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【レビュー】ホーボージュンさんの「アークティック グリップ」レポート・ディレクターズカット編
2017.12.16 Sat
ホーボージュン 全天候型アウトドアライター
「いいから聞いてくれ」とホーボージュンさんの鼻息が荒くなっております。
確かに今年の2月、MERRELLのアークティック グリップについてはレポートしていただきました。が、
「冬を通してアークティック グリップを履いてたオレが、季節を振り返って、さらに突っ込んで、あのシューズの何が素晴らしいかをもっかいちゃんと話したい!」と。
それならというわけで、前回の原稿を改変&バージョンアップ。「オレがホントに伝えたかったのはこれだ!」という、ディレクターズカットのアークティック グリップ・インプレッションをお届けいたします。
長くアウトドアの世界に関わっていると、ときどきとんでもない“発明”や“革命”に出会うことがある。それまでの常識や方法を一気に塗り替え、アウトドアの遊び方やスタイルを一変してしまうようなテクノロジーやギアの登場だ。
たとえば古くはゴアテックスやシンチラフリース、クレイジークリークチェアやサーマレストマットなんかがそうだったし、近年ではLEDヘッドランプやジェットボイル、ダウンセーターやアルファ中綿なんかがそうだろう。
こういった革新的ギアは僕らの目から巨大なウロコをバリッと剥がし、これまで見ていた世界をガラリと塗り替える爆発力がある。そんな驚きの新テクノロジーに新しく加わったのが「アークティック グリップ」だ。
「ものすごいソールが開発されたんだよ」
最初にそのウワサを聞いたのは去年の春のことだ。アメリカで開催されるアウトドア展示会『アウトドア・リテーラーショウ』を取材した知人ライターが教えてくれた。彼はビブラムソールで有名なビブラム社の出店ブースで新型ソールの試作品を試してきたのだが、そのデモはなんとツルツルの板氷の上を歩くというアクロバティックなものだった。
「信じられないと思うけど、板氷の上でもぜんぜん滑らないんだ!」
「アークティック グリップ」と名付けられたこの防滑ソールは、共同開発を行ったメレルがエクスクルーシブとして独占採用することになり、2017年のウインターシーズンに「モアブFSTアイス+サーモ」などのモデルに搭載されデビューした。2016年の初冬にはファーストロットが日本にも上陸。僕はさっそくコイツを使ってみたのだ。
左/厳冬期の北海道だって、きちんとした装備を整えれば車中泊だって無理な話じゃない。そこに犬が加わればぬくぬくと快適に眠ることができる 右/夜中にもよおして外を見たらこんな気温だった。素直に便所に行くか、このまま朝まで耐えるか思案のしどころだ
僕は毎年、冬の間は長いスノートリップに出かけている。ワンボックスカーにスノーボードと犬を積み込み、パウダースノーを追いかけて何十日間も旅するのだ。主にベースとしているのは北海道だが、道東エリアなんかは氷点下なんて当たり前で、ときにはマイナス28度まで冷え込むこともある。だから防寒装備は厳重にしている。もちろん足元も超ゴツいスノーブーツだ。
これまで25年ものあいだ、僕はカナダの有名ブランドの防寒ブーツを愛用してきた。誰もが知っているヘヴィーデューティなスノーブーツだ。「マイナス40度対応」を謳うだけあり、ゴムのコンパウンドは柔らかくて硬化しにくく、大きなブロックソールは排雪効果が非常に高い。厳寒地へ行くときはいつもこればかりだった。
2016-2017年シーズンはそれをメレルに置換したのだが、正直言って最初は不安だった。だって「モアブFSTアイス+サーモ」は小さく、薄く、パッと見は雪国用のスニーカーぐらいにしか見えないからだ。またアークティック グリップにもそれほど期待はしていなかった。なぜならこれまでもさんざん「滑らない」を謳うソールが登場したが、じっさいに使ってみるとガッカリさせられることが多かったのだ。
ところがどっこいぎっちょんちょん。
履いてみてびっくり。歩いてみて絶句。
コイツ、ほんとに滑らない。
ぜんぜん、まったく、ちっとも、微塵も滑らない。
まじで、リアルに、ガチで、驚くほど滑らないのだ。
「またそんな大げさな」きっとそういう人もいるだろう。僕だってそう言ったと思う。実際にコイツを履いてみるまでは。
実際、こんな風景の中を見ながら歩いても、キレイだな〜としか思わない。言っとくけど、道路はガチガチに凍ってる。それでも足元にはまったく不安を感じないのだ
もちろん最初はおそるおそるだった。とくに市街地はヒヤヒヤしていた。スタッドレスタイヤに磨かれた交差点や横断歩道、風の強い橋の上、コンビニの出入り口、大型スーパーの立体駐車場、日中陽が当たる南斜面などはスケートリンクみたいになっていることがある。
さらにこういったアイスバーンの上にうっすらと雪が乗った様な状況はヤバイ。僕は毎年一度や二度は派手ににすっころんで痛い目をみるのだが、今年はまるで違った。凍った歩道を歩いても、小走りに走っても、ほろ酔いで裏町を徘徊しても、まるで普通の圧雪路を歩くようにスタスタと歩けてしまうのだ。これには本当に驚いた。
それからワンシーズンを通して履いてみてよくわかったのだが、スニーカーみたいなルックスも、じつはポイントが高かった。これなら山を下りて、繁華街を歩くときも、ホテルやレストランに入るときも存在を気にせずにすむ。これは通勤や通学で使う人、お客さん相手の商売の人にはうれしいんじゃないだろうか。“雪国の普段暮らし”にもジャストフィットだ。
また旅人目線で見てもこのデザインは嬉しい。現地へのアプローチには飛行機や列車を使うことも多く、そんな時にはボア付のスノーブーツではゴツ過ぎる。颯爽と動く旅人の足元にもコイツはよく似合うと思う。
このシューズがあれば、どんな凍った道でも安心。車にはスタッドレス、人間にはアークティック グリップ。それ以外の選択肢は、あまり考えられない
そして個人的に高く評価したいのが、ドライビングシューズとしても優秀なこと。僕のスノートリップはクルマでの移動と車中泊が大きな柱なんだけど、ミドルカットのこのモデルは運転にまったく支障がない。パウダースノーの中を歩く時や雪かきをする時には「やっぱりハイカットが欲しいなあ」と思ったけど、それは歩きやすさとのバーターだ。カジュアルさと汎用性を考えるとこのミドルカットはなかなか秀逸である。
革新的なコンパウンドテクノロジーで冬のアウトドアライフをガラリと塗り替えたアークティック グリップ。その驚異のグリップ力をぜひとも試してもらいたい。