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実戦焚き火術その1 摩擦式発火で学ぶ火の基本。河原の自然素材で火起こし!

2019.11.27 Wed

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

私には、ブッシュクラフトブームがわからない

 最近のブッシュクラフトブームにはぷりぷりしている。素朴な野遊びが流行り始めたな、と思えたのは束の間。あっという間に入門者に道具を売りさばく手段のひとつになってしまった。

 きらびやかで男っぽい道具は物欲を刺激するし、焚き火で肉を焼くのは理由もなく楽しい。僕らの体は、そういうものごとを喜ぶようにできている。だから、新しくブッシュクラフトを始めて心躍らせている人をくさすつもりはない。

 しかしブッシュクラフトに興味をもったなら、やれフライパンだ、やれナイフだと散財する前に「自分が何に心惹かれたのか」をもう少し分析してもよいのではないだろうか。

 ブッシュクラフトとはそんなにたくさんの道具が必要な遊びだろうか? もしそうなら、道具をたくさん必要とする野外技術の体系にどれほどの価値があるだろうか? もしかしたら、野遊びを深めたいという素朴な欲求の行き先を、誰かにすり替えられてはいないだろうか?

 野外活動にレジャー以上の意味があるなら、それは「自由を身に帯びるレッスンであること」だと思う。

 少ない道具を知恵で補い、衣食住を自分でまかなう。日常生活では誰かに預けたり握られたりしている自身の生殺与奪を自分の手に取り戻す。群れから離れても、一人でやっていける自信を得る。

 野外活動の醍醐味はそこにあるし、本来的なブッシュクラフトもそういう遊びだろう。

 しかし、うっかりしているうちにブッシュクラフトはそれっぽい道具を売りつけたり、人を囲い込む道具になった。実戦的ではない道具や技術まで、本物であるかのようにばらまかれてしまった。

 最たるものでは、メタルマッチでぱちっとやって「火起こしでござぁい!」なんてやる指導団体が、万単位の受講料を取っているらしい。ヒェェッ! 恐ろしー! そんなの、ライターで火をつけるのといくらも変わらないじゃんか。何か素敵なことが始まりそうだと入門した人をカモにするだなんて、やめておこうぜ。

 かつてアウトドアの世界には、囲い込むことをダサいとする風潮があった。私がお世話になった先達はみな、技術を惜しみなく与え、若者を囲い込まずに外の世界へと押しやった。富と人を囲い込まなかったおかげで、先達はみんな貧乏しているけれど、私はそんな彼らを尊敬している。

 さて、私も十分におっさんになったので、出し惜しまずに教わったことを世に返していこうと思う。第一弾は、動画で解説する「摩擦式発火法」だ。

 摩擦式発火のほうがメタルマッチよりも格が上だとは思わないし、難易度の高い発火法でマウンティングをとるつもりもない。それに、ふだんは私もメタルマッチを使う。ただ、メタルマッチこそが至高の発火法のように紹介され、入門者が惑わされる状況はどうかと思う。

 摩擦式発火をただのパフォーマンスと侮るなかれ。野にあるものだけで火を手に入れる火起こしは、自分では作れない道具に頼るほかの発火法とは根本的に意味が異なる。そして、摩擦式発火法には焚き火のエッセンスのすべてが詰まっている。

摩擦式発火には焚き火のすべてがある

 火が起き、炎が維持されるには3つの条件がある。ひとつは燃料、もうひとつが酸素。最後のひとつが熱だ。焚き火がうまく燃えないときは、必ずこの3つの要素のどれかが欠けている。言い換えれば、この3つを整えれば焚き火はきれいに燃え上がる。

 摩擦による火起こしも、この3つの条件を揃えて野にあるものだけで火を生み出す。火の気がまるでない状態から火を生み出す火起こしには、焚き火の制御に必要なすべての要素がある。

 野から集めるべきは極細の繊維質と摩擦熱を生むための棒と板。できるだけ、乾いている素材を集めよう。

 まずは集めた極細の繊維で鳥の巣状の火口(ほくち)を作る。火口は火種への燃料の供給源であり、小さな火種を冷気から守る断熱材でもある。生まれたばかりの火種は、冷めやすく燃え広がる力も弱い。小さな火種が冷やされずに大きくなれるよう、内側ほど繊維が細かく密になるよう配置する。火口の素材は大人の握りこぶしを2つ合わせた程度の量を集められると心強い。

 火種を受ける火口ができたら、火鑽板(ひきりいた)を成形する。腐敗していない針葉樹(できればスギがいい)の枝を20mm厚の板状に削り出そう。腐敗しているか否かの判断は削った面のにおいを嗅ぐ。木の香がすれば望みあり。キノコのようなにおいなら、すでに菌による分解が始まり繊維が劣化している。

 火鑽棒になるのは中空の草の茎。直径10mm、長さ60cmほどのまっすぐなものを見つけ出す。火鑽棒の素材はセイタカアワダチソウやヒメムカシヨモギ、ウツギやアジサイなどが好適。これもそのシーズンに枯れたばかりの腐敗していないものが良い。

