• 山と雪

【特別企画】知られざるアウトドアの楽園・台湾 第二の高峰「雪山」に登ってきました<登頂編>

2017.01.15 Sun

宮川 哲 編集者


 標高3,886mの雪山(せつざん/Xueshan)は、雪山山脈の主峰であり台湾第二の高峰。かの地にも日本の百名山のごとく「台灣百岳」があるが、もちろんその百岳のひとつでもある。そして、台灣五嶽でも一座に数えられている。

 ひとつのピークにこれだけの修飾が付くのだから、やはり台湾を代表する山なのだ。そもそも台湾の最高峰には標高3,952mの玉山(ぎょくざん/Yù Shān)があるが、今回はなぜだかそちらに心がなびかず、Akimamaメンバーは端から雪山を狙っていた。字面が「雪山」なので、季節柄、「ゆきやま」をイメージしていたのかもしれない。

 だからアイゼンもピッケルもヘルメットも、バッチリと準備していった。

 いわゆる、日本の雪山装備一式を持って。でも、麓から見上げる山の稜線には、雪の「ゆ」の字も見当たらない。雪山の雪山シーズンは「ときには腰の深さまで積もることもある」と物の本にも書いてあったのに……事前に随分と調べてきたつもりが、しかもこのWEBの時代にこんなにも情報が得られなかったことに、正直、ビックリしてしまった。

 だから以後、雪山に登りたいと思う人の一助となればということで、この時期の雪山の様子を詳しく書いておきますね。

 まず、われらYorozu alpine club(これ、登山申請の際に提出したチーム名。Akimamaチームは、キャンプよろず相談所でもありまして!)が雪山に登頂したのは、2016年の12月5日の月曜日。前日の4日に入山し、標高2,500mの七卡山荘(しちかさんそう/Cika Cabin)に宿泊している。ともに天気は良好で、“冬なのに”まったく寒くない。標高3,100mの三六九山荘(さぶろくさんそう/Sanlioujiou Cabin)の入り口に掛かっていた温度計の表示は、5日の昼過ぎで12度だった。体感ではあるけれど、朝夕もそこまでは冷え込まなかったように思う。

 でも、“冬なのに”と思っていたのはわれらだけだったようで、日本の感覚でいえばまさしく秋山のそれ。なので、ピッケルを装備した大きなバックパック姿のぼくらに、入山口の雪山登山口服務站(登山管理センター)のオジサマが微笑みをくれたのだと思う。気のせいかもしれないけれど。「オッ、まだ雪降ってないぞ。日本からそれ持って来たのか!? 重いのにごくろうさん……」とかなんとか、そんなメッセージだったのかなーなんて。
 
 結果的には、こちらも事前に調べた似非知識になってしまったのだが、ここ雪山登山口服務站では入山前に装備一式のチェックがあって、不十分だった場合は登らせてもらえない、なんてことも書いてあった(はず)。が、背中のピッケルが効いたのか(と、勝手に思っていたけれど)、入山許可証とパスポートの確認だけですんなりと通してくれたのだった。

 本当のところは、装備のチェックが必要なのは1月から3月までの積雪期だけだったようで、つまり12月は台湾ではまだ冬期ではなく通常の登山シーズンにあたっていたのだ。なのでこの時期は、入山許可証さえ入手できていれば、誰でも登高可能ということ。背中のピッケルはなんの関係もなかった、という事実ですね。はぁ。

 はてさて、前置きが長くなってしまったけれど、この「【特別企画】知られざるアウトドアの楽園・台湾 第二の高峰「雪山」に登ってきました」シリーズは、メンバーのリレー連載でした。

 ということで、今更ながら承前。日本での準備編と台北、宜蘭から七卡山荘までは、こちらをご覧くださいませ。

【特別企画】知られざるアウトドアの楽園・台湾 第二の高峰「雪山」に登ってきました<申請準備編
【特別企画】知られざるアウトドアの楽園・台湾 第二の高峰「雪山」に登ってきました<入山編>

