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【体験レポート】フジロックフェスティバル ゼロ歳児連れ参戦記

2018.10.18 Thu

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

開催日が近づくにつれ
条件反射のようにそわそわしていた

 今年の夏、ゼロ歳児を連れてフジロックフェスティバルに行ってきた。

 ご存知の人も多いと思うが、フジロックフェスティバルとは毎年7月の最終週末に新潟県の苗場で開催される野外フェスティバルのこと。南北に長い山間部の広大な敷地に10を超える大小のステージが設営され、3日間で200組を超える国内外のアーティストが野外ライブを行なう。会期中に苗場を訪れる人は延べ人数で12万人以上。名実ともに日本最大の夏の野外フェスティバルだ。
 
 これまで、1万人近い利用者がいるキャンプサイトを運営する「キャンプよろず相談所」に10年以上携わっていた私は、開催日が近づくにつれ条件反射のようにそわそわしていた。が、もっぱら日々は冬に生まれた赤ん坊と格闘する毎日。妊娠中だった昨年に引き続き「しばらく苗場はお預け」とフジロックを脳内から切り離した夏を過ごそうとしていた。 それが「参加」の方向へ舵を切ったのは、ある関係者のひと言がきっかけだ。

 何度もフジロックに(スタッフという形で)参加している私と、アウトドアの経験値が高い夫となら、ゼロ歳児連れで参加してみてもいいんじゃないか、というのだ。

 なるほど。これまでの参加回数のほか、フジロックの公式フリーマガジンまで作っている私は、確かにフジロックの隅から隅までをくまなく知っている。加えて、夫は国内はもとより、サハラ砂漠からパタゴニア、アラスカの原野など海外の僻地も旅してきた、いわばプロ。チラっとこの件を相談してみたところ、反対されるかと思いきや「いいね~」のひと言で、すでに今年の目玉であるボブ・ディランの出演日程を確認し始めた。

 友人知人に意見を乞うても(アウトドア関係者ゆえか)意外や後押しになる回答が多い。「ゼロ歳児がいる=フジロックはお預け」と杓子定規に思い込んでいたが、これまで散々アウトドアで過ごしておきながら一体何を見てきたんだろうと、我に返る思いだった。

 行ってみてもいいんじゃないか。

 育児という代役のいない重要任務を前にして考えないようにしていたが、じつのところフジロックには本当は行きたかった。フジロックのない夏は、気の抜けたビールくらい味気のない夏だ。日常から切り離された特別な空間、めくるめく音楽の世界、目的を同じくした人たちの熱量、うねるような高揚感……しばらく遠ざかっていたそんなものを欲していた。

「フジロック、行ってもいい?」
 赤ん坊は無垢な瞳をぱちくりしていた。

 完全に大人のワガママかもしれない。が、子ども第一の毎日を送っているのだから、たまには大人が子どもを巻き込んでもいいのではないか。どうにもダメだったら、苗場まで旅行にいったつもりですぐ帰ってくればいい。自分の子どものタフさを信じ、現地では子どもファーストを大前提に、ゼロ歳児を連れて苗場の地を踏むことにしたのである。

 

アウトドアで過ごすための
道具セレクトは入念に

 行くと決めたら話は早かった。

 まず力を入れたのは、会場内での赤ん坊を連れて歩く道具。普段から使い慣れた抱っこ紐(携行サイズが小さく持ち運びに便利なモンベル「ポケッタブルベビーキャリア」)のほか、ベビーカーは芝地から砂利道、ぬかるみといった悪路まで突破できる大きめのタイヤを備えた3輪バギーを用意(知人からレンタル)。さらに、首はしっかり座っていたので、おもに夫が担当する目的でバックパックごと子どもを背負うタイプの「ベビーキャリア」(モンベル)も準備。これは自立するようになっていて、子どもを座らせたまま地面に下ろすことができる。オプションでサンシェイドとレインカバーが取り付けられる全天候型だ。抱っこ紐「ポケッタブルベビーキャリア」(左)と、背負うタイプの「ベビーキャリア」(右。いずれもモンベル)を利用。背負うタイプのベビーキャリアは右写真のように日差しや雨よけが別売りである。

 そしてもう1点、重要なのが大きな音を遮へいする防音イヤーマフ。自己判断で音から遠ざかれない赤ん坊には、オーストラリアのブランド「Banz」のものを用意した。Banzはイヤーマフのほか、サングラスやゴーグル、UV対策ウェアといった野外での「子ども用プロテクションアイテム」を多数扱うオーストラリアのブランドで、このイヤーマフはコンサートやスポーツ観戦のほか、聴覚過敏の子どもたちが気にするノイズをシャットアウトする道具としても使われている。
子ども用のウェア(右)には、虫刺されや日焼けを防ぐため手首足首までを覆うものを用意。苗場は必ず雨が降るので、速乾性に優れ、汗に濡れてもすぐ乾くパタゴニアのキャプリーン製にした。