 火鑽棒の先端の皮を削り落としたら、板の端に棒を合わせ、棒の直径ぶん内側に入った場所に刃先で軽くマークをつける。このマークを中心に棒がぴったり収まるくぼみを穿って、棒の先端を収めてから軽く摩擦する。

 摩擦によってくぼみが真円に近づいたら、くぼみの中心に向かって頂点が50°の角度をなす切り欠きを作る。この切り欠きによって、摩擦で生まれた木屑が一点へと集中する。角度が大きすぎると熱が逃げ、小さすぎると木屑が溜まらない。

 板の整形が済んだら、地面に木屑を受ける厚めの枯葉を敷き、そこに切り欠きを合わせる。木屑を受ける枯葉には地面の冷たさを遮る役割もある。また、湿っていたり、生の葉を使うと気化熱によってせっかく生まれた熱が奪われてしまう。板を片足で押さえたら、両手で強く板に押し付けつつ両手を擦り合わせて棒を回転させる。

 手の基本のポジションは耳の脇。両手を擦り合わせながら上半身をまっすぐ下に落としつつ摩擦していく。最初は難しいが体重を乗せられるので慣れるといちばん楽に摩擦できる。棒を摩擦できない位置まで下がったら、素早く上へと取って返し、摩擦面の温度が下がる前に回転を再開する。「摩擦によって生まれる熱>周囲へ逃げていく熱」になれば、摩擦面は少しずつ燃焼の反応が起きる温度に近づいていく。

 摩擦の序盤はゆっくり着実に。手のひらは外に反らさず、棒に手の肉をからめるイメージで保持する。手から力を抜いたほうが、棒と手のひらの接する面が大きくなり少ない力でも棒をホールドできる。手のひらだけでなく指先まで使うと一度の往復あたりの回る距離が長くなり、回転が止まった際の熱の損失が小さくなる。切り欠きの摩擦面の温度を少しずつ高めるイメージで、一定のリズムで摩擦を加えていく。このころの木屑の色は板の色と同じか、板よりも少し深い程度だ。

 正確な圧で摩擦ができれば、切り欠きからは木屑が排出され、少しずつその色は濃くなっていく。摩擦時の音も重要だ。「キコキコキコ……」と高い音が出ているときは、かける圧力が足りず、摩擦面が研磨されている。こんな状態では木屑が生まれない。高音が出たら力を込めて摩擦し、研磨された面を剥ぎ取ってしまおう。摩擦の速度と圧が適正な時には「シュシュシュ……」といった感じの音が出て、順調に木屑が排出される。木屑が摩擦面を覆う程度まできたら、圧と回転を少し強くする。

 火鑽板と火鑽棒による摩擦は、熱と木屑を得るだけでなく、同時に「炭焼き」も行なっている。摩擦面を高温にすることでセルロースを分解し、火のつきやすい木炭の屑を生み出していく。

 摩擦面から出る煙の量が多くなり、排出される木屑が焦げ茶から黒に変わるころ、摩擦面ではなく木屑の内部から煙が立ち上る。これは火種が生まれた合図。木屑から煙が出ているのを確認できたら摩擦を終了し、棒と板を外す。

 赤熱した火種はまわりの木屑を吸着しながら団粒化する。火種が育つのを待って、火口の中心部へ火種を落とし込む。火種を入れたらまわりからそっと包みこみ、火種へと火口の繊維を供給する。この段階では酸素よりも保温が重要。起きたばかりの火種が立ち消えないように、火口で断熱しつつゆっくり燃料を供給する。

 手のひらで火種の熱を感じられるようになったら、火種に向けて酸素を供給する。口をすぼめ、火種があるあたりに新鮮な空気を細く長く送り込んでいく。うまく火種に風を送れたら、火種は一気にまわりの燃料へと燃え移っていく。それとともに火口からは水蒸気と可燃性のガスの煙がモクモク立ち上る。

 火種に燃料と酸素が十分に供給され、火種の周辺が発火できる温度に達すると、可燃性のガスに火が燃え移って炎が生まれる。炎が生まれたらあらかじめ組んでおいた薪に火口を押しこもう。

 摩擦式発火の成功の鍵は熱のコントロールにある。どれだけ強く摩擦をしても、燃焼の反応が始まる温度に1℃でも足りなければ、延々と煙が出続けるだけだ。周囲の状況を観察して、少しでも湿度の低い場所(湿度は気化熱を生む)、少しでも日当たりの良い場所(切り欠きが日陰になるより日が当たった方が温度が上がる)、少しでも風のない場所(風による放熱は大きい)を探し、あらゆる手段で摩擦面の温度が高まる工夫をする。

 十分に乾いた素材と丈夫な手のひらがあれば、摩擦開始から発火までは2分もかからない。ただし、独力で技術を身につけるには数ヶ月かかるかもしれない(私は火が出るまで3ヶ月かかった)。しかし、摩擦式発火を身につけたときには、それまでとは段違いに焚き火がうまくなっているはずだ。

 以下の動画は河原での素材集めから発火までを解説したもの。記事で使った写真はこの動画からキャプチャーした。摩擦の速度や力の込め方、そして何より重要な摩擦時の「音」が入っている。これらばかりは文字と静止画では伝わらない。独習したい人は参考にしてほしい。

<撮影/矢島慎一>

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