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地球によいから余計にうまい“パタゴニア”のビール

2018.08.23 Thu

森山伸也 アウトドアライター


 テントを張ったら、まずビール。
 山でも、川でも、海でも、どこでも。
 春でも、夏でも、冬でも、一年中だ。

 空を見ながらあの喉を刺激する一瞬のために、野外へでかけて汗を流しているだろオマエと指摘されても否定はできない。ビールがないキャンプなんて、出汁をとらない味噌汁のようなもの。醤油とわさびがない青魚の刺身のようなものである。そのくらいアウトドアとビールの関係は、強くて、太くて、ホットだ。ぼくのなかでは。
SUPに生活道具を積んで仁淀川を旅したときも、ビール350缶を12本持った。ふた晩でなくなってしまい、3日目上陸してスーパーへ買いに走った。
 どうせなら、うまい酒を飲みたいものだ。
 とかく、荷物の重量に制限がかかる旅には。

 酒は液体なので、重量に関していえばすべてフェアである。うまいから重い、まずいから軽い、アルコール度数が高いから重いなどということがない。
重さが均一であれば、多少高価であってもうまい酒を持っていきたい。いや、そうしなければいけないのだ。でなければ、流れた汗が報われないではないか。

 たとえば、ビールなら麦芽とホップのみを原材料としたまじりっけなしの本物志向が好ましい。
北欧のラップランドを2ヶ月かけて800㎞歩いたときもビールを背負った。さすがに毎日飲めないが、途中の村で食料を補給する直後の2、3日間はビールを浴びた。寒くても空の下で飲むビールは当たり前のようにうまいのだ。

 最近、外で飲みたいビールの第1位といえば、パタゴニア「ロング・ルート・エール」である。米国のアウトドアメーカー、パタゴニアは2012年からパタゴニア プロビジョンズという食品部門を立ち上げており、このビールはそのラインナップのひとつに数えられている。

 パタゴニア プロビジョンズ・ロング・ルート・エール  473ml
 ¥626/1本
 ¥15,033/24本入りケース
缶4本を片手で持てるパッケージングは呑んべい、いやアウトドアマンにとってありがたいデザインである。ロング・ルート・エールは、渓流を釣りあがるテンカラ山行にも欠かせない嗜好品となった。源流で冷やして、焚き火の前でとぐろを巻き、飲む。夏の渓流野宿とビールは、相性がすこぶるいい。

 さてさて、今日もビールの時間がやってきた。ぷしゅっ。

 喉へ流し込んだ瞬間に、グレープフルーツのような爽やかなホップの風味が口から鼻へふわ〜っと抜け、がっしりとした麦の風味がコクと旨味、苦味をもって口の中に鎮座する。すっきりと爽やかな後味が「もっともっと流し込め」と缶を傾ける。
右上:プシュッとする瞬間、ついにやけてしまう。頼むからあと30秒、世界よ平穏であれ。右上:ゴクゴク、ゴクゴク、ゴクゴク。静かに。誰も話しかけないで。左下:ぷはっーー、うまーーっ! 右下:くーーっ。もっと安ければ毎日飲みたいぜ。

 最初のひとくちは当然うまい。酔っ払ったあとの30くち目もうまい。
 飽きがこない。軽いようで、重い。重いようで、軽い。

 クラフトビールの一種であるゆえにビールとしては変化球ではあるが、ギリギリストライクをついてくるビール好きにはかなり満足度が高いホンモノ志向のビールである。

 原材料を調べてみると、有機二条大麦、有機ホップ、カーンザとある。

 さすが、パタゴニア プロビジョンズ。農薬などを使用しない有機栽培で育てた原材料を使用している。ん? カーンザってなんだ?

 カーンザとは、アメリカの研究機関で生み出された多年生小麦のこと。地中に深さ3mも根を張るこの穀物から、ロング・ルート=「長い根っこ」という名が付けられた。多年生、つまり同じ個体から複数年にわたって実を収穫できる。ゆえに毎年ガソリンを消費して畑を耕したり、タネを蒔いたりする必要がない。よい意味でほったからし。さらに深く広く大地に根ざすので、土壌の保水力を高め、土を守りながら豊かにする力を併せ持つ。この万能ともいえるカーンザをはじめてビールの原料として採用したのが、このパタゴニアロング・ルート・エールなのである。

 ロング・ルート・エールに占めるカーンザの割合は、15%。ビールの主原料となる小麦麦芽をこのカーンザに置き換えれば、それだけで温室効果ガスの排出量が減少でき、肥沃な土壌が守られ、持続可能な農業とビール製造へと近づけるというわけなのだ。
ビールは水のように透き通っていてはいけない。濁り過ぎてもいけない。麦芽とホップのコクを残しつつ、喉越し良く。このくすんだ琥珀色が喉を唸らせる。アルコール度数は一般的なビールと変わらず5.5パーセントだが、なんとなく酔いは鋭く、重い。調子に乗って飲んでいると、すぐに酔っ払う。持っていく本数が限られるアウトドアでは、それもまたうれしい。※酔い方には個人差があります。欲をいえば、350缶サイズも欲しいところ。飲む量に対してゴミの数は増えるが、バックパックなどにパッキングしやすいし、キンキンに冷えたうちに飲みたいから。

 ロング・ルート・エールが生まれる背景を知ったら、ますます味にキレと深みが増した。

 地球環境にできるだけ負荷をかけない製造工程という付加価値が、その飲みっぷりに拍車をかける。パタゴニアのロゴからデザインされたボトルパッケージもかっこよくて、爽やかで、視覚的にも飲欲をそそる。
 いやー、いろいろな意味で飲み過ぎ注意! なビールなのだ。
 

■ビール取材後記
 ロング・ルート・エールは、麦芽の使用量が67%未満であるため日本では発泡酒に分類される。
 
 ビールよりも酒税が安い発泡酒は、一般的にビールよりも格下に見られている。いやいや、それは日本だけの話。発泡酒でも正しい原材料を用いれば、おいしく、本格的で、かつ個性的なビールを作れるのだ。それは、ロング・ルート・エールが証明してくれている。

 じゃあ、なぜ日本の発泡酒は、イマイチなのか? それは糖類とか大麦スピリッツとか余計なものがまざっているからだ。なんで日本のビールメーカーは、わざわざ余計なものをいれて発泡酒をまずくしているのだろう? 原材料費を安く抑えるため? 糖類やスピリッツを入れた方が、日本人の口にあっている? まさかそんなはずは! 誰か教えて!


 日本の発泡酒よ、ロング・ルート・エールを見習え! (酔っ払いの叫び)
 

【文:森山伸也 写真:大森千歳】

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