• 山と雪

遭難の悲劇は一件でも減らしたい。日本山岳救助機構 —— jROがいちばん伝えたいこと

2021.04.16 Fri

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CASE01
遭難発生場所:岐阜県白川村 野々俣谷
発生年月:2017年2月
遭難事故の概要:単独のため詳細不明。山スキー中に誤って沢に滑落し溺死したものと思われる。事故発生5日後に発見される。
被害:死亡
補填金額:254,328円
CASE02
遭難発生場所:神室連峰 火打岳
発生年月:2018年4月
遭難事故の概要:日没による焦りから雪の斜面にて転倒。GPS携帯を紛失したことによる道迷い。ビバーク5泊あり。山仲間と地元山岳会パーティーにより発見。人力担ぎにより登山口まで下山、最寄医療機関へ収容される。凍傷あり。
被害:負傷
補填金額:248,402円
CASE03
遭難発生場所:北海道 十勝岳
発生年月:2018年8月
遭難事故の概要:悪天候で道迷いのため本人が救助要請。当日は天候が悪く、発見できなかった。翌日早朝に発見された。死因は低体温症。
被害:死亡
補填金額:148,958円
CASE04
遭難発生場所:北ア 剱岳
発生年月:2019年10月
遭難事故の概要:剱岳山頂より平蔵のコル方面へ下山、真砂沢ロッジ未着。数次にわたり捜索が行われている。現在(2020年10月)も継続中。
被害:不明
補填金額:5,500,000円

 ここに挙げた事例はもちろん、氷山の一角である。山岳遭難による悲惨な事故は、季節を問わず場所を問わず、毎年必ず起きている。それも決して少ない数ではない。また、発生する場所やその要因、遭難のパターンもさまざまだ。遭難の結果も同じではない。命を落とすことになるか、負傷で済むのか、行方がわからず不明のままとなってしまうのか。だれも遭難をしたくて山に入るわけではないが、遭難とは不注意の小さな種がいくつも積み重なって、ひとつの帰結へと向かっていくものである。気が付いたときには、すでに如何ともし難い状態に置かれていることが多い。

 天候要因、季節的要因、体調や持病といった自己に起因するものなど、事故へとつながる要素は、どこにでも転がっている。つまり、山に入るという行為は、つねに遭難の危険と隣り合わせにあると考えるべき。それは、どんな人にも共通して言えることだろう。ただし、遭難の確率をみずから上げてしまう登り方がある。それは、ひとりでの行動。単独行である。
jROが毎年、会員向けに発表している「補てん金お支払い実績表」。1月から12月まで、その年に支払いが確定した遭難事故の発生場所と事故の概要、被害状況、補填金額が記載されている。一覧の左、欄外の丸文字にあるのは「独」の一字。単独行の数を表している。
 じつは、冒頭に挙げた4つのケースはどれも単独行での事故である。この資料の発信元は、日本山岳救助機構合同会社。山好きの人にはむしろ、「jRO(ジロー)」のほうが耳慣れた響きかもしれない。

2018、19年の対象事故件数および単独行の実数を示している。赤い部分が単独行での遭難事故。両年ともにそこそこの割合を占める。

 jROによれば、補償の対象となった遭難件数は2018年が52件、19年が48件である。そのうち単独での事故件数は、それぞれ16件と19件となる。割合で表せば18年が約30%、19年は40%。これは事故となってしまった件数である。未遂を認識している場合もあれば、自分では気がつかなかったけれど危なかった人もいるはずだ。事故件数から単純に測れるわけではないが、いまの山登りのスタイルに、いかに単独行が多くなっているかの現れかと思う。

 ここで、jROがつくったシステムの説明をしておきたい。jROとは「山岳遭難対策制度」のひとつで、簡単に言ってしまえば、「遭難事故の発生時に会員を対象として、その捜索関連費用を補填する」ものである。なんでjROなのかといえば、日本山岳救助機構合同会社の英語表記、“Japan Rescue Organization LLC”の頭文字から生まれている。「ジロー」と名付けられたこのキャラクター犬のイラストを目にしたことがある人も、多いのではないだろうか。
左がjROのキャラクター犬「ジロー」。モデルはヨーロッパでの遭難救助時に活躍するセントバーナードで、首には度数の高いアルコールが入った樽をぶら下げている。もちろん、救助活動で使う。そのジローが登場する『山の“もしも”に備える』と題した漫画が、jROのホームページ上に掲載されている。これは、jROのシステムをわかりやすく説明するために作成されたもの(上の画像からアクセスできる)。
 では、具体的にどんな制度なのかといえば、jROの屋台骨は会員同志の「相互扶助」によっている。これをカバレージ制度と名付け、システム化することで運営されている。たとえば、jROに入会している会員が山岳遭難事故を起こしてしまった場合、その捜索・救助費用を会員同士が補助するという構造になっている。1会員につき1期間あたり、最高で550万円を限度に支払いが実施される。支払われた費用の総額は、年度ごとの会員総数によって割り出され、「事後分担金」として公平に算出されるようになる。ただし、このシステムは保険ではない。あくまでも「捜索・救助費用」に関する費用の補填のみで、死亡見舞金などの保険で賄われる部分はその範疇にはない。この点は、よく認識しておいた方がいい。

