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【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう

2022.06.23 Thu

まつだ しなこ 子連れハイカー

夫婦で決めた優先順位

 仕事が入ったため、子どもふたりを夫に託して家をあけることになった週末。私は不満を言うでもなく、ニヤニヤして子守を引き受けた夫の態度に一抹の不安を感じながら家を後にした。

 夕方になって仕事から帰ってくると、リビングからなにやら楽しげな声がする。

 おそるおそるリビングに顔を出すと、そこにはモンベルをはじめとしたアウトドアショップの買い物袋や空き箱に囲まれた3人の姿が。そして、その中心で娘はわが家にはなかったはずのアウトドアグッズを身に付けてはしゃいでいた。

 夫が子どもたちと出かけた先はアウトドアショップ。そこでたくさんの山道具を購入してきたのだ。使った総額を聞いて一瞬目眩がしたが、私には夫に文句を言えない理由がある。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう ボルダリング 息子もあっという間に一歳半。なにをするにも、どんなものでも、お姉ちゃんと同じがいいお年頃。

 娘が生まれて以来、「子どもの山道具だけは最初からいいものを使おう」と夫と決めていたからだ。結婚以来、日常生活では意見が合うことがほとんどない私たち夫婦だけれど、子育てに関して、限りある労力とお金を、どう、なにに使うのかの優先順位は一致している。

 私は娘が3歳をすぎたあたりから、周りの家庭の育児方針が気になって仕方がなかった。お母さんがパートに転職し、保育園から幼稚園に転園する子、小学校受験をはじめる子、自然豊かな地方都市に移住する子。人の育児の話を聞くと、「あれもこれも、やらせた方がいいのかな」とすぐ影響を受けてしまうが、夫婦で優先順位を決めておいたおかげで、いまのところお金と労力の使い方に関しては迷子にならずに済んでいる。

「見て! かっこいい? 早くお山に行きたいなぁ」

 うっとりとピカピカの山道具を眺める娘の姿を見ていると、それを抜きにしても怒ることもできない。


道具の「仕組み」を発見するおもしろさ

 この日の夫の戦利品は子ども用サングラス、ヘッドライト、虫かご、そして登山靴などである。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう モンベル ソックス 虫かご 登山靴 サングラス ヘッドライト ヘッデン ラップランドブーツ Kid's アイドルアイズ Idol Eyes Baby Wrapz 2 エーワン A-one コロン そのほか、登山用靴下やテントサイトにさす風車など……。小物とはいえアウトドアグッズは安くないので、どこまで経費承認するか悩ましい。

 子ども用サングラスは変換可能なベビーフレームが特徴のアイドルアイズ(Idol Eyes)「Baby Wrapz 2」というものだ。テンプル(耳にかける部分のこと)が取り外し可能で、付属のバンドに付け替えることができ、動きがはげしい子どもでも安心して使える。ラバーフレームは軽くてやわらかく、折れたり割れたりの心配がなさそうだ。

 ヘッドライトはモンベルの「ミニ ヘッドランプ」。電池を入れた状態でもわずか32gという軽さと、子どもの頭にもフィットする小ささなのに、高輝度白色LEDと、電球色LEDを切り替えが可能というすぐれもの。

 山道具として予算承認するか迷ったのが、エーワン(A-one)の「コロン」という、折り畳み式の虫かご。小さくなるのでザックに常時入れておいてもかさばらない。しかも片面がナイロン窓になっているので、捕まえた虫を観察しやすいなどの工夫がいろいろと仕掛けられている。

 そして登山靴はモンベルの「ラップランドブーツ Kid's」。お値段8,470円(税込)。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう  登山靴 モンベル ラップランドブーツ Kid's サイズは16㎝からなので、中肉中背であれば3歳半〜4歳くらいから履けるだろう。店頭で試着して、自分でカラーも選んできた。

 キッズ用といえ、仕様は本格的なトレッキングシューズ。防水透湿性もさることながら、すぐれたグリップ力を誇るソールが頼もしい。ハイカットデザインで、バントは二箇所。ひとつは足首をしっかりと固定し、もうひとつは足の甲を固定して靴の中で足がずれるのを防いでくれる。

 価格はそこそこするけれど、高規格の道具にはメーカーが知恵を絞った工夫が細部に仕掛けられている。その構造を子どもに説明すると「なるほど、そういう仕組みね」と、娘は素直に感心している。工作でなにかを作るときにも「これはこういう仕組みです」といろんな機能を考えているので、いいものを使うことは、物づくりに関する興味を持つきっかけにもなっていそうだ。


