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日本の夏山経験で歩ける山も多い。小雀陣二さんがおすすめする「アラスカの日帰りトレイル」

2017.10.19 Thu

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

毎年、ツアー開催で夏にアラスカを訪れているアウトドアコーディネーターの“チュンチュン”こと小雀陣二さん。ツアー日程の後半に訪れたという3本の日帰りのトレイル情報が届きました。こういった身近なトレイルがフェアバンクスやアンカレッジ周辺にはたくさんあるようです。
 7月初旬から訪れた「雀家2017アラスカツアー」の後半は、お客さんをつれて3ヶ所の日帰りトレイルをめぐった。行き先は「Crowpass Trail(クロウパストレイル)」、「Byron Glacier Trail(バイロングレイシャートレイル)」、「Flattop Mountain Trail(フラットトップマウンテントレイル)」の3つ。

 いずれもアラスカ最大の都市アンカレッジ近郊から1時間くらい南下したエリアにあり、アクセスはしやすく風光明媚な場所である。

 そもそもアラスカの原野は冒険家しか行けないような場所しかないなんてイメージはないだろうか?

 じつは日本の夏山経験があればじつは歩けるところも多い。フェアバンクスやアンカレッジの大きな街を少し離れると手付かずのブルックス山脈エリアと同じ雰囲気をもった自然があり、街から近くても十分アラスカを感じることができるし、アウトドアを楽しめるわけだ。

 その中でおすすめの日帰りトレイルを今回はご紹介しよう。
 一番目に訪れたのが「クロウパストレイル」だ。

 滞在していたアンカレッジのB&Bで朝食後、チェックアウト。スーパーで買い買い出しし、アンカレッジ南東にある、ガードウッドをめざす。車で45分のスキーで有名な「アリエスカリゾート」がある街だ。

 左右を山に囲まれ、のんびりとした空気感があり、しゃれた店がいくつかあり、以前1度訪れて雰囲気がよく、好きになってしまった。日本の白馬に似た雰囲気だ。このアリエスカリゾートは、ガードウッドの北東に位置し、めざすクロウパストレイルは北西側にある。アンカレッジからセワードハイウェイを南下し、景色を楽しみながらドライブ。アンカレッジを出ると右手には海が広がり、アラスカの雄大な山が迎えてくれる。それだけでもこのハイウェイは楽しい。
 ガードウッドに経由しアリエスカハイウェイを北上。一旦ビジターセンターで地図を手に入れる。2年前にはなかったが、この街にブリュワリーができていた。自分は運転手だったので、ビールは飲めなかったが、ショウガの入ったノンアルコールビールを飲んだがこれが絶品! うまかった。
 さらに北へクロウクリークロードを走るとクロウパストレイルのトレイルヘッドがある。駐車スペースがあり、車は20台は停められるだろう。 この日帰りコースはキャビンのあるクリスタルレイクを通過し、15分くらい歩いたところから望むレイブン氷河までの往復約4時間のトレイルだ。
 背の高い木々を横目に歩きやすいトレイルを巻き道になっていてジグザグにゆっくりと標高を上げ登って行く。天候は曇り。
 森林限界付近まではとても歩きやすいトレイル。そこから岩場が多くなり、また土のトレイルに……と変化を楽しみながら登っていく。
 トレイルの分岐を右方向へ斜面をスイッチバック式に登り、岩場のトレイルの中腹を歩く。帰りは分岐の左から降りてくる予定だ。
 景色を眺めながら中腹の岩場をゆっくりと歩く。 少しづつ標高を上げて行くのでキツくない登り。
 2箇所ある水の流れのあるクリークを浸水に注意しながら通過。この辺りからクリスタルレイクのあるコルが見えてくる。
 約1時間でクリスタルレイクの湖畔に到着。天気がよかったらその名の通りクリスタルに輝く湖だが、この日はドン曇り! それでも十分美しい。
 クリームチーズとサーモンフィレを挟んだ簡単なサンドイッチと、ドライ野菜とレインディアのソーセージを入れたクリスタルスープ。朝食で出てきたこのソーセージは高血圧な自分が食べてはいけないとてもソウルティなアラスカ名産だ。のんびりと45分昼食タイムを取った。
 昼食後に歩き始める。天気は今ひとつだが、このコースもきれいな景色でうっとりする。
 ゴールのレイブン氷河。言葉をなくす自然の贈り物だ。ひたすら眺め、記念撮影も済まし帰路につく。 下山後まもなく、分岐があり、来た道と違う別ルートの少し急な下りを選び、クロウクリークを右手に見ながらゆっくりと降りていく。 このトレイルは金鉱跡があり、歴史を感じる。そのころには坂も穏やかになり歩きやすくなっている。 下りの景色も素晴らしく、飽きない。登りは氷河まで約1時間半。下りは1時間と少しで下山した。 ガードウッドのから帰路、スワードハイウェイに出る手前にあるアイスクリーム屋さんで日帰り登山の締め! 「あ~最高!」。

