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アウトドアライター・ホーボージュン「パックの重さは自由の重さだ」

2015.09.24 Thu

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ホーボージュン

ホーボージュン 全天候型アウトドアライター

アウトドアや登山といった専門誌で
数々のギアに関する記事を執筆する
アウトドアライター・ホーボージュン氏。
自身の旅で20年以上
グレゴリーを使い続けてきたという氏の
パックパックにまつわる
スペシャルエッセイをお届けしたい。

 

パックの重さは、自由の重さだ

 「肩に食い込むパックの重さは、自由の重さなのである」
 1999年8月に出版された雑誌「モノマガジン」に僕はそんな一文を書いた。この一文は2004年に上梓した単行本『実戦主義道具学』にも収録され「自由の重さ」というタイトルを与えられた。エッセイの冒頭はこんな感じだ。

“自分で持てるだけの荷物を背負い、自由気ままに旅をする。
 10代最後の夏のこと。大学受験に失敗し浪人生活をしていた僕はそんなバックパッキングの世界に憧れ、2泊3日のキャンプ旅行にでかけることにした。そして借り物のバックパックにキャンプ道具一式を詰め込むと勇んで八ヶ岳方面へと出かけたのである。しかし夢と現実のギャップはあまりに大きかった。これまでそんな重い荷物を背負ったことのなかった僕は立っているだけで精一杯。登山どころか最寄り駅の階段を上るだけで足がパンパンになった。

 けっきょくその小旅行は最後までショボイもので、自慢できるような冒険談も期待していたような出会いもなく、ただただ小諸や浅間近辺の高原をほっつき歩き、人気のない河原や空き地にテントを張って自炊をするだけで終わった。その頃大流行していたペンション泊の学生グループと比べると、僕の格好は仰々しくてスマートさにかけ、なんとなく観光スポットからも逃げて回った。ただ、帰りの電車で突然わき出した気持ちは、今でもはっきりと覚えている。

 終電間際の西武新宿線はすごく込んでいて、仕事帰りのサラリーマンや酔客が、つまらなそうな顔を緑の蛍光灯に照らされていた。いつもの東京のいつもの光景だ。僕は吊り革につかまってぼんやり窓の外を眺めていたのだが、前に座っていたおっさんが僕に「ずいぶん重そうなザックだねぇ。俺の前に置いていいから、荷物下ろして楽になりなよ」と声をかけてくれたのである。

 この時僕はハッとした。というのは、荷物のことなどぜんぜん忘れていたものだから。僕はすっかりその重みに慣れていた。いつの間にか僕の身体は旅人の身体になっていたのだ。

 僕はおっさんの申し出を断った。大丈夫です、もうすぐですから、と。なにもおっさんの酒臭い息が気に入らなかったわけではない。その時になって急に背中の荷物が愛おしくなったのだ。街に帰り、手ぶらだけどなんだかとても重そうな顔をしている人たちを見て、僕は気づいたのだ。
 
 パックの重さは自由の重さなのだ、と。

 背中に背負っている道具一式があれば、僕はどこでも暮すことができる。今ここで電車を下ろされたっていい。どこにだって僕は行ける。そう思うと、肩に食い込むパックの重さをもう少しだけ味わっていたくなった。そして結局、僕はそういった旅が好きになっていった。”

 いま読み返すとずいぶん気障な文章だけど、あの時胸に沸き起こった感情は30年経ついまもありありと思い出せる。そして僕はあいかわらずバックパックを背負って世界各地を歩き回っている。

パックに合わせて装備を厳選するように

 若い頃は大きくてゴツいパックを使っていたが、10年ほど前からはグレゴリーの「トリコニ60」という中型モデルを使うようになった。この60ℓという容量は長期縦走や海外での単独バックパッキングには決してじゅうぶんとは言えない。とくに撮影機材を持ち歩くとなると相当キツイ。でも僕はコイツに入らない荷物はキッパリ置いていくことにしたのだ。

 こうして覚悟を決めるといろんなことがクリアになった。「あれば便利」なんてくだらないモノはまず持たなくなる。「絶対に必要」であることはもちろんだが、それだけじゃまだダメだ。どんな状況でも使える「適応性」やいろんなことに使える「汎用性」も備えていないと許可は出せない。審美眼が厳しくなった。

