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「チキナー」を漬けなー!晩秋の河川敷でカラシナ摘んで漬けようぜ

(2018.11.06)

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 先日、ふらりと入った沖縄料理店で「チキナーチャンプル」という料理をメニュー表に見つけた。お店の人にその正体を聞けば、「シマナー」なる野菜を塩漬けしたものだという。チキナーとは、沖縄方言での「漬け菜」のことのようだ。

 ソーキそばを頼んだ後に気づいたので実食は叶わず、どんなものかと家に戻ってから調べてみると、なんのことはない、シマナーとはカラシナのことだった。

そのお店は横浜市鶴見区にある「うちなーすば ヤージ小」(実は有名店らしい)。かつて中南米への移民が旅出った横浜の港湾部には、移住も帰郷も叶わなかった沖縄県の人々や、中南米から日本に戻った沖縄系の日系人のコミュニティがある。一画には数軒の沖縄料理店や中南米料理店があり、沖縄や中南米の物産も手に入る。ヤージ小のソーキそばは沖縄本島や八重山のスープより動物質のダシがきいていたが、これは鶴見の歴史や土地柄を反映しているのかもしれない。これまでに内地で食べた沖縄そばのなかでは、群を抜いて美味しかった。次回こそ、チキナーチャンプルを食べたいぞ。

 ちょうど、家の近所の河川敷では、カラシナの秋の株が伸びているはずだ。さっそく収穫に出かけた。

 夏の間生い茂っていた丈の高い草が枯れ落ちると、地面に直接光が届くようになる。霜が降りるまでの短い間、丈の低い植物たちは、秋の光を受け止めるべくせっせと葉を広げる。

 その風景はさながら春の野。春と同じようにアブラナ科の食べられる野草たちも若葉を伸ばしている。

まるで春みたいだろ? これでも11月なんだぜ。

 食べられる野草といっても、その「食べられる」には大きな幅がある。

 最上級の「野菜並み、あるいはそれ以上に美味しい」から、「調理法によっては美味しい」「不味くはないけど美味くもない。食べる理由もない」「食べることがほぼ修行」まである。

 また、味の良し悪しとは別に、美味しいけれどたくさん食べられない野草もある。多食すると腹を下したり頭痛や胃痛を起こすものだ。

 これまでに図鑑で「食べられる」と紹介されている野草をたくさん口にしてきたが、その多くはワクワクしながら臨んだ私を真顔にさせた。

 そんな野草界にあって、野菜としても扱われるカラシナはダントツに美味しい。カラシナはいわゆる菜の花の一種だ。花芽を摘み取る春は競争相手も多く、取りに出かけても、花芽だけ摘まれていることも多い。

カラシナの花芽は春の味。ベーコンと一緒にパスタにしたり、さっと湯がいておひたしにしても美味しい。

 ところが、今の時期はノーマーク。毎春、カラシナを収穫しているカラシナエリアに来てみると、ちょうど食べごろの株があちこちに顔を出している。食べごろの柔らかそうなものを選んで摘み取っていく。

この風景のなかに、これだけのカラシナが隠れている。

これがカラシナ。ギザギザのある葉と、かじった時に感じる辛味が特徴。正しくは「セイヨウカラシナ」となるようだが、近い種類と交雑することもあるのか、あるいは近似種が紛れているのか、典型的なタイプから「カラシナ?」と疑いたくなるものまである。

右側がセイヨウカラシナで左側はよく似たセイヨウアブラナ。どちらも花芽はいわゆる菜の花として食べられるが、この時期のアブラナの葉はとくに特徴もなく、今のところ活用方法を見つけられずにいる。カラシナとアブラナを間違えるぶんにはなんの問題もないが、食べられる草と毒草を間違えると大ごとになる。野草を摘むときには常に「自分は間違っているかもしれない」と考えるように心がけよう。

 持ち帰ったものを丁寧にすすいで、塩を振ってもんでみる。最初のうちは嵩を保っているが、あるタイミングをすぎると急にしんなりして小さくなった。これをジップロックに入れてひと晩放置する。

