中国地方以外では、コウノトリぐらいレアな鳥かも!? 森の宝石を求めて、吉備の国の里山サイクリングはいかが

2022.06.24 Fri

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

 昔話がよく似合う田舎でのサイクリングは楽しい。雑木の丘や棚田のあいだのワインディングロード。赤や黒の石州瓦と白漆喰の古民家が、視界に現れては消えていく。
吉備高原(吉備中央町)の風景。
 ここは瀬戸内海の北、岡山県の中ほどにある吉備高原。標高300~500mに位置するこの里山には、初夏のいま、もうひとつの魅力が加わる。森の宝石・ブッポウソウだ。
ブッポウソウ。大きさはハトよりひと回り小さい。鳴き声が「ブッ・ポウ・ソウ」だからこの名前になったが、その鳴き声の本当の主は小型のフクロウ「コノハズク」。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種。
 ブッポウソウは全長約30cm。その羽毛は光の具合によって群青、青、濃い緑のグラデーションになり、日本で観察できる野鳥ではほかにない色合いだ。春に東南アジアから九州や本州に渡り、夏のあいだ繁殖のため営巣する。
逆光など光線の具合では、黒くて地味に見えるブッポウソウ。嘴の赤を目印に探すのがコツ。
 ブッポウソウは漢字で「仏法僧」と書く。日本では古くから馴染みの鳥だったが、いまでは全国的に減少、地域によってはコウノトリやトキなみにレアな存在だ。国の天然記念物に指定された4か所のブッポウソウ繁殖地でも、もはや繁殖の記録はないという。
巣箱の雛に給餌中のブッポウソウ。バランスをとろうと羽を広げた瞬間、国内の野鳥ではまれな色彩が。
 しかし、吉備高原にある吉備中央町では奇跡が。1988年にこの地域で確認されたブッポウソウは19羽だったのに、2015年には約450羽(2021年は約600羽という推定も)にまで増えている。一説には、日本に渡るブッポウソウの約3分の1は吉備中央町に飛来するのだという。しかも、まるでスズメのごとく、容易にその姿を観察できるのだ。
ブッポウソウが繁殖する里には、このような懐かしい町並みも点在。吉備中央町の円城地区にて。
 その理由が「巣箱かけ」。ブッポウソウは樹木や木製電柱の洞に営巣して繁殖するのだが、洞があるような大木は減少し、電柱はコンクリート製に置き換わった。そこで、加茂川町(2004年に賀陽町と合併、現在は吉備中央町)では実験期間をへて1992年から電柱に巣箱かけを始める。2012年の記録では、約200個の巣箱のうち約150個がブッポウソウに利用された。
巣箱は電話線の電柱などを利用。開けた集落や県道・国道沿いにも巣箱をたくさん設置してあるので、ブッポウソウの姿を見るのは簡単だ。
 この成果は、自然への人のかかわり方を改めて考えさせる。たとえば、世界遺産の知床半島でヒグマに餌付けをしたり近寄るのは論外だが、だからといって「人は野生動物の暮らしに立ち入るべからず」と決めつけたら、吉備中央町のブッポウソウの復活はなかっただろう。
ブッポウソウの本当の鳴き声は「ゲッゲッゲッ」。「ブッ・ポウ・ソウ」の声の主がコノハズクだと明らかになったのは、なんと1935年(昭和10年)。
 そもそも、人は野鳥にかかわりすぎている。天然林、干潟、農地、草原など、野鳥に欠かせない環境を壊し、農薬で汚染してきた。北米では、過去50年で野鳥の個体数が30億羽近く減少したという。野鳥をそっと見守るだけでは、もはやその減少を止められないのだ。
ブッポウソウの観察小屋が吉備中央町内に4カ所設置されている。もっともアクセス容易なのが「道の駅かもがわ円城」(上画像)。
 6月現在、吉備中央町のブッポウソウは抱卵・抱雛期。親鳥は少し離れた所から巣箱を監視している。7月は雛への給餌期で、観察には最適。そして7月中旬から下旬にかけて巣立ちを迎え、8月には東南アジアへと戻りはじめる。
こんな田舎道をのんびりサイクリングしながら、ブッポウソウに出合ってみませんか? 倍率8倍ぐらいのコンパクトな双眼鏡は必携。
 ところで、ブッポウソウの観察に自転車はグッドチョイス。シルエットはコンパクト、静かにさっと到着し、音もなく立ち去れる。営巣中のブッポウソウにプレッシャーをかけないための「巣箱から50m離れる」「20分以上留まらない」といったガイドラインも、軽くクリアできるはずだ。

■吉備中央町では、ブッポウソウの観察に適したルートや観察小屋の場所、観察の注意点などを、webやパンフレットで公開している。「吉備中央町 ブッポウソウ」で検索。

(文・写真=大村嘉正)

大村嘉正 アウトドアライター、フォトグラファー

四国の瀬戸内海暮らし。仕事は自然・旅系ライター&フォトグラファーで、生きかたはバックパッカーでリバーランナー。著書はラフティングガイドたちの1年を追った『彼らの激流』(築地書館)。

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