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ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース

2020.09.07 Mon

クリューガー量子 ドイツ在住ハイデルベルク市公認ガイド

 みなさん、こんにちは。夏はアウトドアが楽しい季節ですが、今年は新型コロナウイルスが心配ですよね。あまり遠出はしたくないし、かと言って家でじっとしているのも……。こんなときは、自転車で家の周りの自然を楽しむのはいかがでしょうか。密を避けながら運動と自然観察どちらもできてしまうサイクリングは、いまの情勢に最適なアクティビティです。

 ということで、今回は私が住んでいるドイツ・ハイデルベルク(Heidelberg)近郊のおすすめサイクリングコースをご紹介したいと思います。

 ドイツの自転車ライフは充実しています。多くの道路に自転車専用レーンが設けられているのをはじめ、街と街の間に広がる畑や森には自転車用道路があるところが多く、自然のなかを自転車で駆け抜けるのはとても快適です。

 自転車用道路の最高速度は時速30㎞。夫は家から28㎞離れた会社まで、ふだんは車で通勤していますが、昨年までは気候のいい春から秋にかけて週に1回ほど自転車で通っていました。会社まで1時間10分くらいで到着し、会社でシャワーを浴びて気持ちよく仕事をはじめていたのですが、いまはコロナの関係で会社内のシャワー使用がむずかしく、自転車通勤を控えています。

 渋滞緩和や環境への配慮を目的として、ドイツでは自転車通勤が推奨されており、自転車で通勤する人は確定申告の際に通勤距離1㎞につき約35円が所得税対象から除外されます。また、職場にシャワーを設置したり、社用車のかわりに社用自転車を導入したり、自転車購入の補助をしたりといった会社も増えてきました。

 そして今日ご紹介するのが、ヤギ牧場と飛行場と水辺をめぐる約2時間、往復20㎞のサイクリングコース。ドイツ・ハイデルベルク市の南約10㎞に位置するヌスロッホ市(Nussloch)からヴァルドルフ市(Walldorf)までのルートです。ヴァルドルフ市は、日本にも支社があるコンピューターソフトウエアの世界的企業「SAP」の本社があることで有名です。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース地図の上に向かって10㎞行くとハイデルベルク市。

 SAP社の従業員は世界で10万人をこえますが、こういった大企業が緑あふれる場所にあることがドイツの街づくりの魅力です。ドイツではひとつひとつの街が小さいので、通勤通学にかかる時間が短くてすみ、自然の近くに住めるのです。人口8千万のドイツにある百万都市は4つのみ。世界的金融都市であり、ドイツの空の玄関フランクフルト空港があるフランクフルト市(*)でさえ、人口は70万人です。
(*) 正式名称はフランクフルト・アム・マイン (Frankfurt am Main)

 ちなみにSAPの創業者のひとりであるディートマー・ホップ氏は、サッカーの宇佐美貴史選手が以前所属していたドイツ・ブンデスリーガ「ホッフェンハイム」の出資者で、なんとみずからの資産で3万人収容できるスタジアムを建設してしまいました! ほかにも、近郊のいくつかの街に子ども用の数々の運動公園を私費でつくっており、このあたりでは子どもたちも知っている有名人です。

 私の家から住宅街を7分走ると、自転車用道路に出ます。今回ご紹介する自転車用道路は、自転車と歩行者が利用できる道です。隣街に入るとすぐに「Nußlocher Ziegenkäsehof」(地図①)というヤギ牧場があり、ヤギが放牧されているのが見えてきます。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース住宅街を抜けたところにある自転車用道路。

Nußlocher Ziegenkäsehof ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコースヤギ牧場「Nußlocher Ziegenkäsehof」の敷地。「Nußlocher」は “ヌスロッホ” 、「Ziegenkäsehof」は “ヤギチーズの農場” の意味。

 ヤギ牧場には直営店があって、ヤギのヨーグルトやたくさんの種類のチーズ、陶器やヤギのミルクでつくった石鹸やコスメティック製品などを販売しています。このヤギ牧場のチーズは、2012年にポーランドとウクライナで開催されたUEFA欧州選手権(欧州のサッカー国際試合)のときにドイツナショナルチームの食卓にものぼりました。

 キーパーソンは、ハイデルベルク出身の元サッカー選手で、現在サッカーチーム「FCバイエルン・ミュンヘン」の監督であるハンス=ディーター・フリック氏。当時ドイツ代表のアシスタントコーチだったフリック氏は昔からこのヤギ牧場のファンで、「欧州選手権のときにチーズを届けれくれませんか」とヤギ牧場に直接電話をかけてきたそうです。