3歳8ヶ月、登山靴で最初の一歩

 ピカピカの山道具を携えて、今回、向かったのは南伊豆・松崎町にある、標高519mの高通山。海が見える山に登ってみたいという娘のリクエストに答えるため、南伊豆の「夕日が丘キャンプ場」で一泊したあと、翌日に登れる海岸沿いの山ということで選んだ。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう 夕日が丘キャンプ場 目の前に広がる伊豆の海に沈む夕日が見える、ロケーション抜群の高機能キャンプ場(ゆえに早めの予約必須)。「海も見えるし、お花も咲いてるし、いいところだねぇ」とご満悦。

 高通山はキャンプ場から車で10分程度。ほかの観光地からは離れているので、人気はあまりない静かな里山だが、登山口に多目的トイレもあるし、遊歩道もしっかり整備されているので登りやすい。
 
 この山で娘は待望の登山靴デビューをはたす。

 父のマネをして、かかとをトントンと地面に打ち付けてから靴のバンドをしめる姿に、よろこびとも、おどろきとも、なんともいえない感情が込み上げてくる。よちよち歩きもできないころからベビーキャリーで背負われていた娘が、いつの間にか登山靴を履いている。なんて尊い瞬間だろう。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう 南伊豆 松崎町 標高519m 高通山 登山靴 ラップランドブーツ Kid's ふだんは落ち葉に足をとられたり、岩で滑っていたりしていた娘だが、さすがは登山靴。3歳児でも気がつくほど滑らない。そして足首がしっかりと固定されるので、多少、足をとられても転ばない。

 最初の急な階段を登りきると、落ち葉に覆われた登山道がはじまる。狭いが、両側が崩れているところには手すりもあり、安全な道だ。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう 南伊豆 松崎町 標高519m 高通山 登山道 登山道。階段が整備されていたり、柵があったり、子どもといっしょでも歩きやすい。コース中にトイレや水場はないので、入山前にしっかりと備えよう。

 木に囲まれた里山らしい登山道を1時間かけて登ると、突然、空がひらけ、目前に水平線が広がった。見たことのない景色に「わぁ!」と娘が歓声を上げて立ち止まる。すぐ先が崖になっているので、足元に海が広がっているような不思議な感覚になるのだろう。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう 南伊豆 松崎町 標高519m 高通山 山頂 最近の親子登山では、山頂でガスがかかり景観に恵まれなかったので、感動もひとしお。

 さらに10分ほど進むと開けた広場に出る。そこから眺める南伊豆の海の先には富士山も望め、まさに絶景。

 贅沢な景色をわが家で独占しながらお昼ご飯を食べ、下山。登り1時間30分、子どものモチベーションが下がってしまった帰り道は1時間かかり、トータル2時間30分の行程となった。

 道も歩きやすく、抜群のご褒美が山頂に待っている、いい山だった。はじめての登山靴といっしょに登った山としては、最高の思い出になったのではないだろうか。


最初こそ、最高の体験に

 子どもが新しいアクティビティをはじめるとき、道具に関しては安いものではないので、「続けられるかわからないし、まずはできるだけ安いもので」となりがちである。しかし、子どもやビギナーほど本物にこだわりたいと私たち夫婦は考えている。いい道具を使えばアクティビティが圧倒的に快適になるからだ。高機能ウェアを使えば寒い山でも体は冷えにくい。専用の登山靴を履けば疲れにくく歩きやすい。快適になれば登山の思い出が「つらい」から「楽しい」にかわり、パフォーマンスもグンと上がるので、アクテビティに没頭することができる。

【山ヤの子育て】親子登山15座目・本物志向でいこう サングラス アイドルアイズ Idol Eyes Baby Wrapz 2 最近ではサングラス姿がすっかりお気に入り。

 そして、アウトドアアクティビティ専用につくられた道具やウェアは壊れにくいので、メンテナンスをする習慣が身に付く。つい「まあ100円だったし」「安かろう、悪かろう、だね」なんて言って、壊れたものを子どもの目の前でポイっと捨ててしまうことがあるけれど、これはあまり良くないと自分を戒めている。耐久性の高いものを買い、しっかりメンテナンスし長く使う。そういう姿こそ子どもに見せていきたい。

 とはいえ、本物志向は先立つものが必要である。しかもわが家は子どもがふたりなので、いずれ必要な資金も2倍になっていくだろう。特段、余裕のある家計ではないので、山道具マニアの夫も少ないお小遣いに文句を言わず、自分の買いたい山道具は横目で眺めるだけにしている。夫婦でお金と労力の優先順位を決めておいたおかげで、わが家の分断は免れているのかもしれない。


 

しなこさんの、パパママへのアドバイス
登山靴は泥が付いたままにしておくと、そこから痛んでいくので、下山したらなるべく早くブラシで泥を落としましょう。ブラシは100均で買ったものを使っています。


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■アイドルアイズ/Baby Wrapz 2

■モンベル/ミニ ヘッドライト

■エーワン/コロン

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