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ところで、テントの前室って有効に使ってます?

(2014.01.26)

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テントの広い前室は、とても快適。このスペースをいかに有効に使えるかで、山の上でのテント生活にもちょっとした“差”が出てきます。さて、このスペース、あなたならどうやって使います?

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こちらは、テントの有効スペースを図案化して俯瞰視点で示した図。MSRのハバハバ(左)とハバの略図です。ハバハバは2人用でふたつの入口にそれぞれ前室が設けられています。ハバは1人用で、入口のある片側のみに前室があります。これは一例で、前室の数はテントのブランドによっても変わってきます。図版はMRSのhpより

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上の俯瞰図は、アライテントのエアライズ1DXフライ仕様のイラストです。エアライズ1は日本ブランドを代表する山岳テントの代名詞ですが、このテントにもフライシートを、DX(デラックス)にしたバージョンがあります。図版の左側にある三角の破線部分が、従来のフライシートを使用した場合の前室のスペースです。そして、その上に描かれた台形の部分がDX仕様。有効スペースがかなり広がります。図版はアライテントのhpより

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実際の山行での写真です。このときは残雪期の北アルプスでしたのでアイゼンやピッケルなんかも入って荷物も多かったのですが、前室の片側半分だけでもこれだけのモノを置くことができました。ちなみにテントはMSR。本来なら、もっと整理整頓するべきですが……このときは、手前にある銀色の缶を早く開けたくって気が急いていたこともありまして

 まだまだ寒い日が続きますが、日一日と日没の時間は長くなり、ノロノロではありますが春も着実に近づいています。かなり気が早いかなぁとは思いつつ、この夏はテント担いでどの山を登ろうか、なんて脳内山行をしている日々です。

 そんなこんなで、テントに絡んだ小ネタをひとつふたつ。まずは、前室のことなんて考えちゃいましょう。

 テントの前室というものはなかなか便利なものでして、フライシート一枚で区切られたあの小さな空間があるだけで、テント生活が格段に“快適に”なったりもするものです。でも“前室のスペース、ちゃんと使えてます?”なんて問われると、ちょっと不安にもなってしまいますよね。

 そもそも、前室ってなんのためにあるのでしょうか。いわゆる一般社会でいう“前室”というのは、メインの部屋の前にあるスペース、ということですよね。その役割にもいろいろとあるようで、たとえば豪雪地帯では、雪除けや風除けのためだったり、病院の手術室や大学の研究室では、汚染空気の流入を避けるために設けられたりします。あとは、潜水艦のハッチにも防水や耐圧対策として前室スペースがつくられていますよね。

 では、山で使うテントの場合、前室の役割とはどんなものなのでしょう? 第一に考えられるのは、単純にスペースの確保ですよね。テントの居住空間というのはやはり限られていますので、前室のあるなしは、快適さに大きなちがいが出てきてしまいます。

 たとえば、前室のないのシングルウォールと前室のあるダブルウォールでは、多少なりともテントでの生活具合にちがいが生じてしまうんです。登山靴ひとつをとっても、就寝時にどこに入れるべきかという問題にブチあたるはず。

 とても些細なことのようですが、実際に人ひとりのスペーしかないような小型テントであれば、登山靴が占めるスペースはかなり大きなものとなってしまいます。シュラフの足元に大きな登山靴がゴロっところがっているだけでも、意外とジャマなものなんですよね。

 ましてや、外が悪天候だったりすると、登山靴の裏には泥がベッタリ……だったりもします。そうなると、もう恐怖です(笑)。山慣れた人なら専用のビニール袋を用意したりするものですが、そんな意味でも、前室のないシングルウォールのテントは中上級者向けのアイテムと言えると思います。

 やはり、前室がないのは不便ですからね。中上級者も快適さを追求するもので、なかには、シングルウォールにも別売りで前室が取り付けられるようなテントもあるくらいです。

 このように、前室の存在意義の第一は、プラスアルファのスペースの確保となります。では、この前室を具体的にはどうやって使うかということですが、やはり登山靴やバックパック、トレッキングポールなど、テント内では使う必要のないギア置き場として活用します。テントにもよりますが、入口の前後に前室スペースのあるようなテントであれば、入口に使わないほうのスペースを、専用の荷物置き場にすることもできますよね。

 そうすれば、入口スペースがさらに別のことに使えるようになるでしょう。なんのための空間かといえば、即席の調理スペースにできるのです。つまりキッチン、台所です。雨降りのときなんかに前室があると、本当に便利なんですよね。テントに寝転がりつつ、雨音を聞きながらコッヘルに踊る肉をツツくなんてのも、かなり乙なものですよ。

 もっとも、テント内で調理ができればより快適そうにも思えますが、そこは危険を回避する必要があるんです。ご存知のように、“テント内での火器の使用は厳禁”です。閉め切ったテント内でストーブを使い続ければ、やがて酸欠状態となり、一酸化炭素中毒の危険性が一気に高まります。実際にいくつかの悲惨な事故も起きていますし、これは避けるべき事柄であると思います。

 でも、前室なら安心です。前室はたとえ閉め切っていたとしても、地面とフライシートの間には空気の取り入れ口としての空間が空いていますし、なかにはベンチレーター付きのフライシートもあるでしょう。なので、ストーブを使って調理することもできるのです。それでも不安だというのなら、入口をほんの少し開けておけばOKです。こうすることで、空気の流入量が格段に変わってきますので。

 前室の役割は、第一がギア置き場、第二がキッチンとなりました。そして、さらにもうひとつ、第三の役割もあるんです。それは、テントの室温調節にもひと役買っているという点です。ダブルウォールテントの場合、構造的に本体とフライシートの間に空気の層がつくられますよね。この小さな空間が、いわば“空気のバリア”となるのです。体温などであたためられたテント内の空気をこの層が守り、外気へと逃げていくことを抑えてくれるのです。

 ですので調理のときとは逆に、就寝時には入口をしっかりと閉めておくことをお勧めします。そうすれば、前室のスペースにも“動きにくい空気の層=空気のバリア”をつくり出すことができ、室内を適度な温度にキープしてくれるはずですよ。

 考えてみれば前室なんて単なる空間ですが、時と場合に合わせて上手に使うことで、いろいろな役割を果たしてくれるんですね。でも、とてつもない悪天候だったりすると、上記のようにはいかないことも多々あるでしょう。その点はご容赦を。

 実際の山の現場では、こうやって頭で考えながらテントを使うことは少ないかもしれませんが、知っておけば少しは便利なこともあるのでは、とも思いまして。

 では、みなさんも快適なテント生活をしてくださいねー。春、早く来ないかなぁ。

(写真・文=宮川 哲)

 
 
ライター
tetsu

山岳•アウトドア関連の出版社勤務を経て、フリーランスの編集者に。著書に『テントで山に登ってみよう』『ヤマケイ入門&ガイド テント山行』(ともに山と溪谷社)がある。

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