 たとえばそういう目線で選んだ装備にパタゴニアの『ダウンセーター』がある。極薄のダウンジャケットで、フリース代わりにインナーに着ることも、アウタージャケットにすることもできる。そしてそのまま着て寝れば、シュラフの保温力アップにもなるから、シュラフをこれまでより薄いタイプにでき、トータルで荷物が減る。

 トリコニで旅をするようになってからこういう工夫をするようになった。装備が洗練され、無駄が減った。創意工夫し、つねに智恵を絞るようになった。いま僕はパッキングのたびに自分にこう言い聞かせている。
「よけいな荷物をパックに詰めた分、自由の取り分は目減りするんだぞ」と。

バルトロ65はグレゴリー史上ベストだ

 さて。2006年から2回も買い直し、10年近く使い続けてきたトリコニだったが、酷使に次ぐ酷使でボロボロになってしまった。何度も修理に出し、最後はボトムの張り替えまでしてもらった。でももうさすがに寿命である。そこで今年の春とうとうパックを買い換えた。新しい相棒に選んだのは今年リニューアルしたばかりの『バルトロ65』である。

 結論から言ってしまうとバルトロはかなりいい。いや、抜群にいい。僕は初めて背負った初日からベタ惚れしてしまった。

 なにより気に入ったのが、柔らかいのに芯がしっかりした背負い心地だ。とくに15kgから18kg程度の荷物(テント泊縦走登山用のフル装備だ)を入れた時の荷重分散とバランスは最高レベル。背中に感じるフィーリングはかつてのトリコニによく似ているが、ランバーサポートが加わったことや背面パッドを中抜きしたことで、これまで以上にフィット感が向上した。グレゴリーの大型モデルは伝統的にカチッとした背負い心地が特長だったが、新型バルトロはフレームのフレックスが柔らかいこともあり、身体に優しくしなやかになった。個人的には歴代のグレゴリーの中でも最高の背負い心地だと思っている。

 さらにハーネスの動きが絶妙だ。左右のショルダーハーネスとヒップベルトが独立して動くようになっていて、歩行や登攀の動きに追従してハーネスが動くから、荷重が常にセンターに保たれる。このフレキシブルさとそれによって生まれるバランス感は他ブランドには真似のできないものだ。

 細部もよく作り込まれている。とくに感心したのは給水用のリザーバータンクを入れるポケットが、アタックザックに変身すること。ベースキャンプからハイキングに出かけたり、バックパッキング旅行の時に買い出しや町歩きに使うのに重宝する。

 また正面に逆U時型のジッパーが備わっていて、ダッフルバッグのように大きく開口できるのもよかった。狭いテントの中で荷物の整理をするのにこれがとても便利なのだ。

 ほかにも正面ポケットに内蔵された専用レインカバーや、左右2気室になった天蓋ポケット、不要なときには取り外せるボトムのストラップ、カメラやスマホを安心して入れておける防水構造のウエストポケットなど気の利いた工夫が満載。グレゴリーが長年トレイルで培った経験がいい形で結実している。

 もう20年近くグレゴリーを使っているが、正直いうと最近は心を突き動かすモデルがなかった。Zシリーズもコンツアーもよくできていたが、僕にとっての“唯一無二”にはならなかった。ここ数年のケミカルなカラーリングも僕の好みじゃなかった。(もしかしたら僕のトリコニへの偏愛が強すぎたのかも知れない)。

 しかし今度のバルトロはそれを打ち破った。ど真ん中ストレートに入ってきて、がっつりと僕を捕らえてしまったのである。こんなバックパックに出会うのは久しぶりだ。そのことに僕は驚き、喜んでいる。

 これから何年間こいつが僕の相棒を務めてくれるのかわからない。でもなんとなく今度も長い付き合いになる気がしている。

(文=ホーボージュン)


GREGORY/バルトロ65

¥38,880
■トルソーサイズ:S、M、L
■容量:S=61㍑、M=65㍑、L=69㍑
■重さ:S=2.2kg、M=2.3kg、L=2.36kg
■最大積載重量:22.7kg
■カラー:ネイビーブルー(写真)、スパークレッド、シャドーブラック


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