 二日目から、使う前に塩を抜けば常備菜として使える。それほど塩を利かせなくても、冷蔵庫への保存で1週間程度であれば変質しない(長期保存は塩分量を高めたほうがいいだろう)。

都市近郊の野草は、農薬がかかっていない代わりに、鳥のフンや犬のおしっこや、おじさんの痰がかかっているかもしれない。念入りに洗おう。

若いものと育ったものを食べ比べてみたが、ある程度大きい株のほうが漬けたときに味が出る。育った株の茎には棘があるので収穫時には注意したい。この棘は塩漬けにしたり火を通すと気にならなくなる。

洗ったら塩をばさっとかける。

そのままぎゅっぎゅっと揉んでいく。最初は変化がないが……

突然くたっとし始め……

恭順。

最終的には大きなボウルいっぱいのカラシナが、ひとつかみになってしまう。

これをジップロックに入れて保存すれば翌朝から食べられる。また、塩もみしてから出て来た汁気を絞るだけでも、生のときに感じられる苦みやえぐみが薄くなる。すぐに食べたい人は塩もみするだけでもいいだろう。ひと晩経ったものと、3、4日が過ぎたものでは大きな味の変化は感じられなかった。

 翌朝、浸かったものを引き上げ、流水で洗い、絞って水気を切り、細かく刻んで炊きたてのご飯に混ぜ込んでみた。カラシナの菜飯である。ひと口食べて思わず叫んだ。

うーまーいーぞー!

 菜飯を口にした私は、心のなかで巨大化して家をぶちぬき、口から光線を出し、裸で大海原を駆け巡った。

 私が何を言っているのかわからない人は「味皇」で画像検索してほしい。「うーまーいーぞー!」は80年代に少年時代を過ごした人間が、美味いものへ贈る最大の賛辞である。

 辛味とともにほろ苦さもある花芽と違って、チキナーにすると苦味が抜けて爽やかな辛味が引き立つ。寝かせている間に加わるのは、乳酸発酵(?)による酸味。香辛料に頼らない辛味と酸味は、おっさんになったからこそわかる滋味。中年の胃袋に、菜飯はしみじみと美味い。

 続けて作ってみたのは、ネットでざざっと検索したレシピで作ったチキナーチャンプルと菜飯スパむすび。

想像チキナーチャンプル。水で戻した車麩を絞って溶き卵をからめ、塩を抜いたチキナー、スパム、キャベツ、タマネギ、ニンジンと一緒にごま油で炒める。最後にちょちょっと醤油とみりん、鰹節で調味して完成。こちらもしみじみ美味かった。本物を食べたことないのでこれが正解とはいえないが、これまで食べてきたチャンプルと比べると、だいたいこの方向性で合っている気がする。思わぬ効果だが、時間が経っても車麩が水気を吸い込むので汁気が出ない。そして汁気を吸った車麩が美味い。自分の人生に、麩のことを美味いと思う時が来るだなんて想像もしなかった。車麩は、多めのほうが美味しいぞ。

スパムの塩気を警戒してチキナーの塩抜きをきつめにしたら、塩気が薄くなりすぎてちょっとぼやけた。今回使ったランチョンミートは「スパム」ではなく「チューリップ」というメーカーだったが、これはスパムよりも塩気が薄いらしい。米と合わせるときは本物のスパムを使った方がよいかもしれない。

 チキナーにすることで、苦味が抜けて保存性も増し、調理の幅も広がるカラシナ。霜が降りるころまでは、柔らかい葉を選んで収穫できる。近所に菜の花が咲く河川敷がある人は、出かけてみる価値がある。ちょっと頑張れば、ひと冬ぶんの漬物を作れるだろう。

 
 
ライター
藤原祥弘

採集系野外活動を中心に執筆とワークショップを展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。好きな獲物はカンパチとノコギリガザミ。twitterアカウントは@_fomalhaut

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