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そのバックパック10年以上使えますか? マックパックが丈夫なパックを作る理由

2017.05.09 Tue

ニュージーランドにあるマックパック(macpac)の直営店。本国ではウェアからテントまでラインアップしたトータルブランドだ。

 十年一昔。最近は10年どころか5年、3年くらいの周期で変化を遂げている気がする。ふと、10年使っているもはあるかと、身のまわりに目を向けてみる。

「あった」

 マックパックのウエストバッグだ。使いはじめてからかれこれ11年が経つ。表面の色は多少褪せた感じはあるものの、買ったときとほぼ変わらない使い心地で所有するバッグのなかでも登板回数は群を抜く。

 このウエストバッグにはAZTEC®(アズテック)というマックパックが独自に研究・開発した素材が使われている。摩耗に強い綿と腐食に強いポリエステルを混紡した、いわばイイトコドリの糸で織られた耐久性の高いハイブリット素材だ。

 アズテック最大の特長は、ポリウレタンコーティングがされていないことだろう。もし、いまバックパックなどナイロンやポリエステル製のものを持っていたら、生地の裏側を見てみよう。少し光沢がないだろうか。それがポリウレタンコーティングだ。アウトドアギアに限らず、多くの製品が耐水性を高めるためにこのような加工を施している。

コーティングが剥がれている状態。見た目ではわからないがベタベタと粘着性が出ることもある。写真では伝わらないがとても臭う。©naomi.s

 しかし、このコーティングは年数が経つと、ポリウレタンが水分と反応して剥がれてしまう。しばらく使っていなかったジャケットやバックパックを引っ張り出したら、シワシワにへたって変な臭い(なんともいえない悪臭がする)がした! という経験がある人もいるだろう。これは加水分解といわれていて、スニーカーの靴底がベロンと剥がれるのと同じ分解反応だ。経年劣化は保管状態にもよるが、湿気はなによりの天敵でもある。

 マックパックが生まれたニュージーランドは年間を通して降水量が多い。日本と同じく海に囲まれ、自然は多様に満ち、さまざまなアウトドアアクティビティが盛ん。

 なかでもトランピング(いわゆるトレッキングのこと)は日本の山岳縦走とはひと味違う。さまざまなルートがあるが、アップダウンを繰り返し、徒渉も多い。自然のままのとてもワイルドな道のりだ。そうした環境を乗り切るにはタフなギアが欠かせない。一度、ニュージーランドを歩けば、なぜアズテックが生まれたのかがすぐに分かる。多湿の日本でもアズテックは優位だ。なにせ加水分解の心配がない。

このような雰囲気の場所が多い、ニュージーランドのトレッキングルート。オレンジのマーキングが行き先を示している。©naomi.s

 アズテックは耐水性を生み出すために、生地を高密度に織りあげ、さらに特殊配合されたワックスに浸している。そんな手の込んだ製法を選ぶのは、ニュージーランドのハードな自然環境に耐えうる丈夫なバックパックを生み出すのはもちろん、なにより長く愛用してもらうためだ。壊れたら可能な限り修理を受け続ける。物を売って利益を上げるメーカーならば、新しいものを購入して欲しいところだろう。でも、そこが設立当初から自然環境への取り組みを続けるマックパックらしさでもある。

 そして、使い続けてもらうには単にタフなだけでは難しい。本来の機能を果たせなくなっての引退ならまだしも、新入りにその座を奪われることもある。丈夫であること、さらに飽きられないデザインであることが重要にも思う。

 山岳やアウトドアを生業としている人たちのなかには、マックパック愛用者が多い。自然のなかに身を置くことが多い分、悪天候に見舞われることもしばしば。それゆえに誰もがそのタフな使い心地に満足しているようだ。長年愛用している方々にその魅力を聞いてみた。


