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【インタビュー】最初の体験こそ、快適で最高のものに。キッズウェアにこだわるモンベルのこだわりと未来への希望
2023.02.17 Fri
まつだ しなこ 子連れハイカー
「どうやらアウトドアが子どもの成長にいいらしい」というイメージはあるものの、なにからはじめればいいのか、どんな道具から揃えればいいのかわからず、二の足を踏んでいるパパママも多いのではないだろうか。そんなパパママの心強い味方が、話題のキッズ製品を次々と発売しているモンベル(mont-bell)だ。
防寒着やレインウェアといったアウトドア定番ウェアから、抱っこ紐「ポケッタブルベビーキャリア」といった育児グッズまで、その商品の幅はおどろくほど広い。
なぜモンベルはこんなにもパパママの「あったらいいな」を形にできるのか。
自身も3人の子どもの父である代表取締役社長 辰野岳史さんに、子どもたちの将来を見据えたキッズ製品開発へのこだわりを聞かせてもらった。(前編)
子どもの原体験こそ、最高の体験にしたい
── アウトドア市場のなかでは、ベビー/キッズ向け製品のマーケット規模は大きくないのかなと推測しているのですが、モンベルが多様なベビー/キッズ向け製品を開発し続けている理由はなんでしょうか?
モンベルという会社はアウトドア製品をメインにつくっているメーカーですが、基本は「モノづくり」の会社です。われわれがモノづくりの原点として創業当初から大事にしていることに、「自分たちが欲しいモノをつくっていく」ということがあります。マーケットがあるからつくっていく、というのではなく、自分たちがアクティビティをするのに必要だと思ったモノをつくるのがモンベルのやり方なんです。
これだけキッズ製品が増えてきた理由はシンプルで、僕自身も親になって、キッズ製品のアイディアがどんどん出てくるようになった、ということにあります。
もちろん僕が子どものころからモンベルのキッズ製品を使ってアウトドアに連れていってもらってたわけですが、いざ自分が大人になって、親の目線でキッズ製品を見直したときにもっとおもしろくアップデートできるなと思うようになったんです。
── 辰野社長が子どものアウトドアアクティビティに必要だと思ったモノとは?
個々のアイディアはいろいろありますけど、基本は大人と同じ機能のもの、ということですね。ウェアや道具がいいものじゃないと、せっかくのアウトドアがもったいない。
親御さんがいろいろ良かれと思ってアウトドアフィールドに連れ出しても、やっぱりウェアや道具にしっかりとした機能が備わっていないと、子どもにとって快適なアクティビティにならないんですよ。
ウェアが寒くてブルブル震える思い出だけっていうね。その結果、外遊びが嫌いになっちゃう。大人と同じ高機能のものを子どもが使うから、幼児期の原体験として楽しい思い出になると信じています。
── 親の目線でベビー/キッズ製品を考えたときのモノづくりのむずかしさはどこにありますか?
子ども向けだからむずかしいということはないですよ。使う生地が少なくなっただけで、基本は大人の製品と同じ工程でつくりますから。ただ、やはりひとつあるのは「価格が高すぎないこと」ですね。大人だったら5年着ることを考えれば妥当な値段だとしても、子どもはすぐにサイズアウトしちゃうから。
いい生地を使おうと思えば高機能なものはいくらでもある。ただ、ものすごく高機能なゴアテックスが子どもに必要かどうか、と。オーバースペックな素材を使いすぎると値段は高くなるので、その素材に変わるものはなにかないか、というのを工夫します。価格のことをある程度考えながら、最高の素材を探したいと思っています。
大人の趣味に付き合わされている子どもたちですからね。できるだけ買い求めやすい価格で、いい機能のものを提供したいですよね。
自然界での小さな成功体験が、子どもを大きく成長させる
── アウトドアアクティビティは子どもの成長にとってどのような影響があるとお考えでしょうか?
アウトドアフィールドは遊び方が無限だから、子どもの自主性を育てるにはすごくいいんです。自分で遊びを決めて、好きに楽しめる。
たとえば、モンベルアウトドアチャレンジというイベントを以前やってたころのことなんですが。お父さんが息子さんを連れてきて、「子どもに火起こしを教えて、焚き火のリーダーにしてやりたいんだ」と言われたんです。それで朝早くに息子さんを起こして、木の枝集めて火を起こして、お湯を沸かして、ということをやってもらいました。それ以降、その子はすっかり僕の助手みたいになって、ずっと火を見てくれるんですよ。小さな成功体験で、すごく自信がつくんですよね。
自然界で過ごすと、火起こししたり、テントを立てたり、ふだんやらないことに挑戦する機会がたくさんある。だから、小さな成功体験をさせる場所としては、自然のなかは向いているのだと思います。
── 勝ち負けもないから、リラックスして取り組めますね。
「こういう遊び方」っていう決まりもないんですよ。自主的な遊び方は子どもの数だけそれぞれにある。
僕なんかは、子どものころにスキーへ行くと、夜に抜け出して雪の上に寝っ転がったりしたんです。そこで圧倒的な無音の世界を知るわけですよ。日常生活では出会わない感覚です。そういう世界を知っている、ということだけでもひとつの自信になるんだと思います。
いいモノづくりの秘訣は、アウトドアを知り尽くした社員全員のアイディア
── モンベルのベビー/キッズ向け製品は親目線でもうれしい機能が備わっていますが、そのアイディアは辰野社長から生まれるのでしょうか?
