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知る人ぞ知る!台湾・南湖大山へ。アウトドアコーディネーター小雀陣二さんの山旅と野外料理

2017.07.19 Wed

Akimama編集部

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沖縄本島の遙か南、日本の西端にあたる与那国島。
さらにその110kmほど先に位置する台湾は、
フィリピン、インドネシアへと続く、世界最大の多島海域の北端にあたる。
そんな太平洋の楽園は、知る人ぞ知る「山の島」。
九州本土ほどの大きさの台湾には、最高峰の玉山(3,952m)をはじめとした
3,000mを超すピークが200以上あるという。
そんな南海に浮かぶ稜線を旅するのは、アウトドアコーディネーターにして
野外料理人の小雀陣二さんだ。

  
山と海、そして食文化。
いざ行こう、憧れの島へ!

「波乗りができて、ごはんがおいしく、温泉もあるらしい……。どこか気になる存在で、いつかは行きたい、と思っていたんだよね」

 昨年12月、台湾を訪れたという小雀陣二さん。ピークだけでなく、豊富なトレイルにも恵まれるなかから、3人の仲間と選んだ旅先は、島内にある太魯閣国立公園の最高峰・南湖大山(3,742m)。より美しく、手つかずの自然が魅力だという。

 周囲が900kmほどの台湾は、その中央から東側が南北にわたって山岳地帯で覆われており、平地は島の1/3ほど。つまり、否応なく、都会と自然が近い距離にある。最大の都市は島の北端にある台北。そこから南湖大山の玄関口となる宜蘭へはバスで約1時間、そこから登山口へは、同じくバスで2時間半ほど。容易なアクセスが、台湾の登山、その魅力のひとつだという。
日本の西端である与那国島からは約110km、台湾海峡を挟み、中国大陸まで約150km。島の中央から東側にかけて、山岳地帯が広がっている。島の玄関口は北端の台北、登山の起点になるのは70km離れた宜蘭(画像=Googleマップより)。ガイド同行でないと入山できない、という情報が流れているが、じつはそんなことはない。台湾の国家公園(国立公園)にある入山許可が必要な山でも、正式な手続きを踏めば外国人でも個人で入山することができる(手続きの流れについては、昨年公開された記事に詳しい)。

 ともあれ、台北にたどり着いた一行は、食材を求めて雙連朝市へ。ここは市民の台所ともいうべき市場で、通りを埋め尽くす露天には、生鮮食品や家庭用品、衣料品があふれている。また、朝食として欠かせない豆乳や蛋餅など、暮らしに根ざした味を手軽に楽しめる。次に向かったのは、19世紀から続く台北最古の問屋街・迪化街。ここにはフカヒレなどの高級食材や中国茶葉、乾物やドライフルーツ、漢方薬など、台湾のみならず中国本土が誇る食材がずらりと並んでいる。
左/漢方薬が集まった迪化街の路地。薬草の匂いがたちこめる。右上/雙連朝市は毎朝開催。見たこともない南国のフルーツがところせましを並ぶ。右下/外食が多いという台湾の食事情。朝はなじみの店で温かい豆乳と蛋餅(台湾式クレープ)を食べるのがスタンダードだとか

「はじめ、食事はそれぞれ別で、という話でね。とはいえ、一品くらいはつくろうかと大きなクッカーも用意していたんだけど……」

 見慣れない野菜や果物、豊富な麺類や乾物。旅先で出会う市場には、観光地にはない、土地の素顔が表れる。異国の風物と香り、人々の表情。それらを味わい歩いていると、旅への期待が重なり、しだいに気持ちが高まってゆく。

「それとともに、メンバーの“つくってほしいオーラ”が盛り上がっていくのを感じるわけ。そうなると、好きな食材を探してきて、あとは俺がそれに合わせるから……って言わざるを得ないよね」

 旅する料理人は、しょうがないねと目尻を下げる。以前、小雀さんに聞いたことがある。いちばんやり甲斐を感じるのはどんなときですか。

「もちろん料理をつくることも好きだけど、いちばんテンションがあがるのは、遊んで疲れて腹ペコの仲間が、わくわくしながらごはんを待っていてくれているとき。いまこの瞬間、なにをつくればいちばん喜ばれるかを考え、おなかいっぱい食べさせること……かな」

温かい心遣いを受け、登山口へ
左上/宜蘭は駅の案内所もタクシーも、大衆食堂の店もまったく英語が通じない。やりとりは筆談とゼスチャー、笑顔で。左下/宜蘭のバスターミナルから登山口へ向うバスへ乗車。意外や構内にコンビニもありなかなか快適。右/南湖大山は太魯閣国家公園にあたる。勝光登山口から入山