 ほか、日焼け止めや虫よけ、おむつセット、授乳グッズ、着替え……など、大人の装備をはるかに超えた子どもの細かな品々は取り出しやすいように個別にパッキング。このあたりは登山の長期縦走にでかける要領で、防水バッグと、外から視認性のいいメッシュバッグ、生地の滑りがよく出し入れしやすいシルナイロンのスタッフバッグをうまく併用した。

 雨天時に備えた装備としては、私自身が背負うバックパックは中身が濡れない防水モデルを用意。レインウェアは、ベビーカー移動またはベビーキャリアを背負うときは上下セパレートのNeoShellモデル(ネオシェルは蒸れず柔らかく雨具を着てる感覚がなくてオススメだ)。抱っこ紐移動の場合は、子どもごと覆えるようにゆったりしたフリーサイズの大振りポンチョを着ることにした。足元は完全防水のトレッキングシューズ、長靴、アウトドアサンダルの大定番3足セットを持っていった。
収納アイテムのオススメは、とにかく種類が豊富な「シートゥサミット」のパック&ストレージ、トラベルのシリーズ。中身を丸っと防水できるバックパック(右下)は、上部がロールトップになっているマウンテンハードウェアの「スクランブラーRT35アウトドライ」が使い勝手がいい。

 ちなみに、現地2泊3日の宿泊はさすがにテント泊ではなくホテルにした。自分たちは野宿に慣れているとはいえ、決してキャンプ場ほどは快適ではないフジロックのキャンプサイトに、いきなりゼロ歳児連れで挑む必要は初回はない。何かあったら逃げ込めるシェルターがあるというのも心強い。

 

音楽を二の次にして自然を
楽しむだけでも充分来た甲斐がある

 さて、ゼロ歳児連れのフジロックはどうだったか。

 今回過ごすのは、開催2日目の土曜昼に現地入りし、月曜の朝帰路につくというスケジュール。フジロックそのものには1.5日滞在することになる。

 結論から言うと、想像どおりタフだった。Akimamaの記事で公開されていた「【実況】フジロック2018キャンプエリアから 台風12号の影響をリポート」は記憶に新しいが、とくに日曜に入って風雨が強まったときは手も足もでなかった。我が家はホテルで待機していたが、幼い子連れでキャンプサイトにいた家族は怖かったと思う。

 と同時に、晴れ~曇りだったときは思った以上になんとかなった、という部分もあった。
 まず、対策としてよかったと思えるのが、大きいステージを回避した点。音量が大きく、目玉級アーティストのステージは大混雑となるのが目に見えていたので、その人ごみの隙間を縫うように、裏番組的な小規模のステージをめざして動いた。具体的にはボードウォーク沿いにある木道亭や、ジプシーアバロン、カフェドパリなど。なかでも最南端にあるピラミッドガーデンはどのステージよりも穏やかで、かなりの時間を過ごしたように思う。大規模ステージの目当てのライブは夫婦間でシフト制にして、交代で突撃。観たいライブの大半は観られなかったが、もともと行く予定すらなかったので文句はなし。そもそも、ただ会場にいるだけで充分楽しい、それがフジロックなのだ。

 宿は会場からもっとも近いプリンスホテルを抑えられたことが大きかった。定期的に戻って休憩できた点が何よりよかったし、連続外出は3~4時間を目安にこまめに部屋で休ませ、場合によっては抱っこ紐でなくベッドでの昼寝を挟んだ。静かな環境でスイッチを一旦オフにする時間を意図的に作ることで、次の外出も比較的機嫌よく過ごしていたように思う。夜は20時には外出を終え、いつも通りの時間に就寝させた(大人はその後交代ででかけた)。
小学生以下は無料になるフジロックで、“子連れ歓迎”を象徴するのが「キッズランド」。目印のメリーゴーランドのほか、木製遊具やツリーハウスといった趣向を凝らした手作り遊具が点在し、子どもたちが主体的に遊べる仕掛けがたくさん用意されている。

 視覚的に興味を引くものが会場中にあふれているのも、赤ん坊的にもおもしろかったようだ。筆頭はカラフルで楽しげなキッズランド。そのほか森のなかを歩くボードウォーク、場外の無料エリアであるパレスオブワンダーなども該当。ほか、ここでも昼夜問わず“赤ん坊受け”がよかったのはピラミッドガーデンだった。日中は風に揺らめくフラッグガーランド(連なる三角の旗)、日没後はキャンドルの明かりや光のイルミネーション、青いサーチライトを食い入るように見ていた。アンビエントやアコースティックなど、チルアウトなライブが目白押し。フジロック会場最南端のピラミッドガーデンはCandle JUNE氏プロデュースのエリアだ。オートキャンプ専用サイト「ムーンキャラバン」が併設され、利用者は子連れや犬連れが多い。