 550万という数字はなかなかのものだが、捜索に関わるマイナス面はそれだけインパクトが大きいということだろう。遭難した本人は当然のことながら、万が一にも死亡や行方不明となった場合には、残された家族たちに大きな負担となってのし掛かってくる。捜索が繰り返される度に、救助者の人件費、見舞金、ヘリコプター代、捜索に関わる諸経費などがどんどんと積み重なっていく。これを補填もなしにカバーをするには、相応の苦労が伴われる。親しき人を失った悲しみに加え、経済的にも追い込まれていく。これは悲劇である。

 備あればうれいなしとはまさにこのことで、単独行であれば、なおさら「事後」の準備までをしておくべきだ。この捜索・救助費用であるが、どこまでの行為が支払いの対象になるのかといえば、じつは山登りだけでなく、かなり広い範囲での行為がカバーされている。jROの資料に曰く、日本国内であれば季節を問わずにオールシーズンOKで、アイゼン、ピッケルを使う雪山もアルパインスタイルのクライミング、山スキーやスノーボードだけでなく、マウンテンバイクにトレイルランニング、沢登りに渓流釣り、山菜採りにキャンプまでその対象となる。

 ポイントは「日本国内であれば」の部分。海外での活動は対象外となるので、その点は注意したい。とはいえ、滑り系はもちろん、山菜採りやキャンプまでが補償の対象となるのはすばらしい。日本の山岳フィールドでの遊びについては、ほぼすべてをカバーしてくれている。付け加えるならば、年齢も問われない。

 では、このカバレージ制度での補填金の支払い費目の詳細を見てみよう。資料によれば、以下のようになっている。

捜索者の日当
交通費(ヘリコプター代含む)
消耗品費
宿泊費
食費
関係者現場駆け付け費用
遺体搬送費
謝礼費用

 捜索・救助に関わる費用の細目はほぼ入れ込まれている。既往症や持病持ちの場合は減額される場合もあるようだが、病気が原因となる遭難にも対応している。また、二重遭難や共同遭難も補償対象として認められている。ただし、「車代わりに救急車を使う」ごとき行為は、もちろんその対象から外される。そういったニュースもごく稀に耳にすることはあるが、「疲れたから」「日程が遅れたから」といった理由で救助要請をするような行為は、山であれ街であれ許されるものではない。

 さて、気になるのは「会員になるには、いくらかかるのか?」であろう。入会時のみに掛かる入会金は2,000円+税、年会費が2,000円+税。さらに、年度終了後に請求となるカバレージ制度の事後分担金が必要となる。つまり、4,000円+α。この値段が高いか安いかはもちろん個々人の感覚によるが、最大で550万までの補填を考えてみると納得のいく金額ではあるまいか。ちなみに、+αの部分、つまり事後負担金は年度によっていくらかの幅がある。これは、jROの会員数と実際の遭難=支払い請求申請数とのバランスによるため。2019年度現在は、200〜500円くらいとなっている。
2008年から18年までの補填金額の合計と事後分担金の関係性を示したもの。総じて見れば、年々、事故件数は増加傾向にあるものの、事後分担金は減少傾向にある。こちらは、jROの会員数の実数。多くの登山者たちに認知され、毎年、会員数が増え続けているのがわかる。前出の「jRO補填金額の合計と事後分担金」のグラフにあるように、事後分担金は減少を示しているが、その大きな要因となっているのがこの会員数の増加にある。会員数が増え、事故件数が減れば、自然と事後分担金も低く抑えられていく。
 ここまでの一連の流れが、jROの持つシステムの紹介である。アクティビティの対象の幅も広く、補填金の支払い費目も細かく設定され、支払い実績も申し分なし。山で遊ぶには、至れり尽くせりの補償制度である。これならば、後顧のうれいなく、心置きなく山登りができる。でも……。