 翌朝は、買い出し後に移動をすませた宜蘭から、梨山行きの路線バスに乗車。山間部を抜けて標高を上げてゆくが、事前に確認したはずなのに、いつまでたってもバスは止まらない。運転手に不安を伝えると、なにやらそこでは降ろせないといっている様子……。事情を飲みこめないでいると、日本語を話せる女性が間に入ってくれた。連日の雨で登山道の一部が崩壊しているから、別の登山口に連れていってくれる、ということらしい。

「ふたりの好意に驚いていると、困ったことがあったらと、彼女がLINEのアカウントを教えてくれた。この旅では、以降も台湾の人の温かさに助けられっぱなし。ありがたいよね」

 ようやく勝光登山口にたどり着く。標高は1,930mあるが、さすが南国、あたりの植生、空気感はちょうど奥多摩のよう。

 さあ、行こう。

 声をかけて歩き出す。2時間ほど歩いた頃から足元はしだいに苔に覆われ、杉の巨木や奇岩が姿を現す――そう、屋久島のあの雰囲気みたいに。2,795mの多加屯山の山頂に立つが、あたりは変わらず森に囲まれている。初日は新雲稜山荘で荷を解いた。無人の小屋だけど、きれいに整備されており、調理台も使いやすい。小雀さんはすばやくスープをつくり、台北のアウトドアショップでもとめたアルファ米のおこわの封を切る。このおこわが絶品! 外の気温は10度ほど。静かな雨が周囲の森を濡らしている。
12月の南湖大山の登りはじめは、紅葉時期の奥多摩や秩父といった雰囲気。新雲稜山荘はすでに標高2,800m近くあるが周囲は深い森に包まれていた。南湖大山の森林限界は3,000mほど


森を抜けると美しい展望が。
南湖大山の頂へ

 台湾の朝は早い――そう聞いてはいたが、実際、地元の登山者は深夜2時頃から起き出して、出発の準備をはじめる。それにつられて3時起床。この日の行程は長いので、食事を取らずに未明に出発。2時間ほど歩いた審馬陣山あたりから周囲は笹山となり、視界が開ける。槍ヶ岳のような姿が美しい中央尖山(3,705m)、2番目に高い雪山(3,886m)などの姿が現れてゆく。あたりの景色を例えるなら、北アルプス最深部の雰囲気。核心部のような景色に、一同声をあげる。眺めのよい場所で、改めてこの日の朝食を。スープにパン、チーズと果物。手早くすませる朝ごはんに、市場で手に入れた濃厚なバターをそっと添える。
南湖大山登山の初日は展望に恵まれなかったが、2日目以降は快晴に。進むごとに風景が変化し、いくつもの山を歩いてあるいているようだ

 南湖北山の分岐にいたるあたりから、高度感が増してゆく。切れ落ちた岩場につけられたクサリを手に、慎重に登ってゆく。標高は3,500m。もはや南国とは思えない冷たい風が吹きわたる。

 南湖北峰(3,592m)を越えると、目の前には広大なカール地形が広がり、その向こうにそびえる南湖大山。

「アジアというより欧米のトレイルみたいな雰囲気。スキップしたくなるような景色なんだけど、そこは富士山と同じような標高だから、ゆっくりね」
「帝王之山」の異名を持つ、南湖大山。氷河の侵食による、美しいカールが広がる。小さな赤い屋根が、この日の宿泊地である「南湖山荘」

 カールの最低部にある、この日の宿泊地・南湖山荘にいったんバックパックをデポし、改めて、南湖大山を目指す。薄い空気にあえぎながらも、周囲の景色を楽しみながら山頂(3,742m)へ。遠くに見える中央尖山の山並みに惹かれるが、地図を確認すると「死亡稜線」とあり、みなで笑い合う。
登山の対象としては、最高峰の玉山(3,952m)や2番目に高い雪山(3,886m)が日本では有名だが、より人の少なく、自然の濃い南湖大山のほうが、地元では人気だとか。雲をかぶった山並みが「死亡稜線」方面

 山頂をあとにし、山小屋へ。この日は、前日以上に多くの登山者と相宿となった。日本から来たことを告げると、どこの山がおすすめかたずねられる。お互いに情報を交換しながら夕食へ。あるパーティは大陸的な大型中華鍋や寸胴、薬缶をとりだし、肉や野菜を豪快に料理している。この日の小雀ディナーは身体温まるスパイシーな麺料理。夜の空気はきりりと締まり、マイナスに。南の島の、凍える夜。
広大なカールのボトムに位置する南湖山荘。ここを起点に、周囲の山々をめぐる登山者も多いとか。ロケーションもよく快適なため、ハイシーズン(秋〜初冬)の週末は予約が難しいそう

