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可愛い子には笠をかぶせろ。「かさこ児童」が酷暑をサバイブ

2020.08.20 Thu

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

 幼年時代から帽子が苦手だ。

 だいたい、暑さを防ぐためにかぶるものなのに、頭に密着して熱がこもる構造なのがいけない。日差しこそ遮っても、帽子そのものが熱くなるし、布地が頭覆うので汗が乾かず、気化による冷却効果も弱い。

 そんな理屈をこねては帽子を脱ぎ捨て、その度に母親や教師に引っぱたかれ続けたが、大人になった今も私は帽子を疑っている。もうそろそろ、世界を席巻している割にはキャップとハットには実力がないことがバレてもいい頃だ。あいつら、そんなに快適じゃないぞ。

 そして「日差しを遮り、熱がこもらず、汗を気化させる」という機能において、抜群の性能を発揮する道具は帽子のほかにある。東アジア一円で使われてきた「笠」だ。

 笠はいい。広いツバは体ひとつぶんの陰を作る。これは小さな日陰を連れて歩くようなものだ。五徳(鉢まわりを支えるリング状のパーツ)は頭と笠の間に空間を作り、熱を溜めない。タケやスゲなどの自然素材は、日差しに熱せられても熱を放射しづらい(気がする)。風が吹けば空気が髪の間を抜けて頭の熱を発散し、広い陰は、強烈な日差しがどの方向から差しても目を守ってくれる。
 母親や教師たちが私に与えるべきは笠だった。理にかなっている笠なら、私も脱ぎ捨てなかったのに。

 日本でも以前は広く活用されてきた笠だが、どういうわけか現代ではすっかり影が薄くなってしまった。実用品として使っているのは、四国霊場をまわるお遍路くらいだろうか。

 しかし、南西諸島に行けば話は別である。奄美以南の島のホームセンターに入れば、今でも農作業用品のコーナーには笠が売られ、漁師も農家も釣り人もシーカヤッカーも笠をかぶっている。南島の苛烈な日差しは、キャップハット連合の欺瞞を暴き出した。炎暑のもと、本当に活躍できるのは帽子ではなく笠なのだ。

 そんなわけで、いまや沖縄よりも気温が高くなった東京で息子に笠をかぶらせている。かさこ児童である。小柄な彼などは、正午ごろには傘が作る日陰にスポンと体がおさまりなかなか涼しげだ。本人いわく、使用感はすこぶる快適とのこと。先日友人家族と行った防波堤釣りでは、周囲の釣り人が次々と炎暑に脱落するなか、ひとりだけ釣り続けられたと得意であった。

 現代ではなかなか受け入れられにくい見た目ではあるものの、笠の効果は抜群だ。殺人光線が降り注ぐ昨今、笠の復権は近い。見た目より実用性が優先される場面で積極的に取り入れて欲しい。

 アウトドア界で笠の復権がかなったときには―――「笠を流行らせたの、アレ、俺だから」と言って笠をかぶって登場するつもりである(実は私も、人前でかぶるのはまだちょっと恥ずかしい)。

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