• 山と雪

3つの外海につながる分水点「北海道大分水点」に行ってみた

2021.10.31 Sun

林 拓郎

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

分水嶺、という言葉がある。雨を別々の水系に分ける山並みのことだ。一般的な分水嶺では、雨は尾根の左右に分かれて川に注ぎ、それぞれ異なる海に続く。日本では列島の中央に連続した中央分水嶺が走っており、太平洋につながる水系と日本海につながる水系とに分けている。

 ところが。北海道には分水「点」がある。日本海とオホーツク海、そして太平洋とを分ける3本の分水嶺がパチーンと一箇所に集まっており、そこに降った雨はみっつの水系に振り分けられ、それぞれ別の海に注ぐのだ。

 ふたつの水系に分かれるのなら、平たい紙を二つ折りにするようなものだ。境目が連なる尾根になることに違和感は感じない。しかし3つの水系に分けるとなると、その形は三角錐のようになってしまう。いきおい分水の要は点となり、ピンピンに尖った独立峰の頂上から3本の尾根が続いているという風景を思い描いてしまう。しかもそこより先、水系は海まで分けられたままなのだ。なんだそりゃ? いったいどんな地形がひろがってるの? というわけで件の「北海道大分水点」に行ってみた。

こちらが北海道大分水点を拡大した地図。黒い三点長鎖線は市町村境で、尾根筋と一致している。Aの尾根は日本海とオホーツク海を分ける分水嶺、Bの尾根はオホーツク海と太平洋を分ける分水嶺、そしてCの尾根は太平洋と日本海を分ける分水嶺。その3つの尾根が集まるところに北海道大分水店がある。登山ルートは赤線でしめした。ルート上の番号は写真キャプションの場所に対応(地図は電子地形図25000(国土地理院)を加工して作成)

 北海道大分水点があるのは北海道の中央から少し北東に寄った北見市。三国山山頂のすぐ近くで、国道273号線・三国トンネルの北側入り口横にある三国山登山道入り口からアクセスすることになる。

ルート上①:左/登山道入り口へは三国トンネルの左脇にある踏み跡をたどっていく。知らなければわからないような、地味な入り口だ。 右/大分水点は三国山に至る登山道の途中にあるため、ルートとしては三国山を目指すことになる

 登山道は山からの湧き水がつくり出したせせらぎを何度も渡りながら、その流れの側を歩いていく。訪れたのは秋口で、この日は霜が降りるほど。スタート時にはダウンが手放せない気温だったが、霜の日は晴れる。登っているうちに強い日差しにあぶられてベースレイヤーにソフトシェルという軽装になってしまった。こうして気温が極端から極端に振れるのが北海道の特徴だ。薄着を何枚も重ねて快適なレイヤリングを心がけておくことをお勧めする。

 また繰り返す渡渉で足元が濡れることも多い。トレッキングシューズは防水タイプなら安心だ。なお、今回はその痕跡を見ることはなかったが、北海道のアウトドアではクマ対策が必須。できれば熊鈴だけでなくベアスプレーも携行したい。

ルート上②:登山道というよりは、渓流沿いにピンクテープの目印が続いている、といった方がいいかもしれない。しかし地形ははっきりしており、踏み跡も明瞭。道に迷うようなことはなさそうだ

左/登ったのは2021年10月14日。霜が降り、ルート上には薄氷が見られた。早朝の気温は2℃。 右/流れる水はどこまでも澄み切っている。その透明ぶりに、足を止めて見入ることもしばしば

 登り始めは渡渉時に足を置く石を探すような水量だったが、標高を上げるとその流れは細くなってくる。登山道の入り口は標高1130mほどだが、1時間ほど歩く頃にはせせらぎは控えめになり、すでに渡渉というよりは水がわずかに流れる谷を詰めている状態。やがてその流れも1340m付近でほぼ消え、地面からわずかに水が染み出しているだけとなる。

 この水系はやがて石狩川に合流、日本海に注ぐ。地面からチョロチョロと流れ出ているこの水が、これからとんでもない道のりを流れていくのかと思うと、なんとも感慨深い想いだ。

ルート上③:分水嶺から地面の下を流れてきた雨水は、ここで地上に現れる。苔むした岩や木が、長くこの場所から水が染み出していることを示している。こうした湧き水が集まってせせらぎをつくり、渓流となり、やがて石狩川へと合流していく

 さて、ここまでで歩き始めて約1時間。この湧き水ポイントを過ぎるとルートは急激に斜度を増し始める。が、その急登も30分ほど。尾根に出ると視界は開ける。その眼下に広がるのは上士幌町の原生林だ。

