• 山と雪

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」

2021.12.29 Wed

まつだ しなこ 子連れハイカー

ユダヤ系家庭の英才教育に学ぶ、山ヤの子育て

 ノーベル賞受賞者のうち約20%がユダヤ系(*)ということをご存知だろうか。ノーベル賞受賞者に限らず、アインシュタインやフロイトといった学者や、スティーブン・スピルバーグのようなクリエイター、そしてマーク・ザッカーバーグのような実業家もユダヤ系だ。その名を上げていくとキリがないほど、ユダヤ系の頭脳が世界に与えてきたインパクトは計り知れない。
(*) 『伸び続ける子が育つ お母さんの習慣』著:高濱正伸/青春出版社

 全人口の0.25%しかいないユダヤ人がこれほどまでに優秀な人材を輩出できている秘密は一体なんだろう、ということに興味をもった私は、ユダヤ系家庭の教育方針を調べてみたことがある。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 なんでも「自分で!」「やってみたい!」という自尊心に満ちた3歳児にどう対応していくか、母としても勉強の日々である。

 大量の素読、一対一の討論訓練などの家庭教育にその要因があるようで、その熱心さにひたすら頭が下がる思いだったが、あるひとつのポイントに私は釘付けになった。

 ユダヤ系家庭では、幼少期より読書を大量にさせることを習慣付けるため、家のあらゆる場所に本棚を置き、子どもの視界に入るところへつねに本を置いておくそうだ。リビングに、寝室に、階段に。そして、ふと手を伸ばすといつでも本へ触れられるようにしておく。

 私は「これだ!」とひらめいた。

「家の中でも、いつでも山が視界に入るようにすれば、山の才能が開花するかもしれない!」

 そこで、わが家ではじまったのが「いつでも視界に山を作戦」だ。娘が9ヶ月のころから、いままで3年以上にわたり続けている。


5分で完成! ずぼらな山ヤ流「いつでも視界に山を作戦」

 この作戦はいたってシンプルである。家のいろんなところに家族で登った山の写真を飾るだけだ。

 ただ、大事にしたいポイントがある。「子どもの手が届くところ、子どもの目線に写真を飾る」ということだ。家族写真をリビングに飾っている家庭は多いと思う。しかし、写真立てにいれて飾ったり、コルクボードにピンで貼ったりすると、子どもはわざわざ見上げないと視界に入らない。あげく、子どもがもっと近くで見たくて触ろうとしたりすると、「壊すからダメ」と取り上げてしまったりする。大事なのは、ただリビングを走り回っているときや、積木で遊んでいてふと顔をあげた瞬間に、自然と子どもの視界に入ることだ。

 そこで私は、大きな模造紙を子どもの目の高さにはり、そこへ両面テープでベタベタと写真を貼り付けた。それだけである。あとのアレンジは子どもにおまかせ。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 子どもたちは、お気に入りのシールを持ってきて写真の上に貼ったり、サインペンで落書きしたり、とにかく写真のまえで過ごす時間が増える。

 この作戦では、インテリア性は完全に諦めるしかない。あっという間にボロボロになるので、写真を入れ替えたり、模造紙自体を頻繁に取り換えるという手間もかかることになる。

 ただ、写真を眺めては、「これ、あーちゃん(娘)が赤ちゃんのときだったね」「がんばって歩いたよねぇ」など思い出を口にする子どもの姿に勝るものはない。


山ヤの才能が開花。那須連山の茶臼岳に登頂

 3年続けている、この「いつでも視界に山を」作戦のおかげかどうかは定かではないけれど、娘は山に行くのをいやがらない。疲れるから、歩くのがイヤだから行きたくない、と言ったことが一度もないのだ。しかも最近では、宝登山、御岳山と、自力で登頂しており、山ヤとして目覚ましい成長ぶり。

 そこで少し山の難易度を上げてみようと思い、今回挑んだのは、栃木県北部に位置する百名山である那須連山の主峰、1,915mの茶臼岳だ。ゴロゴロした石が多い、決して歩きやすいとはいえない高山を、ロープウェイを使わずに登頂することをめざした。

 峠の茶屋駐車場から茶臼岳山頂まで、登りのコースタイムは1時間40分とやや長め。身支度を整えて、スタートしたのは10時。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 「がんばるぞ! みんな、ついてきて!!」と娘は先頭をきって、やる気に満ちた最初の一歩を踏み出した。

 里山とちがい、少し進むとあっという間に木々の背丈は低くなるので、眼下に街が広がり高所感が楽しめる。しかし、16㎝しかない娘の足にとってはひとつひとつが岩のように大きく感じるのか、足元のゴロゴロの石に苦戦して、景色を楽しむ余裕はないようだ。あえて石の上をバランスを取りながら歩いては転ぶ、を繰り返しながらゆっくりゆっくり進んでいく。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 子どもは基本的に「避ける」ということをしない。つねに猪突猛進。岩があろうと乗り越えて前進あるのみ、である。

 出発から1時間50分、コースタイムの倍かかって、ようやく峠の茶屋に到着。茶屋といっても避難小屋なので、中には入らず、ここでゆっくりおやつ休憩。天気はいいが、稜線上の休憩スペースなので風がとても強い。寒い寒いといいながら、両方の手でしっかりおやつを握りしめる。