 パンが主食のドイツにはチーズが欠かせません。友人の家に招待されると、家人がワインといっしょにおすすめのチーズを振る舞ってくれるのも、お宅訪問の楽しみです。ドイツではたくさんのチーズが食卓を彩りますが、少しめずらしいのがこのヤギのミルクからつくられるチーズ。ふつうのスーパーに行くと100種類ほどのチーズが棚に並ぶなか、ヤギのチーズは数種類のみです。スーパーでもそこそこ買えるヤギのチーズですが、やっぱりおいしいのはヤギ牧場でつくられた新鮮なチーズ。私はドイツで「Nußlocher Ziegenkäsehof」しかヤギ牧場を知りませんでしたが、ドイツにはなんと150以上もヤギ牧場があるそうです!

Nußlocher Ziegenkäsehof ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコースヤギ牧場の直営店。「HOFLADEN」とは英語でいうとファームショップ。ここでチーズや乳製品が売られています。

Nußlocher Ziegenkäsehof ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコースヤギ牧場で購入したヨーグルトとチーズとクルミパン。

 今回購入したのはヤギヨーグルトと固形チーズ、それと外側にハーブを付けたフレッシュチーズです。どれも、ほんのりとヤギの香りがして、新鮮。ヤギヨーグルトは夏にピッタリで、1瓶あっという間になくなります。瓶はデポジット制で、空になったらヤギ牧場かふつうのスーパーに持っていくとデポジット代(約20円)が返ってくる、ゴミを出さないシステムになっています。そして、ハーブをまぶしたフレッシュチーズは、柔らかな触感とヤギミルクのほんわかな香りとハーブの香りの組み合わせがたまりません。

 登山やハイキングのときにもチーズは必需品です。ドイツ人が行動食にするのがサンドイッチですが、サンドイッチにいろいろなチーズをはさんだり、ゴーダチーズなどをサイコロ大に切ってお惣菜として楽しみます。山小屋のレストランでも、その土地特産の濃厚なおいしいチーズを食べられるところも多く、おすすめです!

 店の裏にあるヤギの飼育小屋は、だれでも見ることができて、子どもたちに人気です。私たちも長男が小さいときから15年ほど、ここに通っています。小屋は明るくて広く、きれいに掃除されていて、餌の牧草も新鮮です。自分が食するものを、だれがどこでどのようにつくっているかを見られること、そしてその環境がいいものであることはうれしい限りですね。

Nußlocher Ziegenkäsehof ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコースヤギの小屋。明るく清潔なのがよくわかる。

 ヤギ牧場をあとにして、山へ向かいます。右の大きな木はクルミの木。左にはワインのブドウ畑が広がっており、緑がいっぱい。ここに来ると、休暇気分が味わえます。住んでいる場所にもよりますが、ドイツでは近くにきれいな自然があるところが多く、日常生活のなかで自然を感じることができます。ドイツの人の朝は早く、7時すぎから仕事をはじめる人もたくさんいます。残業なしだと16時に、残業1時間だと17時には終業となり、家から職場まで近い人が多いので30分後には帰宅します。帰宅後は家でゆっくりしたり、大工仕事や庭仕事をしたり、近くの緑のなかをサイクリングをしたり、散歩に行ったりします。1日20分でも30分でも太陽にあたって自然を感じるのは気持ちがいいものです。また、日曜日は店が休みなので買い物のかわりに、近くの自然や日帰り遠足などをして、ちょっとした旅行気分が楽しめます。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコースヤギ牧場を過ぎて、山へ向かいます。

 突当たりを右に進むと、小川(地図②)があらわれます。山からの水が流れていて、子どもたちにはうれしい水の遊び場です。長さ3㎝程度の小さなサラマンダー(サンショウウオ)もいて、けっこうかんたんに手ですくえてしまいます。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース小川。水は冷たく、木がおい茂っているので涼むのにピッタリ。

サラマンダー サンショウウオ ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース小川に住むサラマンダー。日本でいうサンショウウオです。

 川をあとにして、ここからは平野を走ります。自転車用道路の横には菜の花畑が広がっています。菜の花の高さは1mほど。もう花の季節は終わりで、種が膨らんでいるのがわかります。菜の花はさらに成長して、夏になると種を収穫します。日本では、やわらかい菜の花の花と緑の部分をゆでて、醤油と鰹節と納豆で食べていたので、この大きくてたくましい菜の花はおどろきでした。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース菜の花畑。人の背丈ほどになった幹の太い菜の花は、独特の匂い(けっこうくさい……)がします。

