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ホーボージュン香港バックパッキング後編「森の驟雨と摩天楼」

(2016.05.02)

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喧噪とネオンの街へ

 ステージ3を無事に歩き終え、僕は水浪窩(スイロンウー)の中継点に到着した。一瞬このままステージ4に突入したい衝動に駆られたが、翌日は豪雨の予報だったのでぐっと我慢し、いったん香港市街に戻ることにする。
帰路のMTRにて。香港の地下鉄は清潔でピカピカ。ずぶ濡れのウェアと泥だらけのトレッキングシューズがちょっと恥ずかしい
 その後はMTRとバスを乗り継いで香港に帰った。バスに揺られて山道を下っていくとどんどん街の灯りが近づいて来て、あっという間に回りを電飾とネオンに囲まれた。通りには人が溢れ、ポルシェやベンツなどの高級車が目抜き通りを流している。
香港中心街をザッピング。表通りのブティックから裏通りの露店まですべてがエネルギッシュで面白い
 窓の外には超高層アパートが林立し、何千、何万という灯りが灯っていた。それはとても不思議な感覚だった。ついさっきまで山の中にいて、まる1日誰にも会わず、誰ともすれ違わなかった。僕のパックはずぶ濡れで、ビブラムソールには泥がついている。汗を吸った化繊のTシャツはザリガニみたいな匂いがして、隣に座ったOLさんが顔をしかめている。そう。これが僕がつい数十分前まで“原野”にいたなによりの証拠だ。

 それが今はこうして大都会の真ん中で、ネオンの流れとクラクションの風を浴びているのだ……。立山連峰から下山して扇沢のターミナルからバスに乗ったら大町が歌舞伎町になっていた……そんな感じのワープだった。

 街に戻った僕は、iPhoneで安宿を探し、廟街(テンプルストリート)の近くにあるバックパッカーハウスに宿を取った。泥だらけの靴を脱ぎ捨て、雑巾のような靴下をゴミ箱に放り込む。部屋のエアコンは冷えすぎでベッドのスプリングはランドクルーザーの板バネみたいに固かったが、それでもここは天国だ。屋根もあるし蚊もいない。

「うひょーーーー!」

 熱いシャワーが僕を“こちら側”に引き戻した。何度も何度も髪を洗い、ドライヤーをつかって洗ったパンツを乾かす。そして夜の街へと繰り出した。
廟街(テンプルストリート)のナイトマーケット(男人街)に繰り出しブルースリーのTシャツを買った。そのあとはフットマッサージでトレッキングの疲れを癒す
 この一帯は香港でももっとも賑やかで猥雑な場所だ。バックパッカーハウスの1階は大衆食堂で、大勢のお客さんがすさまじい量の肉や魚を食べていた。「中国人は4本足は机以外すべて、飛ぶものは飛行機以外すべて食べる」と言われるが、あながちウソとは思えない。厨房の裏では羽をむしられるニワトリが断末魔の叫びを上げ、アスファルトの路上には水槽から逃げ出した上海蟹が逃げ回っている。ポルシェ・カイエンに乗ったバブル紳士が伊勢海老みたいな大きなシャコをバケツ一杯買っていった。あれをぜんぶ食べるのだろうか?

 屋台の向かいはポルノショップで日本のAV女優のポスターが張り出され、その前で白人観光客が嬉しそうに記念写真を撮っている。半ズボンを履いた街の男の子たちが、それを指さして笑っていた。みんな大声で、みんな剥き出しで、そしてみんな楽しそうだ。アジアの混沌。アジアの純真。アジアの旅は夜が楽しい。路地裏が楽しい。
麺類、ダック、チキン、海鮮、お粥……。香港の食堂は何をたべても美味しい。ゴハンの美味しい国はいい国だ
 僕は裏通りから裏通りへ、屋台から屋台へ、露店から露店へと渡り歩いた。露店にはいかにも中国っぽい安くてアヤシイ品物がたくさん売っていて超楽しかった。ちなみにいまナイトマーケットでもっとも熱い商材は「ドローン」。さすが時代の動きに敏感な国際都市香港だ。

 たっぷり喰って、飲んで、そのあとは中国4000年の歴史を誇るフット・マッサージへ。連日のハードな山行で疲れ切った足の筋肉をがっつりしっかりほぐしてもらった。

香港の面白さは自然と街の距離の近さだ
香港島にある「ホンコン・トレイル」は摩天楼を見下ろすエキサイティングなトレイルと聞いて歩きに行ったのだが……。雨と霧でまったく何も見えず。とほほ
 翌日は香港島の「ホンコン・トレイル」を歩き、夜はネオン管がギラギラ光る中環(セントラル)のビル街をさすらった。観光スポットも裏通りもビル街も住宅街もそして街をグルッと取り囲む山と海もすべてがビビッドでパワフルで、僕はこの街がすっかり好きになってしまった。
MTRに乗って中環(セントラル)エリアへ。近代的な高層ビルが建ち並ぶ金融・ビジネスの中心地だ。毎晩午後8時になるとサーチライトやビルの電飾がいっせいに夜空を彩り、幻想的な光景が広がる香港市民はみんな明るくてとてもパワフル。中国そしてアジアの経済成長を牽引するエネルギーが人々の表情にも満ち満ちている
 街のダイナミズムと人々の明るさ、そして街と大自然との距離の近さが香港の最大の魅力だ。アウトドア派もインドア派もバックパッカーもシティスリッカーも垣根を越えてともに集い、自然と都会を楽しめる。いやあ、香港たのしいわ。ちょっと病みつきになりそうである。

 今回僕は6日間の休みとLCC(バニラエアー)の格安チケットを利用してやって来た。航空券は片道たった1万5000円。フライト時間は4時間50分。ほんの少しがんばれば誰でもこんな自由で壮大な歩き旅が楽しめるのだ。

 今年はバックパックに自由を詰め込んで、こんな亜細亜放浪に出てみるのはどうだろう。
(文=ホーボージュン、写真=中尾由里子)

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 次ページでは、今回ホーボージュンさんが旅した香港マップや山行アドバイスなど公開! また現在発売中の雑誌「GOOUT」でもこの香港旅の話を掲載中。

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ライター
ホーボージュン

全天候型フリーライター。6,000mの高所登山からシーカヤックの外洋航海まで、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。『山と渓谷』『ビーパル』『PEAKS』『Field Life』などアウトドア各誌で連載中。公式Twitterアカウントは「@hobojun

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