 そんなこんなで七卡山荘からいざ、雪山の頂へ。ちなみに、今回のYorozu alpine clubのメンバーは男2女2の計4人。前日はすんなりと午後2時過ぎには七卡山荘に到着し、かなりゆったりとした時間を過ごすことができた。が、じつのところ、パーティ内に大きなバクダンを抱えていたのだった。

 七卡山荘の前の晩は、宜蘭に居たので当然ながら夜市やらなんやらと美味しいモノを探して食べ飲み歩いていたわけでして。外国だし、山登りの前日だったのでハメを外すわけにもいかず、それなりにセーブしながらの前祝い。この日はなにもなく、それぞれに床に就いたはずだったのだが……なんと、真夜中にメンバーのYちゃんのお腹が急降下。

 宜蘭からバスに揺られて3時間以上、そして七卡山荘までの登山で彼女はかなりのグロッキー状態に。小屋に着いてから早々にシュラフに潜り込み、ほぼ12時間を眠り通し。おぉ、なかなかシビれる状況になってきた、と思いつつ、残ったメンバーで翌日のアタックの時間を計算する。
 
 台湾版の『山と高原地図』、『台灣百岳導遊圖』によれば、七卡山荘から三六九山荘を経て雪山の山頂までは、およそ7時間半の行程。そして山頂から折り返し、三六九山荘までは2時間半。合計10時間の長丁場となる。12月5日の台北の日の出は6時24分、そして日の入は午後5時4分。日が出ている時間帯は、こちらもほぼ10時間。

 秋の夜は釣瓶落としなのは日本も台湾も同じなので、ここは早めの行動を心掛け、出発を明け方の4時と決めた。日の出までの数時間はヘッデンを頼りに歩くことになる。4時に行動開始となれば、10時間の歩行に1時間の休憩を加えたとしても、午後3時には三六九山荘に戻っていられる計算となる。じゃ、3時半朝飯で4時に行動開始ね、と決めることを決めてしまうともうすることがない。というわけで、元気なメンバーは控えめに杯を重ねつつ、七卡山荘の午後の休日を楽しんだのだった。消灯は20時なので3時起床としても7時間も寝られる!! なんてシアワセ。

 あとは、Yちゃんの体調が戻っていますように。
4日の午後2時には七卡山荘に到着したYorozu alpine clubのメンバー。これからゆったりと山小屋の午後を過ごす。でも、1名はシュラフのなかへ。右上のドライバっグに詰め込んだのが、12月の雪山には必要のなかった雪山道具一式。小屋のスタッフの優しさに甘え、七卡山荘にデポ。下の写真が、七卡山荘裏から続く雪山への登高ルート
 と、そうそう、忘れていました。例の必要のなくなったおもーい冬山装備一式の件。七卡山荘の小屋番さんに相談してみると、スタッフ用の小部屋にデポしておいてもいいですよ、とうれしい返事。なくなっても責任は持てないけど、チーム名と名前、電話番号を書いておいてね、とのことだった。登山口まで拾ってくれたマイクロバスのおじさんも、七卡山荘の小屋番さんも、台湾の人たちは本当に親切。ホーボージュンさんの書いていた通りだ。謝謝。

 翌5日の朝3時。台湾の夜空は満天の星とまでは行かずとも、ちらほらと星が輝いている。今日もいい天気だ。台湾らしく、春雨でササッと朝食を済ませて、予定通り4時には歩き出した。心配していたYちゃんの顔色もよく、お腹の調子も悪くないらしい。寝る前に飲んだ薬とホットポカリが効いたのか、12時間の睡眠と絶食が効いたのかはわからないけれど、歩くには問題なさそうだった。ひとまずは安心。

 とはいえ、本人曰く、第一の目標は三六九山荘まで。そこから先は、そのときに考えます、と控えめ。たしかに、なにも食べずに丸一日。病み上がりでもありますし、ゆっくりと行きましょうかね。

