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より心地よく自然と付き合うために。アウトドアライター高橋庄太郎のマムートとの山歩き ー前編ー

2019.09.10 Tue

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター


 本格的な秋を迎えようとしているこれからの時期は、山歩きにはよいタイミングだ。テント泊の重い荷物を背負ってもそれほど汗はかかず、台風の襲来時以外は天気も安定し、悪天候を外して入山できるのがいい。それに、季節の変わり目で新しい山道具を試したくなる時期でもある。

 さて、今回ここでピックアップするのは、今期おもしろい製品がいくつもそろったマムートの、バックパックとシューズ。南アルプスの鳳凰三山を舞台に、テント泊でテスト山行を行なった。

 お供となるバックパックは、「トリオンスパイン50」だ。テント泊装備を一式という重い荷物に耐えうる構造を持ち、体に負担を与えないものであってほしい。

 足元は「デュカンミッドGTX」である。花崗岩主体の鳳凰三山の稜線には荒々しい巨石や奇岩が並んでいるが、表面がザラついているので、どんなシューズでも滑りにくいのが実際のところ。むしろシューズの真価が試されるのは、稜線に至るまでの樹林帯だ。滑りやすい泥や木の根が連続し、ときには濡れた沢の石の上を歩かねばならないからである。このシューズはどうだろうか?

 では、それらを特徴を簡単に説明しておこう。「トリオンスパイン50」。容量:50ℓ、重量:2,200g。ほかに容量35ℓと75ℓも用意されている。

「デュカンミッドGTX」。サイズ:UK6.5~10.5、重量:520g(UK8.5)。ほかにハイカットやローカット、足首まわりをニットにしたタイプなどもそろう。

 トリオンスパイン50の最大の特徴は、特許を取得した「Mammut Active Spine Technology」というサスペンションシステムだ。バックパック本体とヒップハーネスがピボットで連動し、柔軟に体の動きに追従するため、歩行中の体に負担がかかりにくいのである。また、背面長が瞬間的に変えられる工夫も斬新だ。

 一方、デュカンミッドGTXの売りは、「Mammut Flextron Technology」。ミッドソール部分にスプリング型(波型)スチール製のシャンクを内蔵し、踏み込む圧力を足裏全体へと拡散してグリップ力を高め、歩行中の足のゆがみを防ぎつつ、前方への推進力を増してくれるという仕組みである。ただし、これはブーツを分解しない限り見ることができないパーツで、ここでは披露できないのが残念だ。

出発前に、トリオンスパイン50のフィット感を微調整。体にしっかり合わせなければ、試してみる意味がない。デュカンミッドGTXのシューレースを締め上げる。シューレースを通す部分はあえて左右を少しずらしてあり、そのためにいったん締めるとフィット感が長くキープされる。出発は青木鉱泉。この日はほぼ無風で、じつに蒸し暑かった。途中にはいくつかの沢や滝があり、飲み水を補給できるのが、このルートのよいところだ。

 登山口から歩き始めた僕が早速感じたのは、デュカンミッドGTXのフィット感のよさだ。一般的なブーツならば、アッパーで足首を左右から挟み込み、その間にタンを合わせて筒形にするのが普通だが、デュカンミッドGTXはタンを省き、その代わりに渦巻のような構造のアッパーで足首を巻き込むようにフィットさせるのがおもしろい。はじめはタンの代わりに足首の正面に当たることになるアッパーが硬いようにも思われたが、いくらか歩いているうちに違和感はなくなり、ただただ好調だ。一般的なブーツのようにタンの位置がずれることもなく、ストレスがない。よくできているのである。
こんな構造なら、足首の太さに関わらず、誰もが良好なフィット感を得られる。近年、このような構造のシューズが増えているもの道理である。透湿防水素材のゴアテックスが使用され、アッパーの表面は透湿性を妨げないニット素材で覆われている。このニット素材は目が粗いために岩の突起に引っかかりやすく、耐久性が心配だが、今回の1泊2日の山行では傷みは見られなかった。

 登山道は勾配がキツかったが、前方への蹴りだしもスムーズ。ブーツ内の見えないところで、波型のシャンクが効果的に働いているのだろう。ソールのパターンも、サイドへのスリップを抑えるということ以上に、前進性を高めるようなデザインだ。とはいえ、随所に現れた傾斜地や沢でもとくにスリップするようなこともなく、グリップ力は問題なさそうである。
ソールのパターンは、このような感じ。前進するときに多くの土をつかめるように突起が配置されている。インソールの真下にスチールを内蔵しているために、思いっきり力を入れて左右にひねっても、ブーツの形状は変わりにくい。これが歩行中の安定感を生み出す。水で濡れた沢の石の上でもスリップしにくい。とはいえ、苔むした石の上ではさすがに滑るので、過信は禁物だ。実際に歩いてみて気付いたのは、ソールに土がこびり付きにくいこと。ソールの突起が密ではないことに加え、ソールが柔軟に曲がるため、一度ついた土もすぐに落ちてしまうようだ。こちらは2日目の稜線でのカット。花崗岩のように粒子が粗い岩の上ではグリップ力が最大限に発揮され、急勾配の場所でも不安がない。ソールの摩耗は激しそうではあるが。