 やはり、いちばん大切なのは「そもそも遭難は起こらない、起こさないこと」。jROでは、そんな観点から「自救力」を向上させるためのさまざまな試みを実施している。自救力とは字面の通りで、自分で自分を救い出す力のこと。それは山登りの知識を養い、体力を付け、ことが起こらないように、または起こったあとにも備えるために、学びを得る行為につながっていく。jROが行なっているのはその助けともなるコンテンツで、会員を対象とした数多くの講演会や講習会の実施だ。また、自社のホームページ内では、山での救急法や救助要請の手順といったベーシックなことから、「自救力アップ講座」という括りで「猪熊隆之の山の観天望気講座」や「羽根田 治の安全登山通信」といった連載記事も展開している。

 さらに、山岳救助用具の貸出制度やネットショップによるエマージェンシーギア(jROエマグストレージ)の購入などもできる仕組みまで設けている。また、救助隊派遣の斡旋などを専門組織と手を組んで実施する。公益社団法人東京都山岳連盟(都岳連)やガイド協会、捜索ヘリネットワークを持つココヘリやデジタルでの登山届システムをつくったCompassなどとも緊密な連携を実現している。まさに、遭難対策を網の目のように広げている。遭難後のことだけではなく、遭難しないためのさまざまな工夫を「総合的に」組み立てる、これがjROの特徴ともいえるのかもしれない。
この春、jROが制作した『jRO magazine』。自救力アップをテーマにさまざまな講習や講演会を実施しているが、その内容を文字に残して無料で配布。多くの人に正しい情報を伝えたいというjROの新たな試みのひとつ。配布先は関西圏の好日山荘やjROの関連施設など。
 jROは先日、こんな小冊子の制作も行なっている。内容は、前出の会員向けの講演会をまとめたものであるが、昨年の12月に大阪で行なわれた「第31回 jRO会員講演会」がベースとなっている。このときの講師は、山岳ガイドの加藤智二さんと山岳ライターの高橋庄太郎さんのおふたり。テーマは「単独行について考える」である。それぞれ、加藤さんが「単独行の計画論」を、高橋さんが「ソロ登山の光と影〜単独行のリスクマネジメント」であった。この冊子に値段はついていない。これも、少しでも多くの人々に良質な情報を発信しようというjROの活動の一環であろう。また、開催時は会員向けの限定企画であったが、いまはこのときの映像がYouTubeで閲覧できるようにもなっている。つまり、アクセスすれば、だれでも見ることができる。せっかくなので、以下に共有しておきたい。 
 
■第31回jRO会員講演会 in 大阪
 
 最後に、jROの代表でもある若村勝昭さんが、強く提唱しているふたつのミッションを紹介しておきたい。それは「遭難のレッドカーペット」と「Missing 0 Triangle」である。どういうことか。

「遭難のレッドカーペット」……道迷いは、遭難で高い比率を占めている。この道迷いがきっかけとなって、悲惨な結果に陥ってしまう流れ、つまり、「道迷い→転・滑落→低体温症→行方不明」といった負の連鎖が遭難/死亡事故の大きな要因となる。jROでは、この過程を「遭難のレッドカーペット」と呼び、注意を促している。このレッドカーペットを踏んでしまうのは単独行の場合が多く、「ソロ」で登山口に立つとことはレッドカーペットの端に立つこととイコールであると自覚したい。

「Missing 0 Triangle(ミッシング ゼロ トライアングル)」……山岳遭難にはさまざまな要素が積み重なって起こってしまう事象。その予防策のひとつとして、以下の三角形の完成を心掛けて欲しい。

“Mission 0 Triangle”の字面を敢えてMOT(モット)と読ませ、イメージしやすいようにした注意喚起の三角形。

1.登山届の提出(Compassなど)の励行
2.位置通報機器(スマホやココヘリなど)の持参
3.山岳遭難対策制度(jROなど)や山岳保険の加入

 どちらも、極ごく単純なことである。自分の力量の認識把握はもちろんのこと、いまの時代に山登りをするなら、登山届の提出や山岳遭難対策制度、山岳保険への加入は当然のマナーとも言えるはず。でも、当たり前すぎるゆえなのか、これができない。敢えて新しい言葉をつくってまで若村さんが伝えたいのは、やはり、山での悲劇を一件でも抑えたいがゆえだろう。一度、遭難に陥ってしまえば、本当に悲惨なことになってしまうから。これがjROからのメッセージである。

 

■jROの入会はこちらから

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