 いよいよ高みをめざしての歩き始めとなったのだけど、ここで注意点をひとつ。七卡山荘周りの雪山へのルートが、ちょっとわかりにくいので要注意である。道は、七卡山荘の“裏手”から森の上部へと続いている。下から登ってくるとたいていは小屋の表側にまわってしまい、ウロウロと道を探す羽目になる。

 さて、登り始めとなったわけだが、これがまた、いきなりの急登の連続。気温もさほど低くないので、とにかく暑いあつい。大汗をかく前に衣服調節をする必要もあり、ワンプッシュしたところで小休止。身支度を整え、改めてリズムをつくりながら登っていく。真っ暗なので景色はわからないものの、足元には整備された木段がそこそこ先まで続き、ヘッドランプの灯りだけでも、安定して歩いていける。

 七卡山荘から1時間半ほどで、哭坡觀景台という展望台に到着。振り返れば、空はうっすらと明るみを増しつつあるものの、その先の山並みはまだ薄闇のなか。ぼんやりと見える稜線は、眼下の蘭陽溪を挟んだ向こう側に連なる中央山脈の北一段。もう少し明るくなれば、山容もわかりそうだけど、いま少しの登りが必要なようだ。暗闇のなか、近くにチラチラと見えるのは、武陵農場の灯だ。谷合いの農場はまだ夜の只中。

 この先に聳えるのは雪山東峰だ。またの名を明間山ともいう峰で、標高は3,201m。ここを越えなければ、主峰の雪山はまだ見えてこない。ところで、3,200mということは、すでに標高の点では日本の第二の高峰、北岳よりも高いことになる。そもそも全体の標高が高いからなのか、そんな高みにいる感覚がまったく持てない。それはたぶん、見えている風景のせいもある。台湾は緯度が低いため、この標高でもそこここに生えている樹々の幹はまだまだ太い。日本の山の感覚でいえば、1,500mくらいの山並みを歩いているようだ。
太陽は北一段の山並みの中程から昇ってきた。ちょうど、南湖大山と中央尖山の間にあるコルから光が差し込んだ。ダイナミックな台湾の夜明け
 いよいよ空が赤みを増し、さっきまで見えていなかった世界が徐々に姿を現してきた。北一段の山並みが、黒い陰となってその輪郭を増していく。後日、別チームが登ることになる南湖大山(3,742m)が秀美な裾野を広げている。その右手には、天を突くように聳える中央尖山(3,705m)。どれもこれもみな、3,000m以上の稜線上のピークである。

 太陽の最初の一筋が山の向こう側から差し込んできたのは、朝の6時35分のこと。台北の日の出が6時24分なので、10分遅れ。それだけ北一段の山並みが高いということなのだろう。いよいよ朝がやってきた。

 朝日を浴びたのは、雪山東峰の手前にある小ピークへの登りだった。ハァハァ、ゼイゼイと格闘中だったのに、そんなことも忘れさせてくれる瞬間だった。テンションもかなり上昇し、4人とも思わず歓声を上げる。キツいはずのYちゃんにも笑顔が見えている。よし!

 左手に突き出した岩峰の小ピークを右手から巻くようにして、ルートは森の奥へと続いている。その分岐点には「往雪山東峰 右下」の手作り感満載の道標がある。一旦、少しだけ標高を下げ、また登り返していく具合だ。5K地点を過ぎると、東峰の山頂は目の前に。ここにもピークを巻く道が付いているが、もちろん、ピークへとつながる道をとる。
雪山東峰の標高は3,201m。すでに南アルプスの北岳よりも高い。山頂からは進行方向の真正面に、雪山の主峰というシチュエーション。右上の写真が武陵四秀の山並み。下段の写真のように、山頂直下には小さいながらもヘリポートがある
 ここが結構な感動ポイントとなるのだけれど、山頂に登った途端、目に雪山の主峰が飛び込んでくる。ツラい登りも報われるというものだ。ここまで登らないと見せてくれないなんて、なかなか焦らされたものだったけれど、その分、ヨロコビも大きいといったところ。

