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貴重になってしまった「遠浅の海」。そこで遊びながら、SDGsの実現を考えてみる。

2021.08.27 Fri

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

 日本でめずらしくなったもののひとつに遠浅の海がある。

 それが形成されやすいのは内海など穏やかな海域だが、日本最大の内海・瀬戸内海沿岸の住人でさえ、遠浅の海を身近に感じることは少なくなった。自然のままの海岸線が36.7%しか残っていない瀬戸内海では、もはや遠浅の海をイメージできない人もいるようだ。
沖でもこの浅さ。
 たとえば、「遠浅の海はどれだけ遠浅か?」とか。

 わが家から徒歩10分(四国の香川県西海岸)の浜の場合、満潮を過ぎ、潮が引きはじめて約1時間後だと、波打ち際から沖に200m泳いでも水深は股ぐらい。400m先の島まで、満潮時以外なら泳がなくていい海域もある。深くても大人の肩ぐらいの海中を歩けばいいのだ。

 干満の差が大きい瀬戸内海では、これが遠浅の海のスタンダードである。

砂浜に残る波模様「砂漣」は、ここが海底だったあかし。
 いま、国際社会ではSDGs——持続可能でよりよい世界を2030年までにめざす——の取り組みが始まっている。じつは、遠浅の海はSDGsの実現に欠かせないピースのひとつ。そのわけを、「遠浅の海のあたりまえ」でひも解いていこう。

 
予備知識がなくても気づける「遠浅の海」のあれこれ

1.景色が変わる
 月の引力のため、海は満ち引きを繰り返す。つまり、遠浅の海では風景が一変。そこでは、海中が欠かせない生き物だけでなく、砂浜が必要な生き物も育まれる。遠浅の海は多様な生態系にひと役買っている。
満潮。上と同じ場所の干潮。

2.清き川が流れる
 潮が引いて出現する砂浜には、幾筋もの川ができる。その澄んだ流れをたどれば、源流は満潮ラインあたりの斜面。地中の伏流水や、満潮時の海底に染み込んだ海水が、砂の中で濾過され、海に注ぎ込むのだ。
砂浜に川が出現する。しみ出した透明な水が海へ。
 砂浜の川は、小さな生き物のゆりかご。各種ハゼの幼魚や巻貝、ワタリガニの子ども(甲羅の長辺2cmぐらい)などを、浅い流れにたくさん見つけることができる。

 そして、それで腹を満たす鳥も集まってくる。
砂浜の川にて。コサギが軽快なステップでハゼを獲る。

3.砂団子がたくさん
 干潮のときに現れる砂浜はカニの王国。スナガニやコメツキガニが砂地の穴から這い出してくる。

 このときの彼らの仕事はおもに「砂喰い」だ。口周りの脚で砂を口に運び、砂から漉しとった有機物を消化器官へ。そして、砂のほうは吐き出しながら団子状にして、砂浜に並べていく。彼らの食事は、砂に過剰な有機物がたまるのを防いでいる。
スナガニがつくった砂団子(大きい方)。小さな粒はコメツキガニの砂団子。スナガニ。

4.ゴミもたくさん
 海が遠浅になるのは砂がたまりやすい場所だから。つまり、ゴミも溜まりやすい。

 不快な光景だが、ゴミが海を漂いつづけるよりはずっとまし。拾い集めれば、ゴミ製造者としての責任を少しは果たせるだろう。

 遠浅の海にはいろんな循環がある。干拓や埋め立てでそれが断ち切られると、多様性は失われ、砂をきれいにするカニはいなくなり、海水は濾過されない。そして、打ち上げられたゴミを見ることもない。
瀬戸内の遠浅の海はSUP初心者にやさしい。落ちても水深は膝だ。

遠浅の海を通じて、SDGsを監視する

 よりよい世界を実現しようと、人権、平等、平和、環境などについて17の目標を掲げているSDGs。その目標には「海の豊かさを守る」もある。

 では、具体的になにを守り、なぜ守るのか? 遠浅の海を体感すれば答えは明快だ。

 守るべき豊かさは一目瞭然。なぜ守るのかについても、「生物多様性を~」なんて四角四面な答えを探さなくていい。遠浅の海に来て、SUPで滑るように進んだり、裸足で砂地を走ればOK。もうあなたは、海を放っておけないはずだ。

 そして、遠浅の海が「踏み絵」であることにも気づくだろう。「SDGsに取り組んでいます、応援してます!」とアピールしているが、遠浅の海の破壊について口をつぐむ、加担している……となれば、彼らは「フリ」または「分かってない」のだなと。
 


★フィールド情報
 今回、画像で紹介している遠浅の海は、香川県観音寺市の有明浜。白砂の浜が2㎞続き、大潮の干潮時には幅約300mの砂の干潟が出現する。有明浜近くの琴弾公園には乗用車数十台分の無料駐車場あり。市営のキャンプ場(観音寺ファミリーキャンプ場)もある。
有明浜のすぐそばには、江戸時代に築かれた銭型の砂絵(直径約100m!)あり。

 有明浜がある香川県西海岸は遠浅の海の宝庫。観音寺市有明町から三豊市仁尾町までの海岸線約8㎞にわたって、沖まで浅い海が続いている。

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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