに、第1章のテーマはなぜか「もう一度バックパッキング」。コリン・フレッチャーの『遊歩大全』やソローの『森の生活』を引きながら、バックパッキングの背景を解説して本書はスタートする。

 読者はここでちらりと思う。「確かにバックパッキングの要素にはキャンプが入っているけれど、キャンプとバックパッキングは必ずしもイコールではないんじゃないの? キャンプはどこへ行っちゃったんだ?」と。

 そして、次のページを開いてさらにガツンとやられる。見出しには「バックパッキングの旅とは法律の外へ出かけること」の文字。読者はここで気づく。「この著者、ハッピーでスマイリーなキャンプの話をする気なんか、さらさらないみたいだぞ!」と。

 この見開きで堀田さんは、人混みを離れてそっと道を外れろ、と読者をそそのかす。しかし、人目につかない場所で無法者になれ、というわけではない。本文を引いてみよう。

「僕にとって、バックパッキングの旅は、法律の外へ出かけることを意味している。ひとり法律の外側を歩いていると、圧倒的な自由が広がっていく。その自由さは、自分の気持ちや自然に対してでなければ生まれてこないたぐいのものだ」

 そしてこの文はこう結ばれる。

「法律の外で生きるなら、正直者でなければならないのだ」

 ソロキャンプはかくあるべし、なんて無粋なことはいわない。道から離れた場所での野営の法的な問題に長々と講釈を垂れたりもしない。ただひと言「法の外では正直者であれ」とだけいう。大人から大人に向けられた、鋭いアドバイスだ。

 法律だけがルールではない。人には自然と自由を享受する権利がある。しかしそれは、他者を害さない技術と姿勢をもつことが前提だ。

 この本はそんなことをわかってくれる人に向けて書いたんだけど、さて、君はどっちなんだ? そう問いかける堀田さんの姿が思い浮かぶようだ。

 本書はこんな調子で、堀田さんのメッセージを核にしてソロキャンプに必要な道具や技術、アイデアが紹介されていく。

 そのコンテンツは、網羅的でも実用重視でもない。テントについてはたったの4ページしか使っていないのに、「ウンコ」については2ページを割いている。ストーブの項目ではガソリンストーブの魅力について語るが、ガスストーブは登場もしない。ランタンの項ですすめているのは現在主流のLEDではなくキャンドルランタンだ。直接はキャンプに関係ない「ギター」やムササビの観察にはそれぞれ4ページを割いている。

 本書では実用的であることよりも「一人旅を豊かにしてくれるかどうか」に重きを置いてアイテムやアイデアが紹介される。そしてそれは、40年以上外あそびに取り組んできた堀田さんが行き着いたスタイルそのものでもある。

 情報と便利な道具が溢れかえる現代では、「自分なりの自然の楽しみ方」を見つけることが難しくなった。ちょっと検索すれば、キャンプでも野外料理でも、誰かが確立した正解が示される。それをなぞっている限り、大きな失敗はしないけれど、それは誰かの体験を再確認するだけだ。

 正解を教えてくれる世の教書に対して、『一人を楽しむ〜』は正解は教えてくれない。全編を通じて、自然の楽しみ方のヒントだけが紹介される。最後に、本書の精神をもっともよく表す一節を引いてみよう。

「装備の軽量化や機能ばかりにとらわれていると、自分自身が軽くなれない。なんたって、旅へ出るってことは人生を軽くする、ってことなんだから。いい人間は天国へ逝くけど、軽くなれば、どこへでも行ける。もともと軽い人間である僕がいうのだから、これは間違いない。旅の必需品は、少なくかつシンプルに。しかし、無駄だと思われる道具は、重量や機能にとらわれずに選ぶ。というわけで、ひとりで山を歩く今日の僕は、カトラリーをすべてチタンに、ストーブは小さなボルドーバーナーに、そしてテントは持たずキャンプ用のヘネシーハンモックという軽量な装備である。が、バックパックの中には、古いギブソンのウクレレを隠し持っているのだ」

堀田貴之
『一人を楽しむソロキャンプのすすめ』
技術評論社
¥1,480+税

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