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シーカヤッカーによる、瀬戸内海の記憶を未来に残す航海と、クラウドファンディングが始まった!
2023.10.18 Wed
大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー
いつも歩くあの通り道、家並みにひとつ空き地ができていた。あれ、ここに何が建ってた?――という経験、ありますよね。そんな、「なくなれば、なかったことになる」は、自然にもあてはまる。
たとえば瀬戸内海。三千余の島が浮かぶこの海にカワウソが生息していたことや、スナメリ(小型のクジラ類)の助けを借りながらタイを釣る漁があったことを知る人はごくわずか。日本のことなのに、日本人のほぼ全員にとって、もはや「なかったこと」なのだ。
むかしの瀬戸内海には、このような遠浅の海がそこかしこにあった。
そんな「なかったことになる」にあらがう航海と、それを支援するクラウドファンディングが始まっている。
瀬戸内カヤック横断隊の旅の様子(画像/瀬戸内カヤック横断隊より)。
漕ぎ出したのは「瀬戸内カヤック横断隊」。プロ・アマ・初心者問わず、自己完結できて志を同じくするカヤック乗りならウエルカムというという、風通しのいいつながりである。彼らは2003年から毎年約1週間、10〜30人で瀬戸内海を西に東に漕ぐ日々を送ってきた。風や波を読みながら、海面にとても近い目線での航海である。
瀬戸内カヤック横断隊の旅の様子(画像/瀬戸内カヤック横断隊より)。
シーカヤックで体感してきた瀬戸内海の20年。
そこから生まれた新たな船出
「日本初の国立公園のひとつ」「多島美に癒される」「日本で行くべき旅行先」などと称される瀬戸内海。しかし、瀬戸内で50年以上暮らす私のような人間からすると、手放しで「すばらしい自然」とはいえない海でもある。たとえば、瀬戸内海の自然のままの海岸線は37%しかない。航海技術とともに瀬戸内海の自然や歴史文化を学んできた瀬戸内カヤック横断隊も、そんな現実を目にしたことだろう。
瀬戸内の港の原風景を残す鞆の浦(広島県福山市)。一時はこの景観が損なわれる危機にあった。
しかし、忘れられたような小さな島々や開発から逃れた海域には、自然と調和する暮らしや豊かな生態系がまだ残っている。そんな、次の世代へ受け継ぐべきものを、瀬戸内カヤック横断隊は航海を通じて記憶に刻んできた。そして、それらを記録するならラストチャンスかもと思うようになったのも、自然な流れだったのだろう。
重要無形民俗文化財「大避(おおさけ)神社、坂越の船祭(兵庫県赤穂市)」。第21次瀬戸内カヤック横断隊はこのような伝統文化も記録していく(画像/瀬戸内カヤック横断隊)。
瀬戸内海の自然や人の営み、記憶などを撮影・記録する「第21次瀬戸内カヤック横断隊」は、この10月2日に徳島県の鳴門海峡から漕ぎ始めた。山口県の関門海峡をめざす約500キロメートルの航海で、期間は約3ヶ月にもわたる。撮影スタッフや撮影用の伴走船・車両なども同行する。記録したものは映画と書籍にして発表する計画だ。浅かったり、狭かったり、波が砕ける沿岸だったり、つまり通常の船では入りにくい海域でもカヤックは進めるので、新たな視点での取材や撮影も期待できそうだ。
瀬戸内の夕暮れ。シーカヤックは私たちを絶景に連れて行く。
瀬戸内海の魅力的で大切な姿と、人々の記憶を未来の世代に届ける。そんなシーカヤッカーたちの試みに興味を持ったり、応援しようかな、という人は、以下のサイトにアクセスしてほしい。航海の様子も随時アップされている。
瀬戸内カヤック横断隊・クラウドファンディングサイト
鳴門海峡を漕ぐ第21次瀬戸内カヤック横断隊(画像/瀬戸内カヤック横断隊)。
この記事のきっかけは、パタゴニア広島店を訪れたときにスタッフの田守悠人さんに出会ったこと。彼は瀬戸内カヤック横断隊のメンバーでもある。店で声をかければ、第21次瀬戸内カヤック横断隊について語ってくれます。
田守悠人さん