 バックパックの実力は、ある程度の時間、背負ってみないとわからない。とくにたっぷりとモノを収納できる大型タイプは、荷物の重さで体が疲れてくるときにこそ、真の性能が発揮される。その大前提として、正しくフィッティングされていることが重要だ。今回は出発前に厳密にフィッティングを行なっておいたこともあり、登り一辺倒の登山道を数時間歩いても腰や肩が痛くはならなかった。
バックパックの背負い心地を確認するために、わざわざ登りにくい場所を歩くことも。体を大きく動かしてみるほど、バックパックのフィッティングの善し悪しが判断できる。背面長はMからXLの3段階で調整可能。左が背面長が最長で、右が最短。その差は5㎝ほどだ。メッシュ部分が伸縮するため、背面に段差が生まれることがなく、異物感がない。背面長の調整は、背面パッド中央のつまみを引くだけ。メッシュ部分の伸縮性により、つまみを引いてロックが外れると、瞬間的に背面が短くなる。パッドとメッシュを組み合わせた背面は通気性も良好。背中に涼しい風が吹き抜ける。

 新しいサスペンションシステムである「Mammut Active Spine Technology」の働き具合も、歩いているうちに理解できた。歩行中に体を大きく揺らしたときでもヒップハーネスは腰骨の上に固定されたままで、上半身を負担なく動かせるのがすばらしい。荷重は腰骨の上にキープされ、肩や背中に強い力がかかることはないのである。今回はテント泊装備と食料や水などで荷重は15㎏ほどになったが、僕が前から使っている愛用品と同様の安心感があり、急登や難路でも体に負荷がかかりにくい構造なのである。
これだけ体を傾けても、荷重は腰骨の上にかかったまま。背負い心地はなかなかのものである。大きく可動するヒップハーネス。腰の裏に当たる部分にピボットがあり、このような回転運動を生み出す。

「Active Spine Technology」の効果はよくわかった。だが、少しだけ気になったのは、体の動かし方によっては、ピボットの軸の部分からときどきかすかに音がすること。体を動かすたびに小刻みに回転する部分だけにパーツが擦れて音が生じるようだが、こういう点が気になる方は店頭でチェックしておいたほうがいいだろう。

 その後、僕は順調に標高を稼いでいった。途中には南精進ヶ滝、白糸の滝、五色滝などの見ごたえある名所が点在し、歩いていて飽きない。水景色が好きな人には強くお勧めしたい好ルートなのである。その後、登山道は樹林帯から涸れ沢に入り、宿泊予定の鳳凰小屋に到着した。
青木鉱泉から鳳凰小屋に向かうルートには滝が多いのが特徴だ。なかには滝壺まで下りられる場所もある。稜線から一段下の場所にある鳳凰小屋。周囲には緑が多く、落ち着いて過ごせる。テント場は小屋の裏だ。

 僕はテント場に向かい、荷物を広げた。トリオンスパイン50はフロントが大きく開くようになっており、内部のギア類を一気に取り出せる。山以外に、旅行でも便利そうである。
開口部は非常に大きく、パッキングの際に奥底に入れたものでさえ、すぐに取り出せる。ただし、ファスナーの部分は止水ファスナーではないので、パックカバーは必携だ。アルパイン要素が強いスリムなフォルムのパックなので、サイドポケットはなく、代わりにスキーなどを取り付けられる仕様になっている。ボトルなどを取り出しやすい位置に収納したい方は、別途、各種アクセサリー類を併用するとよい。

 ひと段落すると、僕はテントに入って夕食を作った。歩いていたときはとても暑かったのに、陽射しがなくなると一気に気温が下がってくるのは、南アルプスという高山ならでは。僕はダウンジャケットを着こみ、暖かさをキープして夕刻を迎えた……。
テントに寝袋、クッカーに防寒着。キャンプ生活に必要なものすべてが収納できるとは、大型バックパックの収納力は大したものだ。食事を終えると、鳳凰小屋近くにある展望場へ。雲海の中に富士山が浮かんでいた。

 トリオンスパイン50、デュカンミッドGTX。ともに大いに活躍し、南アルプスの山中まで僕と荷物を運んでくれた。バックパックとブーツは、どんなに優れた製品でも、使う人の体にフィットしなければ使いにくいものだが、一度は試してみる価値があるだろう。

 さて、明日はどんな日になるのだろうか? 鳳凰三山の稜線が僕を待っている。

【続く】
 
(写真=飯坂 大)





より心地よく自然と付き合うために。アウトドアライター高橋庄太郎のマムートとの山歩き ー後編ー

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