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【フィールド動物誌】ケモノの気配を感じながら歩く。クマダナ編

2021.08.03 Tue

二神慎之介

二神慎之介 写真家

動物の気配を感じながらの山歩きは、きっと楽しい

 自然のなかを歩いていて「動物の気配」を感じたことはありますか? アウトドアが好きなみなさんなら、登山やハイキングなど、山や森のなかの道を、長い時間をかけて歩くアクティビティに触れる機会は、きっと多いはず。景色を楽しみながら歩くなかで、ひょっこり出てきた野生動物の姿を目にすることができれば、忘れられない思い出になるでしょう。

 しかし、相手は野生動物。直接お目にかかれる幸運な機会は、そうそうありません。ですが、野生動物はフィールドに「そこにいた」というサインを残していくことが多々あります。木の皮についた爪あとや、泥についた足あと……。私のように動物を撮影する人間は、そういった痕跡を探しながらフィールドを歩き回っています。道のない森の奥、林道の脇、ときには人家のすぐ近く……。野生動物はさまざまな場所で(人間から見れば)密かに行動しています。

「こんなところにいたんだ」「やっぱりこの木に登ったのか」など……。さまざまな動物の行動を思わせてくれる野生動物の痕跡探しは、動物には出会えないまでも、想像力を刺激して、ワクワクさせてくれるおもしろさがあります。

 動物たちの痕跡を見つけながら歩くことができれば、ふだんのアウトドア・アクティビティに、新しい楽しみがひとつ増えるかも知れない。そんなふうに考えた私は、Akimamaで、私がいままで見てきた野生動物の痕跡たちの一部をご紹介できればと思いました。なにも知らなければ、なかなか見つけるのはむずかしいかもしれません。しかしフィールドにどんな痕跡があるのか、知っていれば目に入って来るものです。事実、動物たちの痕跡は、私たちが思うよりさまざまな場所に数多く散りばめられています。


樹上の痕跡、熊棚=クマダナ

 第一弾である今回は、会いたいようで会いたくないような野生動物のNo.1、クマの痕跡についてお話してみたいと思います。私がふだん追っている動物は北海道のヒグマですが、今回ご紹介するのは本州や四国に棲息するツキノワグマの痕跡になります。

 みなさんは、山道を歩いていて、こんな風に不自然な枝の塊を目にしたことはありませんか? これは「クマダナ」といい、クマが木に登って樹上の実や葉っぱを食べた跡です。

 この写真はおそらくコナラの木。ここでクマがドングリを食べたんですね。つまりこのクマダナができたのは、おそらく実がなる季節、秋でしょう。

 こちらは、ミズナラ。同様に葉が枝についたまま枯れています。これは葉がついたまま枝が折れた証拠。クマが木に登って、ドングリを食べようと枝を折って引き寄せたので、こうなったというわけです。

 ちなみに、ドングリは長い冬眠に入る前の、秋のもっとも貴重な食料のひとつといえます。ドングリの実が、どこに、どれだけたくさん生るかで、クマの行動は大きく変わります。ドングリも毎年同じ量が生るわけではありません。その豊凶の差は、実りを求めるクマの行動に大きな影響を与えます。その証拠となるドングリの生る木に残されたクマダナは、クマを追う人間にとって、非常に大切な情報源といえるでしょう。


クマは新芽も食べに、木に登る

 クマダナ、とは少しちがうかもしれませんが、これもクマが木に登った跡です。こちらの季節は初夏。枝の折れた所の色を見ると、痕跡がまだ新しいことがわかります。それにしても、バキバキに折られています。木がかわいそうになってくるくらい……。

 実際にツキノワグマが登っているところを目撃しました。柳の花や、新芽を食べていました。それにしても、細い枝にも器用に登ります。

 クマダナは残るものもあるので、探せば通年、見つけることはできると思いますが、葉が落ちた冬や、まだ葉が茂っていない早春はクマダナを見つけやすい季節といえます。葉が茂っているときに見つけられなかったクマダナを見つけることも。この写真は沢の対岸の斜面。4月に撮影したものです。どこにクマダナがあるか、わかりますか?


決めつけないことが大切。例外の多い、クマの痕跡

 クマダナに限らないことですが、クマの食性は非常に多岐にわたります。私はそこに地域差もあると考えています。この木だからクマは登らない、ドングリだから秋、という固定観念が通用しない場合もあるわけです。たとえば、ミズナラの木へ5月に登るツキノワグマを目撃しました。ドングリではなく、新しく柔らかい葉を食べていたようです。

 つまり、ドングリの木に登るのは秋だけではないということになります。新芽や実だけでなく、咲いた花を食べるために木に登るクマもいます。

 フィールドで見つけたクマダナはなにを意味するのか。その判別は意外にむずかしい。

「果たしてそうだろうか ──。いや、ひょっとするとこんな例外があるかもしれない」

 そんな想像を広げながら、フィールドを歩くのも、また楽しいものです。


ときには民家の裏にも……

 民家の裏や道路わきなど、おどろくほど人間の生活圏の近くで見つかることもあります。これは道路脇にあったクマダナ。ドライブスルー・クマダナですね(笑)。深夜や薄明薄暮など、人の往来が少ない時間帯を狙って来ているのかもしれません。

 いかがでしたでしょうか。「この木にクマが登ったんだ」「季節はいつだろう? ドングリなら9月か、それとも10月か」「新芽なら5月くらいかな?」「来年のいまの時期にもう一度来たら、ひょっとしてクマに出会えるかもしれない……」そんな想像をしながら歩くのも楽しいものです。みなさんもフィールドを歩くとき、たまには梢を見上げて、ぜひクマダナを探してみてください。

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