 山に登らない限り、風が怖いという感覚はもしかしたら知らないままなのではないかなぁとぼんやり考えたりする。「怖いもの」も少しずつ体験していって欲しいものだ。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 だいぶ前から小屋の赤い屋根が見えていたので、「あそこに着いたらお菓子を食べるぞ……」と自分を励ましながらがんばった。

 すでに親も娘もだいぶ疲れていたが、コースはまだ半分。残り半分は茶臼岳山頂をめざして、さらにゴロゴロした岩場を直登だ。さすがに「抱っこ……」と言いはじめた娘だが、同い年くらいの女の子がベビーキャリーに担がれているのをみて自尊心に火がついたのか、心を奮い立たせて歩き出す。

 秘密兵器のトランシーバーを駆使し、なんとか山頂まで自分の足で歩き切ったのが13時30分。トータル4時間近い登りであったが、今回も一度も抱っこされることなく登頂した。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 無事に登頂できたことを神様に感謝。山頂に祠がある山をいくつか登ってきたので、「お山には神様が住んでいるんだね」と認識してきたようだ。

 風が強くなってきたので、さっとお昼ご飯を食べて、下山開始。帰りはロープウェイを使うので、駅まで30分の下りだけだ。しかし、親子登山の核心は下山にあるといっても過言ではないほど、下山は神経を使う。下り坂のほうが滑りやすいし、子どもの足は疲れ切っていて踏ん張りが効かない。茶臼岳からロープウェイまでの下りは滑りやすいザレた道で、所々、急な斜面もある。娘は何度も足を取られて転倒した。夫がしっかり手を握っていなかったら、ちょっとしたケガになっていたかもしれない、という場面もあったので、下りこそ用心しなければ、と気を引き締めた。

 私自身も背中に息子を背負っていながら、足を滑らせて大々的に尻もちをついてしまった。ベビーキャリーに守られて大事にいたらなかったが、子どもの命を守るためにも、やはり山に行くならそれなりの装備を揃えて行くべきだろう。

【山ヤの子育て】親子登山13座目・山ヤ流天才教育「いつでも視界に山を作戦」 那須岳 茶臼岳 那須連山 親子登山 ロープウェイの駅にあるトイレにはオムツ替えシートもあるので、ここで息子のオムツ替え完了。

 最後の一滴まで力を使い切ったのか、車に乗ったとたん3秒で眠りに落ちた娘。

 ぽかんと口を開けて眠りながら、どんな夢をみているのだろうか。


家族で何度も「楽しかったね」を繰り返す

 私は、山ヤとしてたくましく成長していく娘の姿を見て、これはユダヤ人の英才教育にヒントを得た「いつでも視界に山を作戦」の賜物にちがいないと、誇らしげに友人へ自慢した。すると友人は「それは、いつでも山が視界に入ることが重要というより、楽しかった思い出に囲まれているおかげなんだと思うよ」という。私は、思いがけない指摘におどろき、娘の姿をしみじみと見つめてしまった。

 たしかに娘は、壁に貼った模造紙にシールを貼ったり落書きしたりするついでに、山頂で撮影した写真を見ては「お山楽しかったねぇ」とニヤニヤしている。いい顔で笑っている自分の姿を繰り返し見ることで、子どもにとって決して楽ではない山登りという体験を、楽しかった記憶として定着させているのかもしれない。

 山に興味を持たせたい、という一心ではじめたことが、こんな副次効果があるとはうれしい発見だった。

 ふと視線を向ければ、いつでも山の写真があり、そこに家族4人の登頂の笑顔が写し出されている。山の才能の開花はともかく、この光景が楽しかった思い出として彼女たちの身体の一部にしっかり根付いてくれれば、私の「いつでも視界に山を作戦」は大勝利なのだろう。

 しかし、私の「いつでも視界に山を」作戦に便乗して、「いつでも山道具に触れられるように」といって、リビングに山道具を置きっぱなしにする夫の屁理屈には、いささか辟易している今日この頃である。


 

しなこさんの、パパママへのアドバイス
わが家では、写真のほかに日本地図をリビングに貼り、その日に登った山の場所を子どもと確認しています。おかげで山へ登るときに地図にも興味をもつようになりました。貼るだけ子育てにはいろいろ効果がありますよ。


記事を読む »
ほかの【山ヤの子育て】記事はこちら

Latest Posts

Pickup Writer

ホーボージュン 全天候型アウトドアライター

菊地 崇 a.k.a.フェスおじさん ライター、編集者、DJ

森山憲一 登山ライター

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター

森山伸也 アウトドアライター

村石太郎 アウトドアライター/フォトグラファー

森 勝 低山小道具研究家

A-suke BASE CAMP 店長

中島英摩 アウトドアライター

麻生弘毅 ライター

小雀陣二 アウトドアコーディネーター

滝沢守生(タキザー) よろず編集制作請負

宮川 哲 編集者

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者

ふくたきともこ アウトドアライター、編集者

北村 哲 アウトドアライター、プランナー

渡辺信吾 アウトドア系野良ライター

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

Ranking

Recommended Posts

# キーワードタグ一覧

Akimama公式ソーシャルアカウント