 少し行くと、林に囲まれた小さな湖(地図③)に出ます。ここは街の釣りサークル専用の湖で、サークル加入者以外は湖に下りられません。ドイツで釣りをするには釣り免許証が必要で、だれもが好きなところでいつでも釣りができるわけではありません。そして、釣り免許証を持っている人も少ないような気がします。私のこちらでの知り合いを見回してみても、釣り免許証を持っているはひとりだけ。

 これは、ドイツでは魚より肉を多く食べるからでしょうか。日本のスーパーや魚屋で売っているような魚は、大きなスーパーの対面カウンターや市場のみで買えますが、種類はわずか。チーズの豊富な品数とは正反対です。ドイツで好んで食べられる魚はタラや鮭、マスやパイクパーチ(スズキに似た大型淡水魚)などで、川魚も人気があります。ドイツは北部以外には海がないので、日本のお魚事情とはかなり異なります。

 一般の人が入れる高台からでも、大きな魚が泳いでいるのが見えました。釣りサークルに所属していそうな人に、この湖にどんな魚がいるのかお聞きしてみたところ、コイやウナギ、パイクパーチなどがいるとのことでした。ドイツにはこのようなたくさんのサークルがあります。学校が主催する部活動はほとんどなく、子どもも大人も街の人が運営するサッカーやバレーボールや体操などのサークルに100ユーロ(約1万2000円)ほどの年会費を支払って、思い思いの活動を楽しみます。このサークルによって、子どもたちは学校以外の友達や居場所を持つことができ、世界が広がります。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース林に囲まれた湖。日本のようなたくさんの釣り師は見あたりません。

 湖をこえて今度は、森の中を走ります。森の中を自転車で走るのは爽快です。林を少し行くと、小川にかかる橋に着きます。木でできた趣のあるこの橋をこえて、川沿いを進みます。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース森の中の小川にかかる橋。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース小川沿いを走ります。

 森を抜けるとヴァルドルフ市に入り、湿地帯(地図④)に出ます。ここはシュバシコウ(コウノトリの仲間)の生息地で、シュバシコウが10羽以上いるのが見えました。シュバシコウはドイツであたたかい季節を過ごし、寒くなってくるとスペインやフランスやアフリカなどに移動します。こういったシュバシコウの巣はドイツの街中にある動物園などにもあって、たまにシュバシコウが飛んでいるのが見えるので、みなさん今度ドイツに来たら、街中でも自然の中でもいちど、空を見上げてみてください。

シュバシコウ ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコースシュバシコウの生息地。画像ではわかりにくいですが、広い湿地帯の奥に木製の塔が3本あり、その上がシュバシコウの巣になっています。

 ここからさらに走ると、飛行機サークル所有の飛行場(地図⑤)に着きます。空を飛んだり、飛行機を見るのは私たちの憧れ。週末になると家族連れなどがグライダーやモーター飛行機の離着陸を見にやって来ます。ドイツではコロナ対策としての行動制限が大分緩和されてきて、こういったスポーツも解禁されました。自転車用道路は飛行場の滑走路を横切るので、飛行機の離着陸の際には踏切が下りてきます。これが結構長いんです……

グライダー ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース飛行場に着陸したグライダー。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース飛行場の踏切。「Halt」は “止まれ”。「Lebensgefahr」は “(生命の)危険” という意味。

 ここから帰途に着きます。今度は小麦畑の間を通っていくのですが、畑ごとにさまざまな麦が植えられているのが見えます。そして山を遠くに見ながら走り、農家や馬術サークルの敷地などで馬が草をはんでいる横を通って帰ります。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース広大な小麦畑。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース山を見ながら走ります。

ヤギ牧場と飛行場をめぐる、ドイツ・ハイデルベルク近郊おすすめサイクリングコース自転車用道路から見える馬。ドイツは馬術強豪国のひとつ。

 ドイツ・ハイデルベルク近郊のサイクリング、いかがだったでしょうか。風に吹かれながら畑や森の中を通って、植えられている作物の成長を見たり、川の中をのぞいてみたり、手を入れて水を感じたりするのは、とても気持ちがいいですね。家の近くをゆったりサイクリングすると、いつもとは少しちがったときが流れます。サイクリングは、日本であろうとドイツであろうと楽しみ方は変わりません。今度の週末、ちょっと時間をとって家の周りのサイクリングを楽しんでみてはいかがでしょうか。

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