 雪山東峰は三等三角点の山。でも、こちらも台湾百岳のひとつに数えられている。山頂からは東峰の稜線が主峰までそのままに延びているのがよくわかる。そして、右手側の先にある小さな白い建物が、三六九山荘である。ここまで来れば、山荘までは1時間と掛からない。目をさらに右手へと転じれば、今度は七家灣溪を挟んだ向こう側に武陵四秀と呼ばれる山並みが眼前に迫る。これは武陵エリアの秀でた4つの山をまとめて呼んだもので、東峰山頂から見えるのは、品田山(3,524m)、池有山(3,303m)、桃山(3,325m)の三座のみ。桃山の奥には喀拉業山(3,133m)が連なっているはずである。この四座すべても台湾百岳に数えられている。

 しばし山の絶景を楽しんだあと、先をめざして歩を進める。雪山までの道程はまだ半分にも満たない。先は長いぞー。東峰山頂直下にはヘリポートがあり、その縁を迂回するようにルートは続く。笹薮や苔むした森を抜け、小さな登降を繰り返すと道はやがて右手へと向かいつつ緩やかな下りとなる。そして風景がガラリと変わる。先の山肌は広い草原となっており、下のほうには三六九山荘がポツンと建っている。7k地点の道標が目印で、ここまで来れば、山荘はもう目の前だ。
東峰の山頂から三六九山荘へと向かう道中には、大きなシャクナゲの木が小さくトンネルをつくっている箇所がある。これ、シャクナゲのシーズンに来たらとてもキレイなんだろうなそしてシャクナゲのトンネルを抜けた先に見えるのが、この風景。広大な草原が斜面一面に広がっている。三六九山荘はこの草原の下辺にある標高3,100mに建つ三六九山荘。7kポイントの先にある。避難小屋とはいえ、かなり快適な小屋。ゆっくりするのは山頂を踏んでからにするとして、まずは余計な荷物をデポ。小休止も早々に、先へと進む。右上の写真が水源地への分岐点。この道標を見落とさないように
 本日の宿泊地はこの小屋なれど、行程はもちろんここで終わりではない。まずは余計な荷物をデポして、身軽になる。トイレに行って、小休止。さて、Yちゃんの顔を覗いてみる。そこには、いつもの笑顔が戻っていた。今朝までの心配はどこへやら、本人も迷うことなく山頂をロックオンしているようだ。

 ところでこの三六九山荘という山小屋の名前。不思議な名だなぁと思う人も多いのでは? かくいう自分もその部類。おそらくそんな質問が多いのだろう、小屋の前に名前の由来を記した看板が掲げられている。曰く、

「三六九山荘的名稱由來、是因為位在海拔三六九〇公尺(舊測)的本諾夫山下、因而命名」
上河文化出版が刊行する『台灣百岳導遊圖』の「04聖稜Y型縦走」に示された三六九山荘周辺の地形を確認すると……。標高3,690mの山も、本諾夫山も見当たらない
 どうやら、近くに標高が3,690mの本諾夫山があり、その麓に建てられた小屋ゆえの命名のようだ。なるほど、と思い地図を見てみてもこの本諾夫山が見当たらない。近くにも3,690mの山もない。あるのは、3,666mの甘木林山。そのときは、あれれ〜と疑問のままでやり過ごしていたのだけど、後日、気になって調べてみた。なんと、この甘木林山の旧名が本諾夫山だったことが判明。そして3,690mはかつての標高で、現在の計測値では3,666mが正しいんだとか。なんとも単純なネーミングだけど、インパクトあるな〜三六九山荘。
ススキに輝く一面の野原。なんだか、3,000m以上の高みにいる気がしませんねー。ここだけ切り撮ると、別の世界にいるかのよう三六九山荘を出発して、ススキの野原の小径を縫いつつ、上へ上へと進んでいく。ホントにホントに秋ですね。のどか〜
 山荘前の草原は、黄金色に輝いている。ススキの穂が一面に広がり、風に揺れていた。まさしく秋真っ盛り。拓けた道をほんの少し進むと、水管路叉路という分岐点に出る。道標の示す先は「水源地、凱蘭特崑山」。どうやら沢筋を下りて七家灣溪へといたり、むずかしい名前の山へと続く道のようだ。ちなみにこの凱蘭特崑山は、雪山山脈上でもっとも美しい稜線とも言われている「聖稜線」上にある。でも、進むのは雪山の方角。