 3日目は凍りついた登山道を、南湖北峰へと登り返す。昨晩聞いた話では、このあたりは最大で1mの雪が積もるとか……沖縄よりもはるかに南なのに。

 前日通った、勝手知ったる稜線を下ってゆく。まだ見ぬ道を歩き続ける縦走もいいけれど、ピストンで行き来する下山路には、物思いに耽ることを許す、心やすさがある。

「旅が旅を呼ぶというのかな。下山路は次の旅を思うことが多いよね」

 自身がガイドを行なう「雀家ツアー」を模索する。ここ台湾を舞台に、山と食、そして海を組み合わせたツアーができないものか――
南湖大山を擁する「北一段」エリアから、谷を挟んだ向かい側が、雪山(3,886m)や大覇尖山(3,490m)などがそびえる雪覇国家公園

旅する料理人のルーツ

 波乗りやMTB、登山にバックカントリースノーボード、さらにはガイドをしていたこともあるカヤック。子どもの頃から台所に立っていたという料理好きではあるけれど、小雀さんのルーツには豊富なアウトドアの経験がある。食材の軽さと仕上がりのおいしさを追求することはもちろん、気温やメンバーの疲労度を見ながら、塩分、油分、酸味を適宜、変えていく……そうした術は、アウトドアのジャンルや国境を越えた、長い旅で身につけていった。

「台湾の旅でバターの塊を背負っていたのは、それがおいしそうだからでもあるし、氷点下の夜が想像できたから」

 小雀さんの強みは、数ある引き出しを、状況に合わせて開けられること。25kgのバックパックを背負い10時間歩いたあと、30kmの海峡横断後、口もきけないような場面で、さっと前菜が出る。嘘でしょと震えていると、どこに隠しもっていたのか、ごろっとした肉がたっぷりのカレーをほらっと手渡してくる。旅人の気持ちを知り抜いたうえで、期待をはるかに飛び越える一品を繰り出してくる。

「いちばんこだわっているのはタイミング。天候や仲間の状況、それまでの行程と今後の予定、手持ちの食材を加味して、なにをどのタイミングでつくるのか、臨機応変にそれを考えていくのが、単純に楽しいんだよね。特別な料理をつくってるわけじゃないけど、手際のよさには自信があるかな」台湾山ごはんの一部。台湾の旅仲間によると「サフランなど、すごく軽いうえに簡単に使えて、味に変化をつけられる。そういうスパイスやハーブを隠し持っているんです!」とのこと

 山旅最後の夜にも、仲間が驚く料理が。

「入山前夜、薑母鴨という鍋料理を食べにいったの。鴨肉と内臓、野菜の旨みの詰まったショウガ味のスープがおいしくて……」

 よかったねと笑う輪にあって、ひとり考えこむ。そうしてデイパックからペットボトルを取り出すと、残ったスープを注いでゆく。

「店員にはクレイジーだと笑われたけど、これを使わない手はないよね」

 そうして持ちかえった出汁に、干しエビ、マッシュルーム、ネギとニンニクを加えたスープを作り、〆はそこに麺を入れる――。一同の驚く顔からのがっつく姿ににっこり。

「アウトドア」というシビアな環境を熟知したうえで、自由な発想を添えてゆく。料理人が山に登るのではなく、海川山に精通したアウトドア好きがフライパンをふるう。それこそが、小雀陣二さんの真骨頂だ。
(文=麻生弘毅 旅写真=斎藤 徹、小澤由紀子、福瀧智子)
 
小雀陣二(こすずめ・じゅんじ)
1969年生まれ。「チュンチュン」の名で知られるアウトドアコーディネーター。神奈川県・三浦半島の先っぽの町、三崎にあるカフェ「雀家」を営む。野外料理人としても各誌をにぎわせており、『3ステップで簡単! ご馳走 山料理』(山と溪谷社)など、多くの著作を持つ。
Photo by M.Kameda(Dishes from Magazine PEAKS & FIELD LIFE)、T.Ota(Portrait)

 
 
台湾の山旅で使ったバックパック
グレゴリー/バルトロ65
■価格39,000円+税
■重量:S2.2kg、M2.3kg、L2.3kg
■容量:S61L、M65L、L69L
■カラー:NAVY、BLACK、RED
グレゴリーのバックパッキングモデル、その遺伝子を受け継ぐベストセラー。快適な背負い心地はそのままに、フロントパネルにつけられた大型U字ファスナーなど、使いやすさにこだわっている。「バックパックには、壊れにくいこと、パッキングしやすいこと、背負い心地がよいことを求めています。それでいてかっこよければなおいい。新しいバルトロはより快適になった印象で、気に入ってます」


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