 アラスカでいくつか日帰りのトレイルを歩いているが、今のところ一番オススメしたいトレイルだと今回もまた、同じように思った。

 アンカレッジというアラスカの中心街から車で45分。アクセスもよく、往復の道路から見る景色も風光明媚。トレイルも往復で4〜5時間、日帰りでトレッキングを楽しむにもほどよいし、街にはレストランやアイスクリームショップがあり、新しくクラフトビールの醸造所「Girdwood Brewing Company」ができていた。

 日帰りの1日でアウトドアと観光を十分楽しめるのがこのトレイルの魅力だ。


 続いて翌日訪れたのが「バイロングレイシャートレイル」だ。ここは、登山口が予定のキャンプ場から近く、30分も歩けば氷河を見ることができるといった情報があり、その壮大な景色に期待が高まる。

 クロウパストレイルを歩いた後にウィリワウキャンプグラウンドへ宿泊。ここは、ガードウッドをさらに南下し、ポーテージ湖の手前にあるキャンプグラウンドだ。 清々しい朝日で翌日を迎え、朝食後にこのキャンプグラウンドの楽しみであるウィリワウサーモンビューイングエリアへ。キャンプグランドの脇にあるでハイキングというよりも散歩。きれいな川にはレッドサーモンとチャムサーモンがたくさんいた。アラスカの人に言わせると日本でいう池や川の鯉らしい。 この川、ポーテージクリークはトレイルが整備されとても歩きやすく、散歩をするにはいいコースだった。この日は天気もよく、気温も22度くらい。最高に気持ちよく、クライアントさんからの評判も上々だった。 昼食後にポーテージ湖脇にある「バイロングレーシャートレイル」へ。キャンプグラウンドから車で10分もかからないところにトレイルヘッドがある。わずか片道30分のトレイルだ。だからアウトドアアクティビティというより、観光地。 ちょっとしたアップダウンを繰り返すと目の前に氷河が見えてくる。トレッキング? ハイキング? これはやっぱり散歩だなぁ。小砂利が敷いてあるトレイルは歩きやすい。そんな観光地だけれども、景色は抜群だった。 わずか30分で歩いていける氷河だったが、アラスカの壮大さを感じることのできる場所。山々に囲まれた景色と空気感がいい。日本にもいくつも同じような感覚を得る場所はあるが、それなりに登って行き着く山岳エリアが中心だと思う。しかしここは、アンカレッジから車で1時間。ほぼ平地を歩いてこの場に立てるわけだ。