 分岐点から上は、つづら折りの道が続く。草原の道を折り返しながら登っていくと、またしても景色がガラリと変わる。今度は巨木の森。地図上では「黑森林入口」という地名が記されている。名前の示すとおり、黒々とした深い森がどこまでも続き、神秘的でさえある。林床には苔が生え、どこか北八ヶ岳の森にも似ているように思う。
のどかだったススキ野原の風景は一変して、黒々とした台湾冷杉の森へ。すでに冬の準備は始まっているようで、太い木の幹には、積雪期用の「雪季路標」が巻かれていた。でも、意外と低い位置にある。ということは、雪は積もってもここまでということかな
 この森をつくっているのは、台湾冷杉。トドマツの仲間であるが、標高はすでに3,200mを超えている。やはり、森林限界の高さが日本とはまったくちがっているようだ。8k地点を過ぎ、しばらく進むと、左手斜面一帯が広いガレ場となる。「石漠」といわれるところで、長居は無用。その先の森のなかに、岩場から滲み出る水場があった。足元には簡易タンクが設置され、ホースが岩の割れ目に差し込まれていた。水場の少ない雪山東峰稜線上での貴重な休息ポイントだ。
森のなかに突如として現れる「石漠」。つまり、ガレ場である。雪山の東峰ルートではあまり見られない地形その先には、やや足元のガレた岩場のトラバースがあるので慎重に。この大岩を越えれば、水場はすぐ
石漠と大岩のすぐ先に現れるのが、岩の割れ目からしみ出す水。短めのホースが岩の割れ目に突き刺さっているだけだが、ちゃんと水場として機能していた。直接飲むなら、タンクに溜まった水ではなく、流れている水を飲んだほうがベター。近くにはこのルートで唯一のロープ付きの岩場がある。でも、ロープを掴むまでもないほど。そして、さらに森の奥へと進んでいけば、樹間越しにいよいよ主峰が見えてくる
 そして、9.5kポイントまでは、深い森のなかを進んでいく。もう3,500mに近いのに、まだこれだけの森が広がっているとは、驚きのひと言。日本では決して出会えない環境だ。ところで、先ほどから「○kポイント」と、正確な距離数が出てくるのには理由がある。ルート上の整備がかなり行き届いていて、100mか200mか、場所によっては500mおきのところもあったけれど、登山口からの距離数を示す道標が、ていねいに設置されているのだ。だから、あとどれくらいを歩けば目的地に到着できるかがわかりやすい。山頂は10.9kポイントとなる。この数字を覚えておくと、雪山登山の計画が立てやすいかも。ちなみに、七卡山荘は2k、東峰は5k、三六九山荘は7k。

 9.5kポイントの先は、樹々の間から雪山の稜線がチラチラと見え始めてくる。そして、9.8kポイントで森林限界を迎える。その先には、どデカイ氷河地形が待っていた。いわゆる圏谷、カールである。雪山だけに、雪が付いていればさらなる迫力だったろうと思うけれど、山全体に抱かれるカールならではのあの感じはここにも健在。南アルプスの仙丈岳を思わせるような、力強くも優しさを持った地形である。山頂は指呼の間。かなり調子もよく登ってこられたので、まだ9時半過ぎ。およそ5時間半の行程でここまで来ることができた。
こちらが雪山主峰の直下にあるカール。かなり規模の大きな氷河地形だ
 ここで景色を楽しみながら、ひと息を付く。考えてみれば、すでに富士山の山頂付近と同じくらいの標高に居る。心なしか、息苦しくもある。でも、まだまだ上があるなんて、と感慨深げに思わず山頂を見上げてみるが、そこには青空にくっきりと浮かび上がった大きな大きな山塊が事もなさげに横たわっていた。