岡野朋之さん(フォトグラファー)  カスケード75
使い込まれたカスケードと岡野さん。山中でのロケのときは、こんなスタイルでいつも行くという。

 数々の山岳雑誌をはじめアウトドアのメディアで活躍する岡野朋之さん。フリーランスフォトグラファーとして20年以上、大自然を撮り続けている。アウトドア好きなら一度は岡野さんの写真を見たことがあるはず。縦走ロケも数多くこなしている岡野さんの愛用は、カスケード75。使用歴は約8年だ。

おかの・ともゆき 1968年兵庫県生まれ。フォトグラファー。大学卒業してすぐにフォトグラファーへの道も考えたが、3年間のサラリーマン生活をへて、その後上京。2年間夜間の写真学校に通う。卒業と同時にフリーランスに。自然を撮りたいと写真をアウトドア雑誌に持ち込み、キャリアがスタート。出版社やライターからの信頼も厚く、各誌で活躍している。http://okanotomoyuki.net/

「南アルプス全山(11日かけて一気に!)、立山から笠ヶ岳、大峯の奥駈道、八ヶ岳……いろいろ行きました。いちばんの魅力は耐久性です。前に使っていたものはここまで持ちませんでしたね。なにより撮影のときに、バックパックに気を使わなくていいので。決して雑に扱うわけではないですが、ポーンと置いて撮影に集中できます」

 縦走ロケとなると、カメラ機材、個人装備、食料などを含めるとかなりの重量になる。

いかに重いものを背負っているのかを感じさせる。荷重がかかる腰の部分にはほころびが。

たくさんの紫外線をあびてだいぶ色も褪せてきているが、表面はしっかりしている。

「カメラ機材は、レンズが5本にボディが2台。トータルで30キロオーバーになります。荷物がとにかく重くなるので、フィッティングもよくないとダメで。その点ではカスケードは自分によく合っています。あとは三脚を外付けするので、ザックカバーが付けにくい……。だからアズテックの耐水性もいいですね」

 岡野さんはかつてニュージーランドの南島を2ヶ月かけて自転車旅をした経験がある。

「昔、2ヶ月ほど南島を自転車旅しました。クライストチャーチから南下して西海岸を周り、ウェリントンへ。その旅ではカメラの面白さも知ることができて。次の年も行ってカヤックやトランピングもしました。当時はマックパックを知らなかったけれど(笑)」

ただボロいだけだよ〜と岡野さんは笑っていたが、ここまで使い込むと味としかいいようがない。

 岡野さんがマックパックに惹かれた理由のひとつには、そんなニュージーランドの思い出旅もあった。


長谷部雅一さん(アウトドアプロデューサー)  ウェカ20
長谷部さんのお仕事スタイル。いつでもフィールドに行けるスタイルだ。

 長谷部雅一さんは、さまざまな野外自然プログラムを企画運営しているアウトドアプロデューサー。企業や自治体と仕事をすることもあれば、子どもたちを連れて自然のなかへ行くこともある。デスクワークからフィールドワークまで、多岐にわたる活動を支えているのは、ウェカ20。使いはじめて10年以上になるという。

はせべ・まさかず 1977年生まれ。埼玉県出身。アウトドアプロデューサー。Be-Nature Schoolのスタッフでもある。自然に関わるプロジェクトの企画やコーディネート、研修講師、幼稚園や保育園のコンサル業務にも携わる。雑誌『DIME』などに連載も持ち執筆業も行う。著書に『ネイチャーエデュケーション』(ミクニ出版)があり、『自作キャンプアイテム教本』(ブティック社)が6月に出版予定。

「マックパックをはじめて知ったのは、南米チリです。大学を卒業してすぐ出かけた世界一周の旅の最中でした。アコンカグアに来ていた遠征隊が持っていたんです。壊れなくていいんだよ、と教えてくれました」

 その後帰国し、数年後にショップで見かけて買ったのが、このウェカ20。他にも縦走のときには大型パックのカスケードも愛用している。

「ウェカはおもに日常使いしています。仕事柄、打ち合わせなどをしてそのままフィールドを見に行くというシチュエーションが多くて。なにかと荷物も重いほうなのでいつもバックパックなんです。これはフロントがガバッと開くところが気に入っています」