 そして3つ目となるのが「フラットトップマウンテントレイル」である。アンカレッジ中心地から20~30分の郊外にある、アンカレッジの街を一望できるトレイルだ。

 キャンプグラウンドに2泊し、ポーテージ湖やスワードを観光。翌朝、朝食後に急ぎ支度をし「フラットトップマウンテントレイル」のトレイルヘッドへ車を飛ばす。頂上でコーヒーとサンドイッチの用意も忘れない。 トレイルヘッドはアンカレッジの南東側の住宅地の奥にある。
 この時なんとムースが道路脇に親子で草を食べているではないか! 今までで一番近くで見たムース。のら猫じゃないんだから。あらためてアラスカというのは自然の豊富なウィルダネスエリアに作られた場所なのだと思えた。
 トレイルヘッドでは、晴れからすっかり曇りになってしまい、風が吹いて肌寒い。雨が気になる雲まで……。歩き始めから雨具を着て防寒、雨対策をするが、周りの観光客はTシャツとショーツの人もいる。日本でいう高尾山のような山なのだろうか? それでも、このトレイルヘッドからでも十分景色はよかった。夜に来ると夜景がきれいらしい。 ブルーベリーでも有名なトレイルだ。ブルーベリー採りから帰ってきたファミリーの姿も見かけた。
 中盤から急な木の階段などもあり、登山の雰囲気に変わる。そして、岩だらけの頂上は気が引き締まる。 約1時間で山頂手前のコルに到着。見上げるとこれ以降は容易ではないことがわかる。ここで引き返す観光客は多い。 さらに進行方向へ出現したトレイルの急登に、お客さんにとってはお気軽なハイキングではないよなぁ……とやや心の中で凹む。山頂手前はこんな感じだ。登頂すると風を避けているものがなくなり、名前の通り山頂はフラットだった。とても寒い風が吹いている。コーヒーを飲んだり、サンドイッチを食べる気分にならないほど。でも、景色は抜群! 曇りは残念! 下山は慎重に。寒さで手がかじかんでいる……。小雨に濡れた岩々を慎重に、急勾を少しずつ下る。 穏やかなトレイルに入る。ここはブルーベリーループと名付けられていて、周回できるルート。登りとは違う道を選ぶと、斜面はブルーベリーだらけ。ちょっと酸っぱいが、食べながら歩く。そうして無事に3つ目のトレイルを終えた。曇りや小雨は残念だったが、往復3時間。この日も午後はアンカレッジの街を観光した。

 今年のアラスカツアーは充実していた。
 
 内容は川下りとキャンプとハイキング。北は北極圏内で過ごしたが、街の近くでも十分アラスカの自然を体感できる。いろいろ見てきたがアラスカは原野に街ができたのだとつくづく思う。住宅街に突如、ムースなど野生動物が顔を出しくる。街や空港の脇にある池や林はアラスカの自然そのもの。そんなアラスカの魅力を今後も伝えていきたい。

 余談だが、自分が好んで旅し、またお客さんとともに下っている川は、アラスカ北部のブルックス山脈、北極圏内にある。故星野道夫さんの写真や文章に度々表現されている場所で、アラスカの原野が手付かずで残されている。山は特にトレイルが整備されているわけではなく厳しい。ブラウンやブラックベアと遭遇する危険性もあること、人がいない場所に行くので衛星電話を持つなど緊急対策は必須。定期便とチャーター機の両方を使って入っていく場所で、お金も時間もかかり、いつでも、どこでも迎えに来てくれることはない。

 だから、危険やリスクを伴い、行くまでにもそれなりに費用はかかる。そう書くととてもハードルが高く、難しい川だと思うだろうが、クライアントは川下りの経験者でもエキスパートではないので、技術的には難しい川にはチャレンジしていない。
僕の役目は、安全にアラスカの原野を楽しむサポートなのだ。
(撮影・文=小雀陣二)

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

アウトドアメーカー勤務後、広告、CMなどアウトドアに関する撮影などでコーディネーターとして携わる。得意な料理を通じて、アウトドアで過ごす楽しさ、重要性を伝え、雑誌を中心に新しいアウトドアの海・山料理、キャンプ料理のレシピや手法を紹介し、イベントではアウトドア料理やキャンプの講師を勤める。日本国内、米国アラスカなどでカヤックツアー、MTBツアーなどを行ない、それらさまざまなフィールドでの経験を活かし、アウトドア道具の商品企画に関わる。著書『焚き火料理の本』、『山料理』(山と渓谷社)、共著『“無人地帯”の遊び方 人力移動と野営術』(グラフィック社)など。週末は不定期に神奈川県の三浦半島の突端、三崎港でカフェ「雀家」を営む。

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