 今回は滞在の後半は台風12号の影響で風雨が強まり、ドラゴンドラに乗って行く高原エリアやところ天国脇の浅貝川などは残念ながら訪れていない。けれど、もし天候のよい開催になっていたらバギーやベビーキャリーをフル活用してあちこち移動していたように思う。フジロックは数々の伝説を産んできたロックフェスでありながら、気分次第で音楽を二の次にして苗場の山々を楽しむだけでも充分来た甲斐があるほど、自然と共生したフェスティバルだからだ。より赤ん坊との時間を重視するなら、遠くから流れ聞こえてくるステージの音をBGMに、心地よい空間でゆっくり時間を過ごすのが一番いいのかもしれない。
 ここでまた道具の話になるが、大人用のイスに関してはとにかく“組み立てと収納が早い”ことが一番だ。子どもの機嫌次第でサッと撤収し、移動できる方がいい。その点で今回持っていったラフマの「マキシポップアップ」はパッと開けばすぐに座れ、畳むときも脚をまとめて縛るだけ。細長く収納でき、人ごみでもジャマにならず持ち運ぶことができる優れものだ。布地がメッシュのタイプを選ぶと雨に濡れてしまった場合も乾きが速く、次に座ったときにうっかりお尻を濡らすこともあまりない。さらに座り心地も最高で、子どもを抱えて沈み込んだら二度と立ち上がりたくなくなるほど気持ちいい。移動が多く足が疲れるフェスでは、このラフマチェアが最強だと思っている。ラフマ「Maxi Pop Up」3輪バギーはちょっとやりすぎました。イスを横付けできるようにするなどかなりカスタマイズしていったが、大きすぎて持て余し途中から使わなくなった。

 今回赤ん坊を連れて行って「こうだったら」と感じたフジロックの施設面。ステージの大音量から離れた静かな場所に、お湯やテーブル、イスなどを備えた授乳とオムツ交えの専用コーナーを設けてほしいというのが、個人的なリクエストだ。子どもがぐずっていると大音量から離れたいと思うのは親の心情だろうし、ゼロ歳児に限らず、子どもに離乳食や食事をゆっくり静かなテーブルで食べさせたいというお母さんも少なからずおられるだろう。設置場所は場外エリア、キャンプサイトよろず横、オレンジカフェなどがよいのではないだろうか。

 ちなみに、今回ゼロ歳児を連れた家族にも何組か出会った。「おお! そちらもそうですか」とシンパシーをお互い強く感じてしまったが、どこも“大変”と“楽しい”をごちゃまぜにして全力でフジロックを過ごしていた。まわりも、巷に溢れる「こんなところに赤ん坊連れて来るなんてケシカラン!」という批判的な空気ではなく、どちらかというと「よくがんばってやってきたね」というおおらかな雰囲気。12万人が訪れるとはいえ、やはりフジロックは世間では圧倒的にマイノリティの場、愛すべき変人の集まりなのだ。

 

ぼくはゼロ歳で
フジロックに行ったんだよ

 2泊3日の滞在で子どもはときに盛大に泣き、ぐずりもした。慣れない場所、慣れない音、慣れない人ごみにきっとものすごく疲れたと思う。

 でもその反面、「楽しい」という言葉を発しない代わりに、日々の生活とはまた違う様子で笑い、目を見張って周囲を眺め、声を上げてはしゃぐ姿を何度も見た。

 少しでも変調があればすぐに対応できるよう、家にいるときよりも何倍も子どもの様子を終始見ていたことで、微妙な表情の変化やしぐさから彼なりのフジロックの楽しさを少し見た気がしたように思う。
 

 今回の私たちの行動は、いいも悪いも正解はない。けれど、親が子どもに安全や安心感、楽しさや快適さ、そして状況に応じた撤退を約束できるのであれば、多少世の中の“常識”とズレていても、自分たちの判断で行動に移して構わないのだと考えさせられた。アウトドアで遊ぶ、ということは野外フェスティバルに関わらずそもそもそういうことだ。みずからの判断で楽しさと安全のどちらともをたぐり寄せるスキルがあり、身の丈に合っていると確信できるなら、自然のなかに子どもを連れていく“切符”を手にしてもいいのだと思う。 そして子どもには、自然のなかで遊ぶことが人生のよろこびとする私たち夫婦の元にやってきたのなら、自由に野山を駆け巡れる平和のありがたみや、自然豊かな日本に生まれた幸運を噛みしめて生きていってほしい。そのどちらも体感できるひとつの象徴的なが場所が、このフジロックではないだろうか。

「ぼくはゼロ歳でフジロックに行ったんだよ」と将来誇らしげに語り、春夏秋冬の日本のアウトドアの楽しさを知っているたくましい少年になれば……と何度も思いながら、2泊3日の弾丸フジロックツアーが幕を閉じた。帰路につく頃には、さすがに親は疲労困ぱい、グッタリであった。

 それにしても、単身で行くフジロックより遥かに不自由だったが、子どもをダンナに預けて真正面から音楽に没頭できる時間はすばらしいのひと言だった! それがわずか数曲だったとしても、また日常に戻って「お母さん」をしっかり務めるためのチャージができたように思う。いや~子どもを大事と思うあまり、自分という個を完全に後回しにして暮らすのは精神的によくないですね。私が生涯をかけて日本で楽しんでいきたいアウトドアや音楽の世界を、子どもをどんどん巻き込みながらこれからも伝えていきたいと思います。

(文=福瀧智子、写真=sumi☆photo)

 

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