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【フィールド動物誌】シロザケ。船上で感じる、急激な海の変化
2022.02.22 Tue
二神慎之介 写真家
前回の投稿から、随分と時間が経ってしまいました。この秋から冬にかけて、写真絵本の出版、そのプロモーション、さらに写真展の開催……と写真家としてのイベントが続きましたが、合間を縫って、次のテーマであるシロザケを追って北海道の川をめぐっていました。昨年の秋、私のメインフィールドである道東は、大不漁。どの河川にも、遡上するシロザケの姿は少なく、撮影は進んでいません。プロジェクトをはじめた当初は想像もできなかったほどの大苦戦を強いられています。
シロザケは前回ご紹介したカラフトマスと並んで、秋の河川に遡上する、道東を代表する鮭の一種。われわれ日本人が想像する鮭はこのシロザケを指すことが多いと思います。
私のメインの被写体となっていたヒグマを追うなかで、さまざまな河川で遡上するシロザケの姿を目にしてきました。現在は、彼らの姿をより力強くとらえるべく水中撮影にトライしていますが、もうひとつ、ちがった視点で彼らを追い続けています。それは、知床半島、羅臼の定置網漁。漁船にお邪魔して、彼らの漁の風景を撮影しながら、網の中に入る鮭の変遷を見てきました。
自然写真の本格的な撮影をはじめて9年ほどになります。とくにクマの食性を探りながらフィールドを歩いていくなかで、どんなものにも豊凶がある、と感じるようになりました。ドングリやヤマブドウなど、秋の実りはもちろんですが、同様に鮭の遡上量にも豊かな年と、寂しい年があります。水中の撮影はまだはじめて間がありませんが、陸上からも彼らの姿は撮影できます。遡上量が多い年には、とくに注力して鮭の撮影をしてきました。
じつは撮影をはじめる前から、旅行で道東を訪れていました。主な目的は鮭の遡上を見ること。そういった意味でも、シロザケは私にとって身近な魚です。当時は、遡上量が少なくても「秋になれば鮭たちは川に戻ってくるもの。来年はきっと多い」と、とくに不安になることもありませんでした。しかし撮影をはじめて毎年じっくりと見るようになると、どうやらそうではないらしい、と感じるようになります。「去年はダメだった……。でも、今年もダメそうだぞ……」そんな風に思う年が増えてきました。小さな増減を繰り返しながら、全体的な量も減ってきているように思います。
加えて、船上で感じるのは撮れる魚の種類の変遷です。
10年ほど前はイカが非常にたくさん獲れていました。多くのイカ釣り漁船が灯す、たくさんの漁火が、煌々と羅臼の夜の海に浮かんでいました。2019年は豊漁だったとのことですが、かつてのようなたくさんのイカの水揚げを何年も続けて見ることは、近年は無かったように思います。
反対に船上で見かけるようになったのは、ブリです。私が見た感じでは、ここ10年ほどで急激に獲れるようになってきています。私自身もよく食べますが、脂がのって、とてもおいしい。私たちのイメージのなかに “北海道=おいしいブリ” というイメージはまだ定着していないのではないでしょうか? 海の変遷の速さに、人間の意識や印象が追い付いていない。そのように思えるほど劇的な変化が北の海では起きています。北の海だからわかりやすいだけで、本当は私たちの身近な自然にも、大きな変化が起きているのかもしれません。羅臼の海を見続けてきて、そんなことを考えるようになりました。
話をシロザケに戻すと、遡上量を減らしながら、少しずつ遡上のピーク時期が早まっているようにも感じられます。雪が降り、冬になってからの遡上が、かつてほど多くは見られず、10月の遡上数もあまり多くはなくなってしまったように感じています。同様に定置網漁のピークは10月という印象がありますが、昔は11月半ばだった、という言葉も耳にしました。
かつて見られた、川を埋め尽くすような無数のサケたちが遡上する風景は戻ってくるのでしょうか。戻っても戻らなくても、見続けていくことが私の大切な仕事だと思っています。でも私は願いを込めて、きっと戻ってくると信じたい。そのように思いながら、来年の秋も、また道東の川を訪れようと思っています。