ショルダーハーネス表面のテカリ具合が愛用している証拠。白いストラップはもともと薄グレーだった。

ランドセルのように大きく開くフロント。この使いやすいデザインも気に入っているという。

「ウェカのあとに買ったデイパックもあったのですが、すでに引退しています(笑)。引退しても思い出があるものは大切にタンスにしまってあって。でも、もう実用には耐えられないんですよね。その点、ウェカはいつまでも生地にハリがあって、汚れたら洗濯機でガラガラ洗える。縫い目のほつれや生地のけば立ちなどもありません。革靴みたいな存在ですね」

現行モデルのウェカはすっかりリニューアルしているだけに、かつてのモデルは時を感じさせる。

 しみじみとバックパックを眺めて、「そんなに経ったかぁ……」と感慨深い長谷部さんだった。


宮川 哲さん(編集/ライター)  モジュール
イベント現場でお仕事中の宮川さん。身軽でミニマムなスタイルが定番。©naomi.s

 山岳、アウトドア雑誌やAkimama編集部員として活躍するかたわら、長年野外イベント運営・制作にも携わっている宮川 哲さん。キャンプをともなう音楽イベントが多く、会場となるのはキャンプ場やスキー場だ。愛用しているのはモジュール、使いはじめて10年が経つ。

みやかわ・てつ 1971年千葉県生まれ。編集者、ライター。1996年から山と溪谷社で編集の仕事に就く。各雑誌編集を担当したのち独立、フリーランス編集者として雑誌媒体を中心に執筆。その後、ウェブメディアAkimamaを仲間のライターと立ち上げる。執筆業のかたわら各種イベントの制作・運営にも10年以上携わる。著書に『テントで山に登ってみよう』、『入門&ガイド山行』(ともに山と溪谷社)。©naomi.s

「イベントの現場では運営を任されたり、キャンプに慣れていない来場者の相談にのったり、業務はさまざまです。会場内を身軽に動き回るためにも最低限必要なものは、このモジュールに収納。財布、携帯電話、本(待ち時間に読む)、車の鍵などなど。貴重品は肌身離さず持ち歩いています」

 10年ほど前に大型パックのカスケードを購入した際に一緒に手に入れたのがモジュールだ。気がつけばモジュールのほうが出番は多いかもしれないという。

少し色褪せを感じる程度。買ったときと使い心地に変化なし。©naomi.s

非売品のアズテック製ブックカバー。ノベルティとしてもらったもので、とても重宝しているという。©naomi.s
「アズテックは水に強いのがいいですね。野外でのイベントは雨や風、砂ぼこりが立つこともあり、環境的にはハード。とくに雨に強いのがいいですね」

 そしてウエストバックながら7リットルという大容量も気に入っている。

「かなりの容量があるので、貴重品類のほかにレインウエアも入ります。さらにコンパクトなダウンジャケットなどもスッポリ。イベント制作の現場では欠かせない存在になっていますね。山の取材でもサブバックとして使っているので、出かけるときはいつもこれかもしれません」

シンプルながら飽きのこないデザイン。サブバックとして、また野外フェスなどにも活躍しそう。©naomi.s

 こまごましたものを一気室に入れるので、「間仕切りがあったらいいなぁ……」と、少し要望がある宮川さんだが、欠かせないパートナーであることは間違いなさそうだ。


 やっぱり長く使い続けられるのはいい。愛着も湧く。もし壊れても修理すればいい。マックパック本社では世界中からリペア依頼のパックが届いていて、歴代のロゴマークが並んでいる。

 親から子へ。ニュージーランドではそんな風にしてマックパックが受け継がれていると聞く。昨今は電子機器などつねに最新が求められるものもあって目まぐるしい。ものを大切に長く使うこと。大量消費のなかで少し忘れかけていたことを思い出させてくれたように思う。


(文=須藤ナオミ 写真=sumi☆photo)


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