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【書籍紹介】知りたいこと直球タイトル 『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』

2021.10.20 Wed

林 拓郎

林 拓郎 アウトドアライター、フォトグラファー、編集者

 刺激的なタイトルが、この本の講読動機だ。雪好きとしては、まさにそれこそが知りたいことのど真ん中。いったいこの先、どうなっちゃうの? と。

 2020−2021シーズンは雪もたっぷり降って、いや〜実にいい冬だったとホクホクの笑顔で春を迎えた。

 ではその前の2019-2020シーズンがどうだったかといえば、壊滅的な冬だった。気温が下がりきらず、雪は少なく、北海道では寒さのギアがシフトされないままに時間が過ぎて、そのままぬるっと3月になった印象。厳冬期の1月と2月が丸々ヌケてしまったように感じられたほどだ。

 うん、あれは地球温暖化の影響だったんだねと話すことががある。けれど考えてみるに、そもそも僕らはこのキーワードを口にすると、何について話しているのかがあいまいになってしまう。地球全体がまんべんなく温かくなることをとり上げたいのか、気候変動によって、どこかの地域が局所的に温かくなり、暖冬が来ることを問題視したいのかも区別できていない。

2020年1月初旬の北海道・ニセコ。例年なら毎日深いパウダーに恵まれて溺れるように滑っているはずだ。しかし2019-2020シーズンは気温が下がりきらず、ゲレンデ脇にもクマザサが顔を出したまま。驚くべきことに、ゲレンデの中程では土が出ていた。

 どうも僕らは自然科学的な問題に向き合うとき、言葉の意味を曖昧にしすぎてしまっているのではないだろうか。場合によっては定義以前の、言葉が抱えるニュアンスだけで全体をとらえ、目指すべきゴールも見据えないままでハナシを前に進めているのではないだろうか。

 だとしたら、それは議論や考察ではなく言葉遊びだ。僕らは話を始める前にファクトを明確にし、言葉を定義し、理論的に議論を展開する準備を整える必要がある。というわけでこの本では、この先の雪がどうなるのか考えるんだったらまずは雪が降るシステムや、雪が増えている、減っているという判断をするための測定の仕組みを知りましょう、そして気候変動と異常気象、つまり短期的な気象的イベントのゆらぎと、長期的な地球温暖化というトレンドとを切り分けて考えることを学びましょう、としている。そうした雪についての基礎的な知識を固めることに、本全体の8割を費やしているほどだ。

 なにしろ著者は、気象庁気象研究所 応用気象研究部 主任研究官という肩書の持ち主であり、理学博士かつ気象予報士なのだ。雪と地球温暖化を研究する著者が、それらを考える上で必要な知識を系統立てて説明している。それがこの本の意義だ。

 ラニーニャの年は雪が多いと言われている理由も、この本を読めば理解できる。年末から年始にかけて、日本海側では大雪に見舞われることがあるけれど、そうしたニュースの中で何度も登場するJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)という言葉の中身や、雪害が冬の前半に起こりやすい理由も明確に説明されている。

 こうした基礎的な知識や科学的な説明は面倒くさい、疲れる、として避けられる傾向にある。さっさとタイトルの疑問に答えてほしい。雪は減るの? 増えるの? と。

 けれど正しい考察は基礎知識を積み重ねた先にある。249ページの本書の中で、タイトルの疑問に答え始めるのは第4章に入ってから。いよいよ終盤に向かう40ページほどだ。けれどそこに書かれていることを正確に理解して自分たちの行動を正し、次のステージにジャンプアップするためには、それまでの200ページに渡る助走が必要だというわけだ。

今年の冬は雪が降るのか、降らないのか。現在起こっている事象を学ぶことで、そうした未来に対する漠然とした不安が具体的な疑問に集約し、現実的な策につながる。

 読み終わって感じるのは、地球温暖化や異常気象といった話題を感覚で語ることの危うさだ。科学的に、数字で、傾向を読み取りながら、きちんとした理論とデータを土台にして考える。そうした態度は自然に向き合う際の謙虚さの現れだ。己の感情という曖昧なものを振りかざすことは傲慢でしかないのだと、思い知らされる。

 さらに「地球温暖化」と「気温の上昇傾向」と「異常気象」と「極端な天気」を全部一緒に語ってしまったり、お天気がいつもと違うから「異常気象! 地球温暖化の影響ね !!」と口にしてしまう。それは簡単な結論に着地しようとする思考停止でしかない。

 もしも本気で地球温暖化を案じるなら、取り組むべきことは多岐にわたり、さまざまな要素を取り入れて理論的な考察を重ねることになるだろう。

 そのためには思考の海を泳ぐチカラと知識が必要になる。そう考えるとこの本が、基礎的な事柄に紙幅の多くを割いているというのはとても良心的で、とても建設的だと思っている。

『地球温暖化で雪は減るのか増えるのか問題』
(ペレ出版刊)
著:川瀬宏明
四六判 並製  256ページ
定価:1870円

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