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“ありのまま”を楽しむ離島キャンプの魅力──宮古島、Y’sガーデン狩俣キャンプ場
2023.12.19 Tue
宮川 哲 編集者
MIYAKO ISLAND ROCK FESTIVALのキャンプサイトは、イベント開催時の限定的なもの。とはいえ、宮古島の自然を身近に感じられるこの魅力と醍醐味は、一過性で終わらせてしまうべきではない。テントの布一枚を通して南国の息吹を生で感じられるあの感覚は、やはりキャンプ泊でしか味わうことはできない。もちろん、リゾートでいいホテルに泊まるのも宮古島の楽しみ方ではあるが、自然豊かな宮古島だからこそ、ここでしかできないキャンプにもトライして欲しい。
2014年ころの佐和田の浜キャンプ指定地での様子。伊良部大橋が架かる前の佐和田の浜の夕暮れは、静寂に包まれていた
宮古島にはとっておきのキャンプ場がある。島の北方、狩俣の集落にあるY’sガーデン狩俣キャンプ場だ。宮古島には、かつてはいくつかキャンプのできる場所があった。観光客に人気の高い前浜ビーチや伊良部島の佐和田の浜のキャンプ指定地などが以前は整備されていたが、リゾート開発の影響もあるのか、いまではキャンプ目的で訪れる人はほぼいなくなっている。そういった意味では、Y’sガーデン狩俣キャンプ場は貴重な存在で、数少ない営業キャンプ場のひとつである。
Y'sガーデン狩俣キャンプ場の海辺のサイト。ランドマークともなっているモンパの木は、新里さんがみずから植えたもの。奥に見えているのが、大神島だ。キャンプサイトからは海岸に降りることもできる。打ち寄せるゴミは、ボランティアの力を借りて、定期的に清掃作業をしている
──やっぱり、利用者の多くは都会の人たちだよ。
そう語ってくれたのは、Y’sガーデン狩俣キャンプ場の新里好広さんだ。もともと狩俣の出身で、いまから14、5年前くらいからこの地のキャンプ場の整備を始めたという。それも、たったひとりでコツコツと。じつはキャンプにはさほどの興味もなかったものの、ゆったりと自分のペースでできる仕事をしたかった。
新里好広さんは、御歳65。50歳のころからたったひとりでキャンプ場の整備をはじめ、現在のかたちにつくりあげていった。海岸のモンパの木もそうだが、モモタマナやヤシの木など、地元の樹木にこだわって場所づくりをしている。「やっぱり10mくらいの大きな木がないと、キャンプ場らしくないでしょ」と語る
Y’sガーデンという名前は、ご自身のイニシャルのYSと、事業を始めるきっかけとなったご兄弟の名前が元になっている。YSキャンプ場という名前でもよかったのだが、ピンと来るものがなく、Y’sとした。さらにY’sガーデンとして、これを自身で立ち上げた会社名としている。キャンプ場には宮古島の地名を入れたかったので、Y’sガーデン狩俣キャンプ場となった。
やり始めたころは、大きなビジョンがあったわけでもなかった。ユンボを使って少しずつ、整備を始めて、この土地に生えている木を植えたり、芝生を広げたり。こうやってキャンプ場としてやり始めたが、当初は宣伝やら告知といったことは一切やっていなかった。そのうちに、口コミなんかで人が来るようになってくる……。
──でも、ひとりでやっているから大きく広がっていくこともない。ただ、このキャンプ場が好きになってくれた人たちもいるのは事実。実際に東京のデイズキャンプという企業のオーナーが、ぼくがひとりでキャンプ場をやっているのを見聞きして、訪ねてきたんです。
そうして、いまではデイズキャンプのメンバーがひとり、常駐してくれるまでになった。それで、ホームページを整え、レンタルテントを始めたり、誘客につながることをやり始めた。
Y'sガーデン狩俣キャンプ場には、地元の人たちも足繁く通ってくる。海岸の掃除や草刈りなどもボランティアで手伝ってくれている。これも、地元を思う新里さんの人柄や考えに共感してのもの。左から山口さん、國仲さん、永井さん。永井さんはデイズキャンプのメンバーで、茨城からの移住組だ