僕だけじゃないですよ。モンベルのモノづくりのアイディアは、全社員から集まってきます。
アイディアを形にしていくのは企画部という部署ですが、「こういうものがあったらいいよね」という意見は、常日頃、社員から集まってくるんです。お店のスタッフが、お客さまから教えていただいた気づきを指摘してくれることも大切で。半年に一回の企画会議で企画書が15㎝くらい積み重なることもあります。
アイディアは抽象的なものでも全然よくて、機能や素材といったわれわれのノウハウと出会うことでしっかり形になっていく。アイディアを寄せてくれた社員にサンプル製品を使ってもらい、ブラッシュアップしていくこともあります。
── 社員全員で、モノづくりに関わっているのですね。
そうですね。みんなアウトドアが大好きなので。それぞれの得意とするアクティビティを極めていくと、道具に対しても新しいアイディアが自然と生まれてきます。
たとえば素材と機能の組み合わせ、といった専門的なことが想像できなくても、「こういうシーンでこういう道具が欲しい」というアイディアはものすごくたくさん持っている。そういうアイディアが自然と蓄積される集団がモンベルですね。
「モノではなくコトを売る」モンベルショップの存在意義
── モンベルショップのキッズコーナーは他社製品含め外遊び用のグッズが充実していますね。
だって、おもしろいものをそろえたいじゃないですか(笑)。遊ぶのが大好きなんですよ。だからモンベル商品じゃなくても、おもしろそうなものはショップに並べてしまう。
モンベルは商品を売っている会社ではあるのですが、考え方としては「モノではなく、コトを売っている」って思っていて。
外遊びって人によって楽しみ方がちがうじゃないですか。登山だって、上でご飯つくるのが楽しみだから登る人だっているし。花を見ながら登るのが好きだとか、いろいろありますよね。だから、登山の過程だけじゃなくて、上で楽しむようなおもちゃだって立派なアウトドアギアだなって思っていて。
いろいろな楽しみ方を提案できるのがモンベルのショップなので、そういう意味でモンベルが売っているのが「コト」だと思っています。
── 「買ってもらうこと」ではなく、「楽しんでもらうこと」がゴールなんですね。
お店に来ていただく方って、すごく “想い” をもってきてくれる方が多いんです。たとえば登山をはじめてやるんだとか、これから縦走登山に挑戦するんだとか、夢を持って来られるんですよ。お子さんとアウトドアをはじめたい、という方もそうですね。
僕たちはその方たちの夢をかなえるために商品をご提案していると思っているんです。お客さまのニーズとモンベルの商品が合えば買っていただけるし、なにかマッチしないことがあれば、それは新しいものづくりにつながっていく。それだけですね。
うちのショップのスタッフには売り上げ目標がないんです。売り上げ目標があると、合わない靴でも売ろうとしてしまう。そうすると、山に行って足が痛くなって、もう山に行きたくないってなっちゃう。そうなるくらいだったら、もう他社のメーカーさんの靴でもいいから、ちゃんと合う靴を勧めるべきだと思っています。
そうやってサポートすることでお客さまはアウトドアフィールドをもっと好きになって、それでまたモンベルに帰ってきてくれればうれしいですよね。
── アウトドアアクティビティは、楽しいだけではなくリスクもあると思います。
お客さまの夢をサポートするということには、リスクの説明をすることも含まれると思っています。
いまは情報がかんたんに手に入りますよね。難易度の高い山でも、ネットで装備やルートの情報がかんたんに手に入ってしまう。そういう情報を鵜呑みにしてしまうと、技術やスキルを置き去りにして、この装備があればいける、と思ってしまうところがあります。でも「この道具を買ったら行けます」ということはない。
だから、接客のなかでしっかりお客さまの話を聞いて、リスクの説明を省かないように伝えています。子どもの遊びに関しても同様ですね。「子どもと、こういうアクティビティをしたい」というお客さまに対して、かならず必要な道具といっしょに、リスクについても説明をしています。
── お客さまの描く夢と、現実的な技術や経験度合いのすり合わせをしてくれるのがショップのスタッフなのですね。
アウトドアにはセオリーがないんです。夏と秋はちがうし、東北と関西でもちがう。だから「これがあれば大丈夫」というのはなくて。だから、モンベルはエリアごとの直営店を大事にしています。そのエリアのスタッフが、そのエリアのスタンダードのことをいちばんよく知っていますから。もし近くにショップがあったら、買わずに相談だけでもいいので、スタッフに声をかけてみてくださいね。
辰野岳史・たつのたけし 1976年生まれ。00年モンベル入社、コンシューマ営業部所属、関東の店舗などでの販売経験が長い。その後、バイヤーや教育担当、商品企画に携わり、07年専務、17年9月から社長。
キッズウェアにこだわるモンベルの
こだわりと未来への希望