• 山と雪

“男のロケ地探索隊”が行く。 伝説のあの映画に映る山は、かくもハードボイルドだった。

2014.08.25 Mon

 映画やドラマで、チラッと映るだけなのに、なぜか心に焼き付く風景ってあると思う。ストーリーには直接関係ないのに、タイトルを聞くとふと思い出す——そんな名シーンのロケ地を探し訪ね、己をオーバラップさせて陶酔するのが“男のロケ地探索隊”、略して男ロ隊だ(「おとこぐち」じゃないぞ)。鳩尾にガツンと響くアクション&人情映画の舞台へ、いざ!

 取り上げるのは40年近く前の映画「幸福の黄色いハンカチ」。刑務所帰りの島勇作こと高倉健と垢抜けない旅人・武田鉄矢、桃井かおりの3人が、網走から夕張へと旅を続ける珠玉のロードムービーだ。北海道を横断しながらのストーリー展開は、美幌峠や雌阿寒・雄阿寒といった美しい景色が次々に登場する。

 なかでも印象的なのが夕日を浴びて走るクルマの中で、健さんがやさぐれた自分の過去を訥々と語り始めるシーン。それまでのダンディな姿から男の弱さを垣間見せる、物語のターンニングポイントでもある。

 このとき、車窓越しに見える険しい稜線が、今回のターゲット。このシーンの直前、峠道の検問に引っかかった健さんは近くの警察に連行される。町は新得、署長役は渥美清だ。そしてこのシーンの後に来るのが砂川の旅館で、その主人が寅さんのタコ社長。新得〜砂川間をつなぐ国道38号から見える山でこれだけ険しいところとなると答えはひとつ——芦別岳から富良野西岳にかけての山稜しかない。

 芦別岳は標高こそ1,726mにすぎないが、夕張山地の最高峰であり、峻険な岩稜が屹立して多くのクライマーや滑り手を惹きつけてやまない名峰だ。夏道は新道と旧道の2本。一般的なのは新道だが、それでも標高差1,400m、往復7時間強となかなかハード。しかし、この山の魅力を知る人は誰しも口を揃えて言う。

「芦別岳は旧道っしょ」

 ただし、旧道は体力、気力ともにそれなりの心構えがいる。標高差は新道と同じ1,400mだが距離はずっと長く、しかも総じて荒れ気味&不明瞭。山頂までのコースタイムは5時間半〜8時間とまちまちで、つまりは状況次第ということでもある。下山を新道に取るにしても往復10時間は覚悟しなければならず、しかもこれを日帰りでこなさなければならない。

 お盆で混み合う麓のキャンプ場に着いた男ロ隊は、前夜祭もそこそこに就寝。翌朝5時半に登山口を出発した。はじめはユーフレ川に沿いの道を、川原を歩いたり高巻いたり、流木を乗り越えたりしながら上流へ向かう。夫婦沢に入るとピンクリボンが頼りの荒れ気味の道となる。次第に迫ってくるのはクライミングの舞台として知られる夫婦岩。その大岩壁と対峙しながら上り詰めると、ようやく頂上へと続く長い北尾根の上に立つ。

 そこからはハイマツや笹の被る狭い道をかき分け、いくつものピークを越えてゆく。随所に羆の糞や掘り起し、ときに強烈な獣臭……。(ちなみに前日入山した数組は、稜線に羆が居座ったまま動かず、やむなく頂上を目前にして撤退したとのこと)。やがて北尾根の核心部、キレットと呼ばれる鋸歯状の岩稜となり、これを消耗しながら超えると別天地のようなお花畑となった。風に揺れるチングルマの穂に囲まれてブルーベリーをつまみ、最後は壁のような岩稜をよじ登って絶頂へ。

 動きの早い雲の切れ間に、歩いてきた長い稜線や富良野盆地を挟んだ十勝連峰、遠く日高の山々がのぞく。変化に富み、野趣に溢れたルートは、達成感、味わい深さともに第一級。それは、映画の中の健さん演じる島勇作のような渋い魅力に満ちていたのであった。

(文/写真=長谷川哲)

■芦別岳/登山情報
日帰り:参考コースタイム 登り(旧道)6時間30分、下り(新道)3時間
アクセス:新道、旧道ともに富良野市山部自然公園が起点。JR根室本線山部駅からタクシー5分。富良野市街からクルマで約20分。キャンプ場や宿泊施設あり。
2万5000分の1地形図:布部岳、芦別岳
アドバイス:悪路慣れした道民登山者でも一目置く上級ルート。体力、ルートファインディング、羆対策など総合的に難易度は高い。 

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