ルート上④:石狩川と十勝川を分ける分水嶺から南側、上士幌の原生林を望む。この森に降った雨は、十勝川へと合流していくのだ。画面中央右に見える縦筋が、登山道入口があったトンネルから続く国道273号線。正面の山はクマネシリ岳と西クマネシリ岳、南クマネシリ岳。右手奥の雲の下にそびえているのはウペペサンケ山

 人家も人工物もない、太古から変わることのない景色。このなかを流れる水は、最終的に太平洋にたどり着く。水の流れを思うと、自分が今立っている小さな尾根が、なんと決定的に物事を分けていることよ、とまたも感慨深い思いに浸るのだ。

 そうして尾根を登りきった先、三国山へと続く尾根沿いのルートが、ひょいと次の尾根に分岐したところに北海道大分水点があった。なるほど、今まで歩いてきた尾根、そこから三国山へ続く尾根、そしてその曲がり角に左手からもう一本の尾根が合流している。その3本の尾根が集まった最高地点に、広さにして3畳ほどの平地があり「北海道大分水点の碑」と記された碑が据えられていたのだ。

ルート上⑤:ここが北海道大分水点。画面奥に続く尾根が、日本海に注ぐ石狩川と、オホーツク海に注ぐ常呂川との分水嶺だ。北見市のウェブサイトによれば「この地は、太平洋・日本海・オホーツク回へと流れ出る十勝川・石狩川・常呂川の本支流の源流域で、北海道の大分水点である。」とのこと。

 その標高は1532m。目の前にそびえる三国山の方が1541mと高い。そのことを考えると、なぜここが分水点なのか、という気がしないでもないが、三国山には細い尾根が続いている。分水は標高だけではなく地形によっても決まることは当然だが、現場に立って、始めてそのことが身体に染みた気がした。

 それでもこの大分水点周辺に限って言えば、地形は独立峰的な様相を呈している。目の前に三国山がそびえてはいるものの、足元の尾根はぎゅんと急斜面で落ち込んで深い谷をつくり、その先の北見方面には複雑に入り組んだ山岳地形が、上士幌方面には広大な原生林が、そして上川側には大きな峰がゆったりと重なり合うのだ。

 そして驚くべきは、この大分水点からの眺望だ。なにしろぐるりと見渡せば、道北・道東エリアの名山が延々連なっているのだ。西には黒岳から旭岳、そしてわずかに頂上だけのトムラウシ山といった大雪山が続き、眼の前の大原生林を取り囲むように、石狩岳や雄々しい山容のニペソツ山、ウペペサンケ山が位置している。そしてその大原生林をせき止めるように、南にはクマネシリ岳がそびえ、唯一視界を遮る三国山の右には雄阿寒岳や雌阿寒岳があり、左肩の稜線ギリギリには斜里岳や海別岳、そしてその左手の遠く雲との境目には、直線距離で160km以上離れた羅臼岳が見える。さらに東に目を移せば、チトカニウシ山やニセイカウシュッペ山が堂々とした姿で立ち並ぶ。

大分水点からは、ぐるり360度の大パノラマを楽しむことができる。写真はクマネシリ岳を中心に、北東から南西に向けての風景をとらえたもの。画面左手前の三角形の山が三国山。左奥に霞んで見える三角形の山は北見富士

旭岳や黒岳といった大雪山の山々を中心に、北東から南西にかけての風景をとらえた

 分水点という場所のおもしろさもだが、ここは名山のカタログだ。この眺望に浸りながら、旅立っていく水のことを考える。ここはもうすぐ深い雪に閉ざされるが、その雪も、春には大地を潤わせてながら流れていく。水はただ重力に引かれるだけで、見ることができないほど遥か遠くの海まで旅をする。そのことを思うと改めて自然のスケール感に感動させられるのだった。

水の豊かなルートは生命の痕跡が濃い。右は鹿の足跡。大分水点のハイキングは豊かな森の中を流れる水と、その行く先を想う贅沢なものだった。

贅沢ついでに、北海道大分水点を訪ねたなら三国峠の三国峠cafeへの立ち寄りをおすすめしておきたい。コーヒーもストロベリーソフトも絶品なのだが、たまねぎの甘さをしっかり残したカレーこそが味わうべき逸品。中でもカツカレーのカツは、この厚さながら衣サックサクで柔らかい。噛めば豚独特の甘みが口いっぱいに広がる。1,200円(税込) ※三国峠cafeは冬季休業あり

 

■北海道大分水点
登山口/国道273号 三国トンネル北入口側(トンネル200m北寄りに駐車スペースあり)
所要時間/往復約4時間
ルートの特徴/渓流沿いの登山道。数カ所の渡渉箇所あり。後半、笹薮あり。
装備について/足元はライトなトレッキングシューズで十分。笹薮があるので、夏季はダニ対策を。

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