• 山と雪

クライミングあの山この山。アルパインクライミングの聖地【谷川岳・一ノ倉沢南稜】

2018.06.18 Mon

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

谷川岳は「魔の山」と呼ばれている。

 谷川岳といえば百名山で、ロープウェイも通っているため、初心者でも登りやすい山としてとても人気がある。一方で、「魔の山」とも呼ばれ、ギネス世界記録にも記載されているほどの死者を出している。

 このように切り出してしまうと、まだ谷川岳に登ったことのない人は、行くのをためらってしまうかもしれないが、ご心配なく。ほとんどの遭難者は一ノ倉沢などクライミングルートでのもので、ロープウェイを利用した天神尾根や、三大急登の西黒尾根での遭難は少ない。

 そんな一ノ倉沢は、クライミングを始めたばかりの人にとって憧れの地。アルパインクライミング黎明期より続く、歴史ある聖地として人気がある。とくに一ノ倉沢烏帽子岩南稜(以下、南稜と呼ぶ)はアルパインクライミングの登竜門とされ、取り付きまでの歩行技術、天気が急変しやすい谷川岳での天候判断、そしてルートファインディングまで含めた登攀技術、が試される好ルートだ。

中央の三角形が衝立岩。一ノ倉沢出合からでも存在感が感じられる。衝立岩の左奥にあるのが南稜。

 早く下山ができる6ルンゼの懸垂下降が主流だが、今回紹介するのは、南陵から一ノ倉尾根を登り、国境稜線まで上がるクラシックルートだ。一ノ倉の開拓期から数々のクライマーが抱いてきた、「岩場を登って頂上をめざす」アルパインクライミングへの情熱がこもった道である。山の唄『谷川小唄』でも歌われている。岩場の登攀だけではなく、稜線まで登る体力のいるルートだ。夏は暑く、虫も多くなるので、涼しい春と秋がオススメの時期。

 谷川岳指導センター下から一ノ倉沢出合までは、一般車両通行禁止となっているため、徒歩か自転車での移動となる。自転車は早いが、国境稜線まで抜ける場合、出合まで戻らなければいけないので徒歩がいいだろう。3kmほどなので、そこまで遠くはない。

テールリッジも滑りやすい箇所があり侮れない。

 一ノ倉沢出合が最終トイレとなるため、ここで準備を整えよう。出合からは一ノ倉沢本谷を進み、テールリッジに取り付く。一ノ倉沢本谷の雪渓が残る5〜6月はアプローチが容易のため人気があるが、雪渓崩落での事故もあるので注意しよう。雪がない時期は、巻き道を進み、ヒョングリの滝の先を懸垂下降しテールリッジへ。

 テールリッジを登ると衝立岩中央稜の取り付きに出る。さらに烏帽子沢奥壁をトラバースし、取り付きの南稜テラスをめざす。

1ピッチ目。終了点はどこもしっかりしていた。

 南稜テラスは広く居心地がいいので、休憩と最終準備をすませよう。ここからが南稜のスタートだ。各ピッチの細かい詳細は専門書が出ているので、そちらを読んでいただきたい。全部で6〜8ピッチ。核心は最終ピッチの最後の垂壁(Ⅴ級)で、達成感とともに南稜終了点が待っている。

2ピッチ目。谷川岳独特のスラブ地形がすばらしい。

核心となる最後の垂壁。ちょうどこの瞬間がいちばんむずかしく感じた部分。

 南稜終了点でロープを畳んだり、シューズを履き替えたり、と準備を済ませたら国境稜線に向け登山開始! 国境稜線まではここから標高600mの登りだ。

 笹薮を漕ぎ、簡単な岩場を登って行くと、一ノ倉尾根に出る。まだ国境稜線までは長いが、尾根に出ると360°の絶景が楽しめるので、足取りも軽くなる。

背丈もある笹をひたすら漕いでいく。

 途中にある5ルンゼの頭は中央の凹角を登るのだが、岩が脆く危ない。上部には終了点があるので、ロープを出した方が安全だろう。浮石が多いので落石に注意。

5ルンゼの頭の終了点。バックには谷川岳のオキの耳。

 ここまでくればあと少し。春には花、秋は紅葉など、景色を楽しみつつ登れば、国境稜線を歩く登山者が見えてくる。

大源太山や巻機山。尾瀬の山々や上州武尊山も望める。

 国境稜線に上がると、すぐ下山したくなるかもしれないが、右に少し歩けば一ノ倉岳の山頂があるので、そこまで足を延ばして、記念撮影をしてみてはどうだろうか。クライミングギアを身につけたままがオススメ。

 あとは谷川岳に向け登山道を歩き、下山をするだけだ。クライミングや藪漕ぎで疲れているだろうから、登山道だと気を抜かずに下山しよう。

国境稜線に到着。平標山まで続く国境稜線が一望できる。

■登攀時の注意点
 一ノ倉沢を含む谷川岳の指定危険地区内は、3月1日〜11月30日までの間に登山(クライミング含む)をする場合、10日前までに谷川岳登山指導センターへ登山届けを提出しなければいけません。詳細は「群馬県谷川岳遭難防止条例について」をご確認ください。

(画像=石橋知子 河津慶祐)


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