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<春休み大作戦>濃厚接触はお魚と!近所の鯉×パンプカで釣りを覚えようぜ
2020.03.26 Thu
藤原祥弘 アウトドアライター、編集者
自分も他人も、誰がウイルスをもっているかわからない現在、楽しむべきはひとり遊び。出かけてから家に戻るまで、誰とも接触しない外遊びこそ、今の状況に合っている。
暇と体力を持て余した子供たちにぴったりの外遊びが、コイを相手にした「パンプカ」だ。パンプカとはその名の通り、パンをプカプカ浮かべて、それをくわえたコイを釣り上げる釣法である。
数千円で道具を揃えれば、それ以降にかかる経費は1回あたり100円程度。釣りとしては難しい部類ではないが、魚に静かにアプローチしたり、アワセのタイミングをはかるうちに釣りの基本を学ぶことができる。コイはなかなかのファイターなので、釣りの結びやドラグの調整など、大物釣りの基本も身につく。
こんな釣りは子供ひとりで行かせたい。腰ほどの水深しかない里川なら、水難の危険性は小さい。親の目を離れた場所で、子供が自発的に創意工夫する釣りは、課題を独力で解決する力を育んでくれる。
子供だけで行かせるなら、流れがゆるく水深も浅い川がいい。念の為、ライフジャケットは着用させよう。ご近所のうるさがたも、ライフジャケットを着せていれば文句を言いづらい。
感度の良い高価な竿は折れやすい。グラスの配合が多い竿のほうが無理がしても折れづらいので子供の釣りに向いている。中古釣具店でひと昔前の竿を探してこよう。リールはシマノなら2000〜3000番程度が適当。道糸にはPEの2号を巻こう。ハリスはナイロンの5〜6号、鉤は丸セイゴの17番程度でOK。写真の竿は中古釣具店で1000円、リールは3000円程度だった。
道糸とハリスの結束は「ファイヤーノット」がおすすめ。子供でも簡単に習得でき、手早く結べる割に強度もある。せっかくだから「内かけ結び」か「外かけ結び」も覚えて、鉤とハリスを結べるようにもなりたい。
遊びの釣りだから鉤のカエシは潰しておく。体や服に鉤ををかけてしまったときにも、カエシが潰してあれば鉤を戻して引き抜ける。カエシがあるまま肉に引っ掛けると、一度鉤先を肉の外まで抜かなくてはいけないので、すごく痛い。
餌は100円程度の安い食パンでOK。耳の部分をつまみ取り、鉤をパンのかけらに潜らせる。鉤先を外に出すとコイが飲み込んだ際のかかりが良いが、コイに鉤を気取られやすくなる。しかし、鉤を全部パンに隠すとアワセたときにすっぽ抜けしやすい。
コイを見つけたら進行方向のちょっと先に鉤をつけたパンを投げ込み、少しだけ糸をたるませる。コイの口は意外とセンシティブ。糸が張っていると人の気配を感じ取られる。かといって、糸を緩ませすぎるとアワセたときに鉤に力が伝わるのが後れる。このあたりの勘所の修得にはトライ&エラーが必要だ。コイの駆け引きを楽しみたい。
鉤なしのパンにはすぐに食らいつくのに、鉤があるとなかなか食い込まない。鼻面で押してみたり、口で触ってみたりする。焦りは禁物、がっぷりくわえるのを待つ。
どうしよっかな〜。食べよっかな〜。やめとこっかな〜。
バフッ!
コイがパンをくわえたら、すかさず竿を起こしてアワセを入れる。鉤をかけられたコイは暴れまわるが、それも最初の数十秒。すぐに大人しくなるのでゆっくり河岸に寄せる。
タモの届く距離まで来たら、頭側からタモをかぶせてランディング。取り込みに夢中の子供は、ここで竿を折る。写真は模範的ないけない取り込み。いい竿だったら、100%折れている。
200%竿を折るヤバイ取り込み。ランディング中の適正な糸の引き出し量や、竿を折らない力のかけかたは、折ってみるまで身につかない。お父さんは喉の奥から変な声が出ても、ぐっとこらえよう。
魚は陽のあたった地面に置くだけでもダメージを受ける。できるだけ水から出さず、プライヤーですばやく鉤を外して川へ戻す。もちろん、水質の良い川で子供にガッツがあるなら、食べるために持ち帰ってもいい。
「食べもしない魚を釣るのは残酷だ」という大人もいるだろうが、現代のほとんどの川において、コイは数が多すぎる。日本の里川に小魚や水草が少ないのは、大食漢のコイがあらゆる生物を食べていることも影響している。
コイは「世界の侵略的外来種ワースト100」にも選ばれるほど、環境に及ぼす影響が大きい。立場を里川に住む在来の生き物に置いてみれば、コイという強力なプレデターにストレスをかけてくれてありがとう、といったところだろう。
しかし、悪影響を及ぼしているからといって、コイの命を雑に扱ってもよい、というわけでもない。コイが及ぼす影響も忘れず、コイの命への敬意をもちつつ、自分の猟欲や行為の正当性について考え続けなくてはいけない。大人でも答えを出せない命の利用の問題を、コイは子供に考えさせる。
コイ釣りは「獲物を手にする」という人間の根源的な欲求をスタート地点にして、自然の観察や、物理や、哲学について教えてくれる。大人の目を離れて学び始めた年頃に、ちょうどいいレッスンだと思う。
春の川はいろんな生き物がいて楽しいぞ。