 カールの底から山頂までは、ルートがふたつに分かれている。右手を取れば、聖稜線の北陵角(3,880m)と雪山の鞍部へといたる道。上部はかなり急。ここから稜線上を雪山まで登り返すルートだ。もうひとつはカールの底を左手から回っていくルートで、こちらのほうが歩きやすく、より明瞭なルートとなっている。そこで、われらも左手に進む。
雪山の主峰はもうすぐそこに。息苦しくはありつつも、思わず頬も緩む。あと少し!山頂直下、3,800mの世界。さすがに森林限界を越え、植生は背の低いものばかりに。でもシャクナゲもあるしリンドウまでも咲いている。また、今回の山行で唯一発見できた薄氷もあった。太陽のあたらない北側斜面の大岩の下がうすーく凍っていた
 カールの縁をゆっくりと登りながら、徐々に標高を上げていったのだが、やはり空気が薄い。たくさんの空気が吸えるようにと深呼吸を繰り返しつつ、一歩一歩、足を前に出す。

 すると、3,800mを超えたあたりで、いままで見えていなかった聖稜線の主稜線が顔を出す。雪山から北陵角、凱蘭特崑山、雪山北峰、武陵四秀のさらに奥には、世界の奇峰として名高い大覇尖山(だばじんさん/Dàbàjiān Shān)まで見えている。このエリア一帯は雪覇国家公園であるが、この「雪覇」は雪山の「雪」と大覇尖山の「覇」からとったもので、“Shei-Pa”と発音する。
憧れの大覇尖山。聖稜線の山並みにぽっこりと現れる奇岩が特徴的な山だ
 これほどまでに四角く角ばっていながら、ちゃんと尖塔としてそそり立つその山容は、日本ではお目にかかれない。かなりかっこうのいい山だ。台湾でも人気の山らしく、雪山と同様に多くの人の憧れの山だと聞く。次はあそこに登りたいなぁ、などと思っているうちに、カール上部の縁に到着。稜線をのっこしたことになり、南側に連なる山並みも見えてきた。そしてついに……到着、雪山の山頂だ!!

 雪山主峰、3,886m。われらがYorozu alpine clubの登頂日時は、12月5日の午前10時28分。登ってきた道を振り返ってみる。結局、登りで7時間半の行程を6時間半で登ったことに。そんなに急いだつもりもなかったので、台湾の地図のコースタイムがやや長めなのかも。それはともかくも、近くの北陵角から延びる聖稜線、振り向けば南湖大山に中央尖山。その他、名も知らない山々がどこまでも続いている。日本も山国だけど、台湾はそれ以上に山国だ。
ついに、ついにやりました!! 台湾第二の高峰、雪山登頂。お決まりの記念撮影もパチリ
 山頂の空はどこまでも高く、どこまでも青かった。なんと恵まれた雪山日和。こんなにも気持ちのいい山行は久しぶりだ。じつはこのあと、山頂で地元台湾の若者たちとうれしい交流が生まれるのだけど、この話の続きはまた今度。登頂編は、山頂までのルートガイドとして筆を置いておきましょう。では、再見!!

下山編に続く)
  
 

■台湾/雪山東峰稜 参考コースタイム
12月4日[歩行計/1時間10分] 
雪山登山口服務站/大水池(1時間10分)七卡山荘 泊
12月5日[歩行計/9時間55分]
七卡山荘(2時間)哭坂(1時間20分)雪山東峰(55分)三六九山荘(2時間20分)圏谷底部(1時間)雪山主峰(40分)圏谷底部(1時間40分)三六九山荘 泊
12月6日[歩行計/3時間35分]
三六九山荘(1時間)雪山東峰(40分)哭坂(1時間)七卡山荘(55分)雪山登山口服務站/大水池

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