──いま、デイズキャンプとは協力関係にあって、彼らもここをベースに事業を始めてもらえばいいんですよ。これからです。やっとキャンプ場らしくなってきて。事業として考えるなら、ここからがスタート。さて、どうやって客を呼ぶかってことだよね。地元の人はキャンプをしないから。沖縄はBBQですよ、ビーチパーティですよね。だから、東京の人を呼ばないとね。いまでも利用者の多くは都会の人だけど、都市近郊の仕事に疲れた人たちがここで、宮古島らしいのんびりとしたキャンプを楽しんでもらえればとは思いますね。
新里さんはこう語っているが、このキャンプ場はまだ完成しているわけではない。曰く、図面のない仕事なわけだから、いつまでに何かをつくらなきゃならないわけじゃないという。
──自分でももうストレスになるようなことは一切やらないって決めてるからね(笑)。そういう意味では、ライフワークですよね。海岸のサイトの草刈りなんかもしながら、好き勝手に絵が描けるわけだから、これは贅沢な遊びなわけ。何のためのキャンプ場なのかといわれれば、それはもう地元のため。島が少しでも元気になればいいと思って始めているし、地域の活性化だよね。
ただ、ここ数年で宮古島は目まぐるしく変わっている。だからこそ、宮古のいいところをしっかりと残しておきたいと願う。宮古の自然。そして海。あるがままの宮古島というか、自然のままの宮古を楽しんでもらいたいと思う。だから、敢えて海岸のサイトにはトイレやらシャワーなんかを設置するのをやめにしている。不便だけど、そのほうがいいと思う人もいるんじゃないかと。便利なほうがよければ、上のサイトを使えばいい。陸側のサイトには、トイレもあるしBBQができる小屋もある。コテージだってある。
キャンプ場でレンタルできるのは、ノルディスクのテントなどキャンプ用具一式。BBQが楽しめる大きな屋根付きのスペースもあるので、手ぶらでキャンプも可能である
──海岸のサイトから大神島を眺めてみてよ。もうこれほど完璧な宮古の風景はないよね。大神島に宮古の海、そこにテントを張って眠ることができるんだから、これは他では体験できないでしょう。
狩俣の集落からは、大神島がいつも見えている。この島へ渡るには、近くの島尻の港から連絡船を利用する。左は大神島の遠見台から見た宮古島、狩俣。右は、島尻にあるマングローブの森。キャンプ場の周辺にはさまざまな見どころも多い
離島でのキャンプは、少しハードルが高いと思う人もいるかもしれない。たとえば、自分でキャンプ用具一式を担いでいかなければならなかったり、飛行機に乗れば燃料や食材なども到着してからの準備が必要になる。水はどうすればいい? でも、そんなことも楽しみのひとつに変えられるなら、ここでしか出会えない場所で、自分だけの空間で特別な時間を過ごすことができる。
……というのは建前で、Y’sガーデン狩俣キャンプ場には、テントなどを借りられるシステムもある。もちろん、それを利用してみるのもいい。ハードルが高いなら、低いところから飛び越えればいいだけだ。まずは、この海岸に自分でテントを立ててみることだ。
便利すぎるこの世の中で、敢えて不便を楽しむ心の余裕があるのなら、この特別なサイトで一夜を過ごしてみて欲しい。得られるものはより大きく、それは生きていることの実感へとつながっていくはずだから。
新里さんが手植えしたモモタマナの木
Y'sガーデン狩俣キャンプ場
沖縄県宮古島市平良狩俣1713-1
090-7587-8031
ソロキャンプ/2,200円〜、フリーサイト/3,300円〜
ゲストルーム②素泊まり/1室8,250円〜
BBQ施設利用料/1人につき550円〜
*レンタルセットあり
通年営業/定休日なし
check in/out
キャンプサイト 11:00/11:00
ゲストルーム 15:00/10:00